道路交通法違反

道交法違反(速度違反)(7)~「オービス(速度違反自動取締装置)の合憲性」「オービスに関する裁判例」を説明

 前回の記事の続きです。

オービス(速度違反自動取締装置)の合憲性

 速度違反を取り締まるシステムとして、オービス(速度違反自動取締装置)があります。

 過去に裁判でオービスの合憲性が争われ、合憲性であるとの判断がなされています。

 これに関する判例・裁判例として、以下のものがあります。

東京簡裁判決(昭和55年1月14日)

【事例】

 オービスⅢ (速度違反自動取締装置)による速度違反の検挙が適法とされ、オービスⅢにより撮影された写真に基づき司法警察員が作成した速度違反認知カードが刑訴法321条3項書面(捜査機関の検証調書)として採用された事例です。

【判決の要旨】

 オービスⅢ(速度違反自動取締装置)による速度取締りは、

  1. 測定装置としての機械の正確性についてプラス誤差が絶対に出ないようになっており信頼性があること、本件発生時に正確に作動しており正確性があること(速度測定の正確性)
  2. 写真撮影がいわゆる肖像権・プライバシーの権利を侵害しない相当な方法をもって行われていること、オービスⅢを手段とする速度違反の取締り及び検挙について、適法性及び相当性が認められること(撮影の許容性)

などから、本件撮影写真・速度測定記録等の証拠は、刑事訴訟法第321条3項による証拠能力を有し、これを証拠として用いることは許容される。

【判決の内容】

1 オービスⅢによる写真撮影はいわゆる肖像権、プライバシーの権利を侵害し憲法13条同35条刑事訴訟法1条同39条3項但書同218条同219条同220条に違反するとの主張について

 憲法13条は「すべて国民は個人として尊重される。生命自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているが、これは、国民の私生活上の自由が警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができ、そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう、姿態(以下「容ぼう等」という)を撮影されない自由を有するものというべきである。

 少なくとも、警察官が正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、個人のいわゆる肖像権を侵害することになり憲法13条の趣旨に反し許されないものであるといわなければならない。

 しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため 必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。

 そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法2条1項参照)、警察官が一般的に許容される限度をこえない相当な方法で個人の容ぼう等を撮影することは許容され、また、犯人の身近にいたため除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等をその対象の中に含むことになっても憲法13条、同35条に違反しないことは判例法上確立した見解であるというべきである(昭和44年12月24日最高裁大法廷判決参照)。

 そして、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容される基準は

⑴ 現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって

⑵ 証拠保全の必要性および緊急性があり

⑶ その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるとき

とせられている(前掲判決参照)。

 これを本件の事案について見れば、

⑴ オービスⅢは重大な事故に直結する、あるいは場合により他人の生命を奪いかねない89キロメートル毎時という最高制限速度違反の犯罪を現に実行中の者の状況を捕捉する場合であり

⑵ 直ちに撮影しなければ現場を走り去ってしまうのであるから証拠保全の必要性があり、かつ、緊急性も存在するといわなければならないし

⑶ その撮影方法も運転者を急停止させる等運転を阻害することはなく近赤外光線を用いて、運転者の視覚を眩惑する危険がない相当な方法で撮影するもの

であるから、まさに前記最高裁判決の示した基準に照らして、写真撮影が許される場合にあたり憲法13条、同35条等に違反するものではないと解される。

 なお、捜査機関がオービスⅢを用いて速度違反を取締るにあたり無制限に運転者を撮影するという事態に至れば、国家機関としての捜査権とオービスⅢによってつねに監視されなければならない国民の基本的人権との比較衡量において、国民の基本的人権である肖像権、プライバシーの権利が捜査権によって侵害されるおそれがあるとの誹りを免かれないものと考える。

 従ってオービスⅢの設置場所や速度違反を取締る走行速度のセット基準については慎重な配慮を要するものというべく、設置場所にもよるが、制限速度を多少超えた程度にセットして写真撮影することは相当ではないものと言わなければならない。

 本件の場合、オービスⅢの設置場所は幹線道路である首都高速道路であり、証人Tの供述に拠ると制限速度を40キロメートル毎時超過した80キロメートル毎時以上の車両を捕捉すべくセットして運用されていたものであるから憲法13条の趣旨に照らしても弁護人の主張の如き違憲、違法の疑いが存しないものということができる。

