前回の記事の続きです。
「直ちに車両等の運転を停止して」とは?
道路交通法違反(救護措置義務違反)は、道交法72条1項前段で、
- 交通事故があったときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない
と規定されます。
「直ちに車両等の運転を停止して」とは、
交通事故が発生したときは、すぐ車両等を止めて、必要な措置をとれ
という意味です。
このように、まず停車する義務を課したのは、
車両の交通による人の死傷または物の損壊があった場合において、単に運転中の車両から望見したのみでは、被害者の救護の要否および道路における危険防止措置の要否を確認することは困難であり、一旦停車して、子細にこれを調査しなければ、その要否の判明しない場合がきわめて多いことから、車両の交通による人の死傷又は物の損壊があった場合、被害者の救護並びに道路における危険防止等の前提として、運転者に対して必ずいったん停止して負傷者の救護の要否、あるいは道路における危険等の有無を確認させるため
です。
この点に関する以下の裁判例があります。
裁判所は、
- 道路交通法第72条第1項前段の規定は、車両の交通による人の死傷又は物の損壊があつた場合において、運転者に対して必ず一且停止して負傷者の救護の要否、あるいは道路における危険の有無を確認すべき義務を負わせたものと解するのが相当である
と判示しました。
福岡高裁判決(平成3年12月12日)
裁判所は、
- 道路交通法72条1項前段は車両の交通による人の死傷又は物の損壊があった場合、被害者の救護並びに道路における危険を防止する等の必要な措置を採ることを義務付けているが、およそ、車両の交通によって人の死傷
又は物の損壊を生じた場合、単に運転中の車両内から望見したのみでは被害者の救護の要否、及び道路における危険防止措置の要否を確認することは困難であり、一旦停車して子細にこれを調査しなければその要否の判明しない場合が極めて多いことに鑑みると、同条は、事故を起こし、未必的にしろ人に死傷を与えあるいは物の損壊があったことを認識した運転者に被害者の救護及び道路における危険防止の義務を尽くさせる前提として、必ず一旦停止して負傷者の有無、その救護の要否、或は道路における危険の存否を確認すべき義務を負わせたものと解するのが相当である
- そうすると、被告人は、衝突後、交差点を通過した地点で一時停止したが、自車内から被害車両の進路方向を一瞥しただけで、自車から降りて事故現場を確認しないまま現場を離れ、更に約60メートル西進した先のホテルの前の路上で停車して下車したものの、被告人車両の損傷状態を確認したのみであって、右義務を尽くしていないことは明らかである
と判示しました。
「直ちに」とは?
交通事故が発生した場合に負傷者の救護措置が遅れたため死亡に至ったり、その車両を放置したまま危険防止の措置をとらなかったため、後続車がさらに衝突したりする事例は数多いです。
そのため、車両の運転者は事故を起こしたときは、即時に救護等の措置をとらなければなりません。
道交法72条1項前段の「直ちに」とは、「すぐに」という意味です。
法令上の類似の用語としては、このほか「遅滞なく」と「すみやか」とがありますが、「直ちに」は、通常、これより急迫の程度が高い場合について用いられるとされます。
したがって、例えば、目的地が近いからとか緊急の用務があるとかいう理由により、いったん目的地に赴き、引き返してから現地において、被害者の救護その他の緊急措置にとりかかることは許されません。
この点に関する以下の裁判例があります。
裁判所は、
- 「直ちに」とは、道路交通法第72条第1項前後の「直ちに」と同じくその意義は、時間的にすぐということであり「遅滞なく」又はというよりも即時性が強いものであるところ、同条1項前後の規定によれば交通事故があった場合、事故発生に関係のある運転者等に対し直ちに車両の運転も停止し救護等の措置を講ずることを命じているのであるから、これと併せてみると同条1項後段の「直ちに」とは右にいう救護等の措置以外の行為に時間を籍してはならないという意味であって、例えば一旦自宅へ立帰るとか、目的地で他の用務を先に済すというような時間的遷延は許されないものと解すべきである
- 同法が右報告義務を認めた所以は、交通事故の善後措置としては、先ず事故発生に関係のある運転者等に負傷者の救護、道路における危険防止に必要な応急措置を講ぜしめるとともに、これとは別に人身の保護と交通取締の責務を負う警察官をして負傷者の救護に万全の措置と、速やかな交通秩序の回復につき適切な措置をとらしめるためであるから、現場に警察官がいないときの報告も、時間を籍さず直ちになざねばならないからである
- 道路交通法第72条第1項後段にいわゆる「もより」の警察署(派出所又は駐在所を含む)とは、必ずしも事故現場の所轄警察署に限らず、また、事故現場から最短距離の警察署であることを要しないが、報告義務を認めた法の立法目的に照らし、事故現場から手近かな又は最も便宜な警察署をいうものであると解する
と判示しました。