前回の記事の続きです。
常習累犯窃盗罪の常習性が認められた裁判例
常習累犯窃盗罪の常習性が認められた裁判例として、以下のものがあります。
仙台高裁判決秋田支部(昭和34年9月23日)
裁判所は、
- 刑務所出所後半年も経過しないうちに、さしたる理由もないのに20日間に10回の窃盜を敢行した場合には、その動機、手口、反復累行の期間、回数、前科の回数、それらの前科がいずれも窃盗罪によるものであること、非行歴その他諸般の事情に徴して常習性を認定し得る
と判示し、常習累犯窃盗罪の常習性を認めました。
大阪高裁判決(昭和42年7月24日)
裁判所は、
- 49日間という短期間内に19回の窃盗を反復して犯じた場合には、それだけで常習性が認められるものであり、相当長期間にわたって慣行的に反復継続されなければならないというものではない
と判示し、常習累犯窃盗罪の常習性を認めました。
東京高裁判決(昭和50年10月13日)
裁判所は、
- 15日間に2回にわたり、止宿先の旅館の茶の間や主人夫婦寝室に侵入し、タンス内の現金の各一部をそれぞれ抜き取り窃取した場合に、それらの行為の手口、方法、反復累行の事実に加えて、10年以内に窃盗罪2犯と常習累犯窃盗罪1犯の前科があり、それぞれ受刑した事実を総合じて常習性を認めることが可能であり、本件各犯行と前科との間に犯行の動機、態様、手段等に明白な相違がある場合には常習性を認定できないと制限的に解釈すべきではない
と判示し、常習累犯窃盗罪の常習性を認めました。
福岡高裁判決(昭和35年4月19日)
裁判所は、
- 3年7か月余りの短期間内に窃盗の前科3犯を有しそのうち2犯が万引きであって、いずれも刑務所出所後短期間で犯行に及んだ経歴を有する者が、刑務所釈放後8日目に万引きを行った場合には、態様が定型化しており、窃盗行為を反復累行する習癖に起因するものと認められ、常習性を認定しうる
と判示し、常習累犯窃盗罪の常習性を認めました。
高松高裁判決(昭和38年9月9日)
裁判所は、
- 10年以内の3犯の前科のほかに、窃盗の前科7犯を有する者が、2日間に2件の窃盗を行った場合には、刑執行終了後約2年間窃盗行為をしなかったとしても窃盗の常習性が消滅したとするのは早計であるし、上記3犯の前科のうち最初のものが常習累犯窃盗罪で、その後の2犯が単純な窃盗罪によるものであるからといって常習性を否定ずることはできない
と判示し、常習累犯窃盗罪の常習性を認めました。
東京高裁判決(昭和31年7月7日)
裁判所は、
- 2日間に窃盗・同未遂を2回行った場合に、それが職業的あるいは習癖的なものではなくても、前科の事実と相まって常習性を認定することが可能である
と判示し、常習累犯窃盗罪の常習性を認めました。
広島高裁判決(昭和24年10月19日)
裁判所は、
- 最後の刑を終えてから2年6か月後に本件犯行に及んだもので、その間終始正業に従事していたとしても常習性認定の妨げとはならない
と判示し、常習累犯窃盗罪の常習性を認めました。
広島高裁判決(平成10年3月19日)
裁判所は、
- 昭和27年3月から平成4年9月までの間、窃盗罪又は常習累犯窃盗罪によって合計12回懲役刑に処せられ、通算約40年間近く服役していたものである上、本件(平成8年4月、店内から靴等の商品を万引きしたもの)は、常習累犯窃盗罪等による前刑の執行終了から約5か月後の犯行、前刑は、常習累犯窃盗罪等による前々刑の執行終了から1か月も経過しないうちの犯行であるなど、被告人は、前刑出所後短期間のうちに窃盗を行って再び服役するということを繰り返していること、被告人の多数の前科の中には、万引きの前科は存しないが、万引きと形態において類似する置き引きや自転車盗の事案も認めら况ること、本件の被害物品は、被告人の窃盗の前科における被害物品と類似性を有することなどの事実を総合考慮すれば、被告人は、反復して窃盗行為をする習癖があり、本件窃盗は、その習癖の発現として行われたものであると認めることができる
と判示し、常習累犯窃盗罪の常習性を認めました。
裁判所は、
- 被告人は、昭和58年、昭和61年、平成2年、平成7年、平成8年の5回にわたり刑に処せられ服役しており、これらの前科の事案のうち、前の3回は侵入窃盜であり、後の2回は万引きによるもので、いずれも生一活に困った状態の中で手つ取り章く金品を取得する方法として犯されたものであること、被告人は、前刑で仮出獄してからいまだ約9か月、更生保護会を出て野宿生活を始めてから約1か月しか経過していないのに再び窃盗の犯行に及んでいること、被告人は、貯蓄する意欲に乏しく、更生保護施設の職員から貯金するようにたびたび言われ、その余裕があったにもかかわらず、就労して得た金を飲食遊興に当てるなどして使い果たし、自立するのに必要な貯金をするなど生活態度を改善する努力をしないまま、特に滞在を許された期間を含め約8か月間もの間滞在した後、ついに更生保護施設を出ざるを得なくなって公園で野宿をするようになり、その後は働こうとせず、自ら生活費の得られない生活状態に身を置いた中で、本件犯行に及んでいること、本件犯行は、野宿していた公園の野球場のバックネット裏に三脚のついたビデオカメラが設置されているのを発見するや直ちにそれらを窃取する決意をし、これを実行したというもので、その動機は、入質換金して生活費等を得るためであり、前科にも同じく入質換金を動機とするものが含まれていること等の諸事情を総合すると、被告人には、少なくとも生活に困るような状況下においては窃盗を反復累行するという習癖が形成されていたと認められ、機会があればそれが発現する状態にあって、本件犯行はその習癖の発現として行われたものと認めることができる
と判示し、常習累犯窃盗罪の常習性を認めました。
常習累犯窃盗の常習性が否定された裁判例
常習累犯窃盗の常習性が否定された裁判例として、以下のものがあります。
広島高裁判決岡山市部(昭和30年2月1日)
裁判所は、
- 両親に死別した身寄りのない被告人が、30年間余り流浪の生活を送りながらも窃盗の罪を犯した形跡がなかったところ、昭和25年から昭和27年にかけて柿、米、自転車1台を窃取して3回の処罰を受けたが、それは流浪しているうちに食物に窮した上での行為であり、被告人の境遇上の事情に負うどころが多く、窃盜の習癖の発現したものと認めることはできない
と判示し、常習累犯窃盗罪の常習性を否定しました。
東京高裁判決(平成5年11月30日)
裁判所は、
- 前科の態様がいずれも古いアパートの所携のドライバーで錠を外して侵人し主として現金を盗んだものであるのに対して、本件犯行はスーパーマーケットで買い物をした際に缶詰2個を万引きしたという事案であり、動機、態様を著しく異にし、本件が窃盗の習癖の発現としてなされたものであるとは認められない
と判示し、常習累犯窃盗罪の常習性を否定しました。