前回の記事の続きです。
道交法違反(速度違反)の罪数の考え方
道路交通法違反(速度違反)の罪数の考え方に関する判例・裁判例として以下のものがあります。
裁判所は、
- 8月21日午前6畤24分ごろ法定最高速度をこえる90キロメートル毎時の速度で軽四輪自動車を運転し、速度違反の取締りにあたっていた警察官に現認されて停止を求められ、一旦減速して徐行状態となったが、自己の無免許運転の事実が発覚することをおそれて加速し、同日午前6時30分ごろ法定最高速度をこえる102キロメートル毎時の速度で同自動車を運転した場合には、2個の速度違反の罪が別個独立に成立する
としました。
大阪地裁判決(平成2年5月8日)
時間的に近接した2個の速度違反の罪を包括一罪と解した判決です。
【事案】
被告人は、平成元年9月24日午後1時2 2分ころ、普通乗用自動車を運転して、名神自動車国道のA地点において指定最高速度を超える時速145キロメートルの速度で進行したところ、同所に設置されていた速度違反自動取締装置により写真撮影されたが、これに気付かず、その後も時速140ないし150キロメートルの高速度で進行を続け、同日午後1時32分ころ、A地点から約19.4キロメートル離れたB地点において指定最高速度を超えた時速160キロメートルで進行したため、再び同所に設置された速度違反自動取締装置によって撮影された。
【判決内容】
裁判所は、
- 被告人は、平成元年9月24日午後1時過ぎころ、普通乗用自動車を運転し、大阪府吹田市の名神高速自動車国道を進行していたが、友人との待ち合わせの時間が迫っていたため急いでいたことや道路状況が閑散であったことなどから、時速約140キロメートルの高速度で進行するに至り、同日午後1時22分ころ、道路標識によりその最高速度が80キロメートル毎時と指定されている前記記載の場所を時速145キロメートルで進行したため、同所に設置されていた速度違反自動取締装置により写真撮影をされたが、当時サングラスをかけていたので、写真撮影されたことに気が付かないまま、その後も時速約140ないし150キロメートルの高速度で進行し、途中名神上り505キロポスト付近道路から501キロポスト付近道路までの約4キロメートルの急カーブ(指定最高速度70又は80キロメートル毎時)において、事故発生の危険を避けるため、時速約100キロメートルないしはそれを下回る速度に減速して進行した以外は、前同様の理由により、時速約140ないし160キロメートルの高速度で進行を続け、同日午後1時32分ころ、道路標識によりその最高速度が70キロメートル毎時と指定されている公訴事実記載の場所(前記記載の場所から約19.4キロメートル離れた地点。なお、被告人は、右地点の指定最高速度は、前記に記載の場所と同様80キロメートル毎時であると認識していた。)を時速160キロメートルで進行したため、再び同所に設置されていた速度違反自動取締装置により写真撮影されたが、その際も写真撮影されたことに気が付かなかったため、高速度のまま進行を続けたことが認められるそして、本件公訴提起にかかる速度違反と前記記載の速度違反とは、前記のどおり、日時・場所を異にしており、また、進行速度および速度超過の程度も多少相違が見られ、さらに、被告人は途中約4キロメートルの急カーブでかなり減速して進行しており、指定最高速度まで減速したかどうかは明らかでないにしても、少なくとも甚た しい速度違反の状態は右急カーブの地点で一旦解消されたといえるから、右各速度違反は一応別個の行為であると認められる
- しかし、被告人の速度違反の動機は、公訴事実記載の地点と前記記載の地点において全く同一であるのみならず、右各地点間の全行程を通じて一貫しており、また、右各地点における進行速度差は15キロメートル、速度超過の差も25キロメートル(公訴事実記載の場所における指定最高速度についての被告人の認識を基準にすれば15キロメートルの差。)に過ぎず、右各速度違反の日時・場所も、時間にして10分、距離にして約19.4キロメートルと比較的近接しており、さらに、被告人は、途中約4キロメートルの急カーブで前記認定の速度に減速して進行した以外は、終始時速約140ないし160キロメートルの高速度で進行し、しかも、右減速進行した理由は急カーブという自然的・物理的障害によるもので、右急カーブの地点で客観的には甚だしい速度違反の状態が一旦解消されているとはいえ、右地点で速度違反の犯意の断絶があった、すなわち、当初の速度違反の犯意が右地点で一旦解消され、右地点を過ぎる直前あるいは右地点を過ぎてから、新たに甚だしい速度違反の犯意が発生したと見るのは困難であるから、右2個の速度違反は、時間的・場所的に比較的接近した地点において、包括的範囲の下になされたものとして、包括一罪と評価するのが相当である
- なお、近接する2個の速度違反を併合罪とした昭和49年11月28日の最高裁第二小法廷決定(刑集28巻8号385頁)は、本件と事案を異にしているから、右判断の妨げとなるものではない
