前回の記事の続きです。
「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」とは?
不同意わいせつ罪(刑法176条)の条文にある「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」の意義を説明します。
「同意しない意思を形成…することが困難な状態」とは?
「同意しない意思を形成…することが困難な状態」とは、
わいせつな行為をするかどうかの判断・選択をする契機や能力が不足し、わいせつな行為をしない、したくないという発想をすること自体が困難な状態
をいいます。
例えば、
- 眠るなどして意識がない状態
- 知的障害などの影響により、わいせつな行為に同意しないかどうかの判断をするだけの能力が不足している状態
- 虐待を受けていたため、わいせつな行為に同意しないという考え自体が浮かばない状態
- わいせつ行為が不意打ちで行われたため、状況が把握できない状態
- 驚きや恐怖などで思考停止状態になり、わいせつな行為に同意しないかどうかの判断自体ができない状態
が挙げられます。
「同意しない意思を…表明…することが困難な状態」とは?
「同意しない意思を…表明…することが困難な状態」とは、
わいせつな行為をしない、したくないという意思を形成すること自体はできたものの、それを外部に表すことが困難な状態
をいいます。
例えば、
わいせつ行為をしない、したくないと思ったものの、それを犯人に伝えたときの不利益(犯人を怒らせてひどい目に遭わされるなど)を憂慮して言い出せない状態
が挙げられます。
「同意しない意思を…全うすることが困難な状態」とは?
「同意しない意思を…全うすることが困難な状態」とは、
わいせつな行為をしない、したくないという意思を形成し、又は、その意思を表明したものの、その意思のとおりになるのが困難な状態
をいいます。
例えば、
- 犯人に押さえつけられて身動きがとれない状態
- 恐怖心からわいせつな行為をしたくないという意思表明以上のことができない状態
が挙げられます。
「…困難な状態」とは?
不同意わいせつ罪の成立を認めるに当たり、「困難」の程度は問いません。
改正前刑法の強制わいせつ罪(改正前刑法176条)では、暴行又は脅迫の程度について、
- 被害者の意思に反して、わいせつ行為を行うに必要な程度に抗拒を抑制する程度・態様の暴行であれば足りる
とされ、改正前刑法の強制性交等罪(刑法177条)では、暴行又は脅迫の程度について、
- 相手の反抗を著しく困難ならしめる程度
とされていましたが、不同意わいせつ罪と不同意性交等罪では、「困難」が著しく困難である必要はなく、困難の程度は問わないとされます。