2 オービスⅢによる速度違反取締りは集会および結社の自由を侵害し憲法21条に違反するという主張について

 弁護人らは、オービスⅢによって写真撮影がなされ、その車両の同乗者が運転者と一緒に撮影されるときは、どのような状況でその場におり、どこへ向かおうとしていたか明らかにさせられるので、プライバシー権の侵害はもとより集会結社の自由の権利が侵害されるおそれがあり、集会結社の自由に対する抑圧手段としてオービスⅢによる情報収集がなされる危険があると主張する。

 集会および結社の自由は、民主主義社会の根幹をなす基本的な人権であり、集会の自由とは多数人が特定の目的のために一時的に会合する自由であり、また結社の自由とは多数人が特定の目的のために継続的な団体を構成する自由であることは言うまでもない。

 そして、多数人とは人数の多寡を問わず2、3人であっても集会および結社になるので、車両の同乗者の場合もこれに該当することは肯定できる。

 しかし、このことは特にオービスⅢに 特有の問題ではなく、従前の速度違反取締りの技術である白バイやパトカー(回転式速度計)、いわゆるネズミ捕り(森田式等)、JRC(光電式)、RS7(レーダー式)の場合においても運転者と同乗者がどのような状況にいたかが取締り警察官に覚知され、更に質問されることもあり得るわけであり、前述のとおり犯罪捜査という公共の福祉のために右の諸権利が相当の制限を受けることは許容されているものと解されるところである。

 従って、弁護人のこの点の主張は採用することができない。

3 オービスⅢによる速度違反取締りは憲法14条に定める法の下の平等に違反するという主張について

 弁護人はオービスⅢは

⑴ 普通乗用車等特定の車種のみをその捕捉の対象としており、

⑵ とくに主として タクシー運転手を捕捉することを目的としていることが取締りの実態である

から、このことは、憲法14条が禁止する「不合理な差別」にあたり法の下の平等に違反する旨主張する。

 もともと憲法14条の法の下の平等の趣旨は民主主義達成上の差別を禁止する「差別の禁止」であって、犯罪捜査は捜査機関の人的物的限界等諸般の事情から全件検挙が困難であり、こうした事情から、交通違反の検挙については捜査官の交通事情に則した裁量が許されるのであって、特定のものに限って検挙するが如き裁量権の濫用にわたることがなければ憲法14条に違反しないものと解される。

最高裁判決(昭和61年2月14日)

 自動速度監視装置により速度違反車両の運転者および同乗者の容ぼうを写真撮影することは、 憲法13条に違反しないとした判決です。

 裁判所は、

  • 速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、 現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいって緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反せず、また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになっても、憲法13条、21条に違反しないことは、当裁判所昭和44年12月24日大法廷判決(刑集23巻12号1625頁)の趣旨に徴して明らかであるから、所論は理由がなく、憲法14条31条35条37条違反をいう点は、本件装置による速度違反車両の取締りは、所論のごとく、不当な差別をもたらし、違反者の防禦権を侵害しあるいは囮捜査に類似する不合理な捜査方法とは認められないから、所論はいずれも前提を欠き、適法な上告理由に当たらない

と判示しました。

【参考】最高裁判決(昭和44年12月24日)の要旨

 警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、 その 象の中に犯人のみならず第三者である個人の容貌等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならないが、その許容される限度について考察すると、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法218条2項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、又裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容貌等の撮影が許容されるものと解すべきである。

 すなわち、現に犯罪が行なわれ若しくは行なわれたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行なわれるときである。

 このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容貌等のほか、犯人の身辺又は被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容貌等を含むことになっても、憲法22条35条に違反しないものと解すべきである。

東京高裁判決(平成5年9月24日)