と判示し、2個の速度違反は、時間的・場所的に比較的近接した地点において、包括的犯意の下になされたものとして、包括一罪と評価するのが相当であるとしました。
大阪高裁判決(平成3年4月16日)
2箇所において検挙された速度違反の罪が包括一罪ではなく併合罪の関係にあるとされた事例です。
【事案】
2つの速度違反事実は、
- 被告人は、平成元年9月24日午後1時22分ころ、道路標識によりその最高速度が80キロメートル毎時と指定されている大阪府吹田市岸部北四丁目名神上り517.9キロポスト付近道路において、その最高速度を65キロメートル超える145キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行した
- 被告人は、平成元年9月24日午後1時3 2分ころ、道路標識によりその最高速度が70キロメートル毎時と指定されている大阪府三島郡島本町大字東大寺名神高速自動車国道本線上り498.5キロポスト付近道路において、その最高速度を90キロメートル超える160キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行した
というものです。
【一審判決】
一審判決は、
- この2つの速度違反事実は動機が同一で両地点間の全行程を通じて一貫しているだけではなく、両地点の進行速度差は15キロメートル、速度超過の差も25キロメートル(被告人の認識を基準にすれば15キロメートル) に過ぎず、両速度違反の日時・場所も、時間にして10分、距離にして約19.4キロメートルと比較的近接しており、さらに、被告人は途中約4キロメートルの急カーブで時速約100キロメートルないしはそれを下回る速度に減速して進行した以外は、終始約140ないし160キロメートル毎時の高速度で進行し、しかも、右減速進行した理由は急カーブという自然的・物理的障害によるもので、右急カーブの地点で客観的には甚だしい速度違反の状態が一旦解消されているとはいえ、右地点で速度違反の犯意の断絶があった、すなわち、当初の速度違反の犯意が一旦解消され、右地点を過ぎる直前あるいは右地点を過ぎてから、新たに甚だしい速度違反の犯意が発生したとみるのは困難であるから、この両速度違反は、時間的・場所的に比較的近接した地点において、包括的犯意の下になされたものとして、包括一罪と評価するのが相当である
としました。
【控訴審判決】
しかし、控訴審判決において、大阪高裁は、 2か所において検挙された速度違反の罪は包括一罪ではなく併合罪の関係にあるとしました。
大阪高裁は、
- 指定速度違反の所為は、その性質上、ある程度の時間的幅、ひいては場所的移動を伴うことを否定できないとしても、いわば一時的、局所的なものとして把握されるべきものであって、車両を運転中、その走行速度が指定最高速度を超えたときには、速度違反の罪が直ちに成立すると解するのが相当であり、このような運転が一定時間以上継続し、あるいはその場所的移動が一定距離以上にわたることは、右罪の成立のために必ずしも必要ではなく、また、他方こうした速度違反の走行が継続するかぎり一罪が成立するにとどまると解するのも相当でない(なお、これらのことは、法定最高速度違反罪についても同じであると解される。)
- もっとも、 こうした速度違反の走行が継続した場合に、事案によっては、これを包括して一罪として処罰する余地のあることまで否定できないにしても、道路の個々具体的な状況等に照らし、新たな危険を生ずるに至らしめたと認められる場合には、犯意を新たにしていることも明らかであって、当然別罪を構成し、そのような場合にまで包括的に一罪として処罰するのは相当でない
- 本件速度違反は、別件速度違反と包括して一罪と評価する余地は全くない
- 本件速度違反は、別個独立の罪として成立し、別件速度違反の罪とは併合罪の関係にあると解するのが相当である
と判示しました。
制限速度を超過した状態で継続して自動車を運転した場合の2地点における速度違反の行為が併合罪の関係にある別罪を構成するとされた事例です。
裁判所は、
- 被告人は、平成元年9月24日、普通乗用自動車を運転して、名神高速自動車国道本線上りを大阪方面から名古屋方面に向かい、(1) 同日午後1時22分ころ、大阪府吹田市岸部北4丁目の同国道517.9キロポスト付近を、指定最高速度80キロメートル毎時を65キロメートル超える145キロメートル毎時の速度で進行通過した後、制限速度超過の状態で運転を続け、急カーブ、急坂、トンネル等の箇所を経て、(2) 同日午後1時32分ころ、大阪府三島郡島本町大字東大寺の同国道498.5キロポスト付近を、指定最高速度70キロメートル毎時を90キロメートル超える160キロメートル毎時の速度で進行し、本件違反行為に及んだというものであるこのように本件においては制限速度を超過した状態で運転を継続した2地点間の距離が約19.4キロメートルも離れていたというのであり、前述のように道路状況等が変化していることにもかんがみると、その各地点における速度違反の行為は別罪を構成し、両者は併合罪の関係にあるものと解すべきである
と判示しました。