刑法(贈収賄罪)

単純収賄罪(9)~賄賂とは?⑧「賄賂の供与が公然と行われても賄賂性は失われない」を説明

 前回の記事の続きです。

賄賂の供与が公然と行われても賄賂性は失われない

1⃣ 公務員に対するある利益の供与がその職務行為と対価性が認められる不法な利益の供与であれば、これが公然と行われようと賄賂性が失われるものではありません。

 このことは、寄付についても同様ですし、その他正規の手続を採って受け入れられた利益の場合のすべてに共通します。

 賄賂性の認定の上で、利益の供与が「公然」と行われたことが影響するかどうかが問題となった以下の判例があります。

最高裁決定(昭和30年6月22日)

 区役所教育課学事係長である被告人が、小学校建設促進に尽力したことについて、区役所内議会副議長室において、記念品の贈呈式が行われ、同人の所属する教育課長が課員を代表してPTAの建設促進委員長からその場で記念品料として現金の堤供を受け、後に被告人においてこれを受領したという事案です。

 弁護人から、このように公然となされた記念品代の贈呈は、社会的、儀礼的なものであるので収賄罪は成立しないとの主張がなされました。

 この主張に対し、最高裁は、

  • 本件金員は、被告人が前記係長としての職務に関し、小学校建設に尽力した謝礼として建設促進委員長から贈与されたものであって、賄賂に該当するものであり、公然と行われたとしても、賄賂性が失われるものではない

としました。

2⃣ なお、実際には、賄賂に該当するような利益の供与は秘密裡に行われることが一般であり、秘密裡に行われる場合は、賄賂性について強度の推定が働きます。

 これに対し、公然と行われている場合は、上記判例で弁護人が主張するように、社会通念上、儀礼的な贈与に該当することが少なくなく、その意味では、現に行われた贈与が儀礼的なものか、あるいは職務と具体的な対価関係が認められる場合かについて慎重な判断を必要とすることとなります。

 また、 このような場合は、供与者にも受供与者にも違法性の意識(賄賂を供与していることの認識)が欠けている場合が少なくないと考えられます。

 結局、公然性と賄賂性の問題については、「公務の公正さに対する信頼を害するかどうか」という検討を行う必要があります。

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