前回の記事の続きです。
性的姿態等撮影罪の行為
性的姿態等撮影罪の規定である性的姿態撮影等処罰法2条1項1号~4号は、
1項 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する
1号 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法第177条第1項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
2号 刑法第176条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
3号 行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
4号 正当な理由がないのに、13歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は13歳以上16歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
と規定します。
この記事では、性的姿態等撮影罪の行為うち、
- 1号の「正当な理由がないのに、ひそかに…撮影する行為」
- 2号の「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて…撮影する行為」
の意義を説明ます。
1号の「正当な理由がないのに、ひそかに…撮影する行為」とは?
1号の「ひそかに…撮影する行為」とは、
被害者に対象性的姿態等を撮影することを知られないような態様で撮影する行為
をいいます。
「正当な理由」として、例えば、
- 医療行為としての必要性から医師が被害者の上半身裸の写真を撮る場合
- 親が家族写真として、子供と一緒に風呂に入っている写真を撮る場合
が挙げられます。
「正当な理由」であるか否かの判断は、
- 撮影行為者(犯人)と撮影対象者(被害者)の関係
- 撮影の目的、撮影方法
- 性的姿態の内容
などを総合して判断されます。
2号の「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて…撮影する行為」とは?
2号の「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて…撮影する行為」とは、
不同意わいせつ罪(刑法176条)と同様の原因行為・原因事由により、同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて撮影する
という意味です。
そうであるので、以下①~④で不同意わいせつ罪(刑法176条)の条文にある「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」の意義を説明します。
①「同意しない意思を形成…することが困難な状態」とは?
「同意しない意思を形成…することが困難な状態」とは、
わいせつな行為をするかどうかの判断・選択をする契機や能力が不足し、わいせつな行為をしない、したくないという発想をすること自体が困難な状態
をいいます。
例えば、
- 眠るなどして意識がない状態
- 知的障害などの影響により、わいせつな行為に同意しないかどうかの判断をするだけの能力が不足している状態
- 虐待を受けていたため、わいせつな行為に同意しないという考え自体が浮かばない状態
- わいせつ行為が不意打ちで行われたため、状況が把握できない状態
- 驚きや恐怖などで思考停止状態になり、わいせつな行為に同意しないかどうかの判断自体ができない状態
が挙げられます。
②「同意しない意思を…表明…することが困難な状態」とは?
「同意しない意思を…表明…することが困難な状態」とは、
わいせつな行為をしない、したくないという意思を形成すること自体はできたものの、それを外部に表すことが困難な状態
をいいます。
例えば、
わいせつ行為をしない、したくないと思ったものの、それを犯人に伝えたときの不利益(犯人を怒らせてひどい目に遭わされるなど)を憂慮して言い出せない状態
が挙げられます。
③「同意しない意思を…全うすることが困難な状態」とは?
「同意しない意思を…全うすることが困難な状態」とは、
わいせつな行為をしない、したくないという意思を形成し、又は、その意思を表明したものの、その意思のとおりになるのが困難な状態
をいいます。
例えば、
- 犯人に押さえつけられて身動きがとれない状態
- 恐怖心からわいせつな行為をしたくないという意思表明以上のことができない状態
が挙げられます。
④「…困難な状態」とは?
不同意わいせつ罪の成立を認めるに当たり、「困難」の程度は問いません。
改正前刑法の強制わいせつ罪(改正前刑法176条)では、暴行又は脅迫の程度について、
- 被害者の意思に反して、わいせつ行為を行うに必要な程度に抗拒を抑制する程度・態様の暴行であれば足りる
とされ、改正前刑法の強制性交等罪(刑法177条)では、暴行又は脅迫の程度について、
- 相手の反抗を著しく困難ならしめる程度
とされていましたが、不同意わいせつ罪と不同意性交等罪では、「困難」が著しく困難である必要はなく、困難の程度は問わないとされます。
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の犯罪行為が行われる機会にその被害者の性的な部位等の撮影行為が行われた場合、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪のほか、性的姿態等撮影罪が成立する
不同意わいせつ罪(刑法177条)、不同意性交等罪(刑法178条)の犯罪行為が行われる機会にその被害者の性的な部位等の撮影行為が行われた場合は、被害者は、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の犯罪行為についてだけではなく、撮影行為についても同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態であると考えられます。
したがって、この場合、2号の「同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、対象性的姿態等を撮影する行為」として、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪のほか、性的姿態等撮影罪が成立し得ます。
2号の実行行為である「撮影する行為」は、行為者(犯人)が撮影対象者(被害者)を利用して行う場合も該当する
2号の実行行為である「撮影する行為」は、行為者(犯人)が自ら撮影行為をする場合だけでなく、行為者が撮影対象者(被害者)を利用して行う場合も該当する場合があります。
例えば、
- 被害者を脅迫し、被害者を性的姿態の撮影行為に同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせ、被害者自身に自己の性的姿態を撮影させた場合(自撮りさせた場合)
は、被害者を利用して犯人が撮影行為を行ったといい得るため、2号の実行行為である「撮影する行為」に該当し得ます。