 速度違反自動監視装置による写真撮影の許容性の判断において、その予告板の有無はこれに何ら影響しないとした判決です。

 裁判所は、

  • 一般的に考えて、速度違反車両の自動撮影を行う速度違反自動監視装置による車両や運転者の容貌等の写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいって緊急に証拠保全をする必要があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるときは、速度違反自動監視装置の設置されていることが当該道路を走行する自動車の運転者らに事前に告知されていない場合であっても、憲法13条に違反しないと解するのが相当である
  • すなわち、速度違反自動監視装置による写真撮影が、当該道路の交通に著しい危険を生じさせるおそれのある大幅な速度超過の場合に限って、その違反行為(犯罪行為)に対する処罰のため証拠保全として行われるものであれば、所論指摘の憲法13条によるプライバシーの保護という観点から考えても、このような犯罪行為を行う者に対して事前に証拠保全のための写真撮影が行なわれることを告知しておく必要はないものと解される(その者らの事前の同意ないし承諾を得ておくということは、実際問題としておよそ考えられないことである。)
  • たしかに、速度違反時同感し装置の設置された道路に置いては、「速度自動取締機設置路線」などと記載した予告板がある程度の数、一定範囲で掲げられているのが通常であるが、このような形での予告は、運転者らにこのような警告を与えることによって、速度違反の行為に出ないという自己抑制の効果が生じることを主たる目的としたものと考えれば足り、刑事手続上は、右のように事前の告知は必要ないと解されるので、このような予告板の有無は、右装置による写真撮影の結果を壮さ及び刑事訴追に利用することについてなんら影響を及ぼすものではないと解される

と判示しました。

オービスによる取り締まりを免れるための行為に関する裁判例

大阪高裁判決(平成12年12月14日)

 速度違反自動監視装置による写真撮影を困難にするナンバープレートカバーを販売した行為について、道路運送車両法98条2項にいう自動車登録番号標の模造ではなく、同条1項の偽造に当たるとした判決です。

【行為】

 速度違反自動監視装置による写真撮影を困難にするナンバープレートカバーを販売して、購入者による速度違反行為を容易にし、また真正な自動車登録番号標とほぼ同じ大きさ、形状の透明アクリル板に、同標の文字及び数字の形に合わせて黒色カーフィルムを切り取ったものを、同標とほぼ同様の記載位置に貼り付け、その裏面から白色塗料を吹き付けて、同標類似物(スペシャルナンバー)を製造販売し、購入者がこれを取り付けた自動車を運行の用に供して使用した事案です。

【一審の判決】

 一審は、上記行為については道路交通法違反(速度違反)幇助の罪、後記行為については、道路運送車両法第98条1項の偽造に当たるとしました。

【大阪高裁の判決】

 一審の判決に対し、大阪高裁は、

  • スペシャルナンバーはアクリル板に、黒色のフィルムを切り取った文字及び数字が貼付されているにすぎないから、真正の物とは異なることが一目瞭然で、同条一項の偽造に当たらないと主張するが、本行為は、その使用方法、目的をも考慮に入れると、スペシャルナンバーの模擬の程度は、一般人の通常の注意をもって真正な物と誤認する程度に達しており、偽造に当たる

としました。

オービスに機能に関する裁判例

神戸地裁判決(平成19年8月29日)

【事案概要と争点・弁護人の主張】

 最高速度を80キロメートル毎時と指定した道路において、最高速度を84キロメートル超える164キロメートル毎時の速度で進行した事実について、公訴事実に「164キロメートル毎時の速度」と記載されているが、本件装置に計測誤差がプラスマイナス2.5パーセントあり、そのプラス誤差が出ないように最初から計測値を本件装置の本来の数値から2.5パーセント下げた記載をしているが、これは誤った速度の表示であり、誤った速度表示による起訴は公訴権乱用であると弁護人は主張しました。


【判決要旨】

 裁判所は、

  • 関係証拠によれば、本件速度違反自動監視装置(オービス)には計測誤差がプラスマイナス2.5パーセントあり、表示される計測値にプラス誤差が出ないように最初から計測値を本件装置の本来の数値から2.5パーセント下げていることはそのとおりであり、更に小数点以下は切り捨てた速度が表示されるようになっていることが認められる
  • そのような措置を講じているのは、実際の走行速度よりもプラスの速度誤差がいかなる場合にも出ないようにするためであり、速度違反車両が速度測定区間内において、斜め走行、急加速、急減速等の特殊な走行をした際の本件装置のプラス誤差を考慮に人れて、本件装置が測定時に表示する速度が最低でも出ていたことを示すようにしているものと認められる
  • そうすると、本件装置のプラス誤差を考慮に入れて表示された速度を起訴状の公訴事実に記載するのは被告人の利益のために当然のことというべきであり、最低でもその速度で走行していたということを示しているものであって、そこには何の誤りもなく弁護人の主張は失当である

としました。

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