前回の記事の続きです。
刑法176条2項の不同意わいせつ罪の説明
刑法176条2項の不同意わいせつ罪について説明します。
刑法176条2項は、
行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする
と規定します。
2項は、
- 被害者が行為の性的意味を誤信している場合(被害者が犯人にされたわいせつな行為をわいせつな行為でないと誤信していた場合)
- 被害者が行為の相手方について人違いをしている場合(被害者がわいせつな行為をした犯人を夫などと人違いした場合)
についても、不同意わいせつ罪が成立することを明示したものです。
①「被害者が行為の性的意味を誤信している場合」の説明
刑法176条2項の条文中にある「行為がわいせつなものではないとの誤信」とは、
現に行われようとしている行為が、わいせつなものではないとの錯誤があること
を意味します。
例えば、整体師によるマッサージがわいせつな行為であるのに、被害者は整体行為であると誤信している場合が該当します。
被害者が犯人にされたわいせつな行為をわいせつな行為でないと誤信していた場合でも不同意わいせつ罪が成立が成立する理由
被害者に行為がわいせつなものではないとの誤信があった場合には、被害者は外形的な「行為」には同意しているとしても、それが「わいせつな」行為であることを前提として同意しているものではありません。
この場合、被害者は「性的行為をするかどうか」についての前提となる認識を欠くことになるので、わいせつ行為をされることについて被疑者の自由な意思決定があったとはいえません。
よって、犯人が上記①の被害者の誤信を利用してわいせつな行為を行った場合は、被害者の性的自由・性的自己決定権の侵害があったといえ、不同意わいせつ罪が成立することとなります。
②「被害者が行為の相手方について人違いをしている場合」の説明
刑法176条2項の条文中にある「行為をする者について人違い」とは、
わいせつ行為者(犯人)の同一性について錯誤があること
を意味します。
例えば、深夜に住居に侵入した犯人が人妻を暗闇の中で襲ってわいせつな行為をした場合に妻が自分の夫だと勘違いしてわいせつな行為を受けた場合が該当します。
ただし、被害者がわいせつ行為者(犯人)の同一性は正しく認識した上で、犯人の属性を錯誤してわいせつ行為を受けた場合には、2項の「人違い」には該当せず、不同意わいせつ罪は成立しません。
例えば、結婚詐欺師を本当の婚約者であると錯誤してわいせつ行為を受けた場合には、2項の「人違い」には該当せず、不同意わいせつ罪は成立しません。
被害者が行為の相手方について人違いをしている場合でも不同意わいせつ罪が成立が成立する理由
わいせつ行為をする者について人違いがある場合には、被害者は、現に目の前にいる相手(犯人)とは別の人とのわいせつな行為には同意しているとしても、現に目の前にいる相手(犯人)とのわいせつな行為に同意しているものではありません。
この場合、被害者は「誰と性的行為をするか」についての前提となる認識を欠くことになるので、犯人にわいせつな行為をされることに対して自由な意思決定があったとはいえません。
よって、犯人がその誤信を利用して被害者にわいせつな行為を行った場合は、性的自由・性的自己決定権の侵害があったといえ、不同意わいせつ罪が成立することとなります。
刑法176条2項の不同意わいせつ罪の故意
不同意わいせつ罪は故意犯です。
前回の記事で、不同意わいせつ罪の故意が認められるためには、
- 性的意図
- 「刑法176条1項1号~8号に掲げる行為・事由その他これらに類する行為・事由」があることの認識
- 「刑法176条1項1号~8号に掲げる行為・事由その他これらに類する行為・事由」により、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」になり、又はその状態にあることの認識
- 被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」の下で、又はその状態を利用して、わいせつな行為をすること
の認識
の4つをいずれも認識している必要があることを説明しました。
これに加え、刑法176条2項の不同意わいせつ罪については、
- 被害者に、行為がわいせつなものではないとの誤信をさせることの認識
又は
- 被害者に、わいせつ行為をする者について人違いをさせることの認識
又は
- 被害者が行為がわいせつなものではないとの誤信、又は、人違いをしていることの認識
のいずれかの認識を犯人が持った上で、さらに、
- その誤信若しくは人違いの下で、又はその誤信若しくは人違いを利用して、わいせつな行為をすることの認識
を犯人が持っていることが必要となります。