これから7回にわたり、性的姿態等撮影罪(性的姿態撮影等処罰法2条)を説明します。
性的姿態撮影等処罰法の新設
性的姿態撮影等処罰法は、令和5年7月13日に施行された新しい法律です。
性的姿態撮影等処罰法は、
- 性的姿態等の撮影行為(スマートフォンや小型カメラを用いた盗撮、不同意わいせつ(刑法176条)や不同意性交等(刑法177条)などの性犯罪時に被害者を撮影するなど)
- 性的姿態等の影像の提供・保管・送信・記録する行為
を処罰するものです。
性的姿態撮影等処罰法は、
- 2条で「性的姿態等撮影罪」… 性的姿態等の影像を生み出す行為を処罰
- 3条で「性的影像記録提供等罪」… ①性的影像録を特定・少数の者に提供することを処罰、②性的影像記録を不特定・多数の者に提供すること、又は、公然と陳列する行為を処罰
- 4条で「性的影像記録保管罪」… 提供又は公然陳列の目的で性的影像記録を保管する行為を処罰
- 5条で「性的姿態等影像送信罪」… 不特定・多数の者に性的影像記録を送信する行為を処罰
- 6条で「性的姿態等影像記録罪」…5条の「性的姿態等影像送信罪」で影像送信された性的影像記録を保存する行為を処罰
を規定します。
性的姿態等撮影罪(2条)とは?
性的姿態等撮影罪は、性的姿態撮影等処罰法2条において、
1項 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する
1号 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法第177条第1項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
2号 刑法第176条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
3号 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
4号 正当な理由がないのに、13歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は13歳以上16歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
2項 前項の罪の未遂は、罰する
3項 前二項の規定は、刑法第176条及び第179条第1項の規定の適用を妨げない
と規定されます。
1項は、性的姿態等撮影罪の行為について規定します。
2項は、性的姿態等撮影罪の未遂について規定します。
3項は、性的姿態等撮影罪の撮影行為が、不同意わいせつ罪(刑法176条)又は監護者わいせつ罪(刑法179条1項)にも当たる場合に、性的姿態等撮影罪の成立により不同意わいせつ罪又は監護者わいせつ罪の成否が影響を受けるものでないことを明らかにしたものです。
被害者に対し、被害者に同意する意思がないのに被害者自身の性器や乳房を露出した姿態をとらせてそれを自撮りさせるなどして撮影させた場合、不同意わいせつ罪又は監護者わいせつ罪が成立する場合があります。
※ 詳しくは不同意わいせつ罪(10)の記事参照
立法趣旨
性的姿態等撮影罪は、被害者の意思に反して性的な姿態が撮影され、それが影像として残ると、他人や不特定多数の者に見られるという重大な危険が生じることから、被害者の意思に反して性的な姿態を撮影する行為を処罰するものです。
保護法益
性的姿態等撮影罪の保護法益は、
自己の性的な姿態を他人に見られないという性的自由・性的自己決定権
です。
主体(犯人)
基本的に、主体(犯人)に制限はありません。
ただし、2条1項4号に関し、
- 被害者が13歳以上16歳未満の者である場合
の主体(犯人)は、
- 犯人の年齢がその被害者が生まれた日から5年以上前の日に生まれた年齢である場合に限り処罰する
という限定(年齢差要件)があります。
主体(犯人)にこのような年齢差要件があるのは、
13歳以上16歳未満の被害者については、「性的な意味を認識する能力」が一律に欠けるわけではないものの、「性的姿態撮影行為の相手方との関係において、その性的姿態撮影行為が自己に及ぼす影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手方に対処する能力」が十分でなく、犯人との関係が対等でなければ、有効に自由な意思決定ができる前提となる能力に欠ける
と考えられ、その上、
犯人と被害者の間に年齢差が5歳以上ある場合には、性的姿態撮影行為についての自由な意思決定の前提となる対等な関係は存在しないといえる
とされるためです。
「当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」とは?
2条1項4号の条文中にある「当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」とは、
13歳以上16歳未満の者の生年月日の前日から起算して5年以上前の日に生まれた者
をいいます。
なお、13歳以上16歳未満の被害者において、犯人が「その者(被害者)が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者」であることを認識していることは必要ないとされています。
被害者が13歳未満の場合には主体(犯人)に制限はない
被害者が13歳未満の場合には、主体(犯人)に上記のような限定はなく、13歳未満の被害者に性的姿態撮影行為をすれば、犯人の年齢が被害者と近かろうと、性的姿態等撮影罪が成立します。
これは、
13歳未満の被害者については、「性的な意味を認識する能力」が備わっておらず、有効に自由な意思決定をする前提となる能力が一律に欠ける
と考えられているためです。