これから13回にわたり、ストーカー規制法違反(ストーカー行為等の規制等に関する法律)を説明します。
ストーカー規制法の目的(1条)
ストーカー規制法1条は、
- この法律は、ストーカー行為を処罰する等ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに、その相手方に対する援助の措置等を定めることにより、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的とする
と規定し、ストーカー規制法の目的を規定します。
ストーカー規制法は、
ストーカー行為を規制することにより、個人の身体、自由、名誉に対する危害を防止し、国民の生活の安全と平穏を守ることを目的
として制定された法律です。
保護法益
ストーカー規制法の保護法益は、
- 個人の身体、自由及び名誉(個人的法益)
及び
- 国民の生活の安全と平穏(社会的法益)
です。
ストーカー行為とは?(2条4項)
ストーカー規制法による規制行為は
であり、①②の行為を同一の被害者・被害者の密接関係者に対して反復して行うと、これが
- ストーカー行為(2条4条)
となり、ストーカー行為を行った者(犯人)は、
- 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
に処せられます(18条)。
2条4項の説明
ストーカー規制法2条4項は、
- この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(第1項第1号から第4号まで及び第5号(電子メールの送信等に係る部分に限る。)に掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)又は位置情報無承諾取得等を反復してすることをいう
と規定します。
「ストーカー行為」とは?
「ストーカー行為」とは、
- つきまとい等(2条1項1~8号・2項)
- 位置情報無承諾取得等(2条3条)
のいずれかを反復して行う行為です。
「反復して」とは?
「反復して」とは、
- 複数回繰り返すこと
をいいます。
反復性の認定の考え方①(ストーカー行為の態様が1つの特定のものである必要はない)
最高裁決定(平成17年11月25日)において、
- ストーカー行為等の規制等に関する法律2条2項の「ストーカー行為」とは、同条1項1号から8号までに掲げる「つきまとい等」のうち、いずれかの行為をすることを反復する行為をいい、特定の行為あるいは特定の号に掲げられた行為を反復する場合に限るものではない
と判示していることから分かるとおり、反復性を認定するにあたっては、
のうち、特定の態様の行為が反復して行われている必要はなく、複数の態様の行為が混ざって反復していてもよいです。
なお、「②位置情報無承諾取得等(2条3条)」の規定は令和3年6月15日から新法として施行されたものなので、上記最高裁決定(平成17年11月25日)において触れらえていないものです。
反復性の認定の考え方②(行為の近接性)
反復性の認定のためには、
- 反復して行われたストーカー行為がある程度時期的に近接している
ことが必要あり、
- 行為の期間と回数に照らし、個々の具体的事案ごとに判断する
こととなります。
例えば、
- 被害者へのつきまといが、10日間にわたって毎日行われた場合
であれば反復性があると認定できると考えられます。
しかし、1回目のつきまといが行われた後、3か月後に2回目のつきまといが行われた場合には、反復性があると認定するのは難しいと考えられます。
ただし、1年間という長期間にわたり1か月単位でつきまといが行われていた場合で、5目のつきまといが行われた後、3か月後に6回目のつきまといが行われた場合には、反復性があると認定できる場合もあると考えられます。
また、つきまといが行われた後、3か月後にまた同じつきまといが行われた場合でも、その間につきまといに該当する行為ではないが、被害者への接触を試みていた状況がある場合には、反復性があると認定できる場合もあると考えられます。
「つきまとい等(第1項第1号から第4号まで及び第5号(電子メールの送信等に係る部分に限る。)に掲げる行為については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)」とは?
これは、
2条1項1~4号、5号に掲げる「つきまとい、待ち伏せ、立ちふさがり」等の行為は、
- 被害者の身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限り、反復して行った場合にストーカー行為として認定する
という意味です。
「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される 不安を覚えさせるような方法」とは?
1⃣ 「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法」は、
- 社会通念上、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害されるのではないか
又は
- 社会通念上、行動の自由が著しく害されるのではないか
と
- 被害者・被害者の密接関係者を心配させると評価できる程度のもの
である必要があります。
この方法は、
- 被害者・被害者の密接関係者に直接向けられたならば不安を覚えさせる行為であると社会通念上認められるもの
であれば、
- 相手方が不在時に行われた行為
も含まれます。
例えば、犯人が被害者宅に「押し掛け」(2条1項1号)をした場合に、被害者が留守にしていて不在であった場合でも、それが不安を覚えさせる行為であれば、不安を覚えされる方法に該当し得えます。
2⃣ この判断は、一般人をして通常「不安を覚えさせる」か否かではなく、
- 被害者や被害者の密接関係者をして通常「不安を覚えさせる」か否か
により判断されます。
例えば、一般人が当該行為を受けた場合は不安を覚えない方法であっても、
- 犯人と被害者の人的関係(元夫婦、元交際相手など)
- 行為の態様
- 犯行の回数や頻度
などを総合的に勘案し、被害者にとって通常「不安を覚えさせるような方法」と認められる場合には、不安を覚えされる方法に該当するということになります。
3⃣ 不安を覚えされる方法に該当するか否かが争点となった裁判例として以下のものがあります。
大阪高裁判決(平成16年8月5日)
公的第三者の郵便という方法を用いた被告人の行為について、ストーカー規制法2条2項かっこ書きに定める「身体の安全、住居の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法」に当たらないとした原判決を破棄し、これを肯定した事例です。
裁判所は、
- 関係証拠によれば、全体に共通する事情として、それまで被害者は、渡された名刺から被告人の氏名及び住所
を知っているだけで、その素性や人柄を知らず、むしろ、従前のつきまとい等により既に被告人の言動に多大な不安を覚え、いかなる接触があっても被告人が自分の様子をどこかで見張っているかも知れないと感じ、おびえるようになっていたことが認められる
- そして、原判決が、不安を覚えさせるような方法でなされたものと認定しなかった4件の行為についてみると、その内2件は、いずれも被告人が鞄(1件は手紙を同封)を郵便小包にして被害者の勤務先に送付した行為であるところ、外見上、何が在中していのるか不明な形態である上、被告人は、以前に同鞄を直接被害者に手渡そうとしたことが2回あること、加えて、上記の鞄送付行為の内、最後の行為については、本件警告がなされ、被害者において被告人が同じような行為をやめるものと期待するようになった後わずか2 0日余りの行為でもあることなどを総合的に考察すると、被害者の立場にある者をして、通常、その身体の安全等にいかなる危害を加えられるかも知れないという不安を覚えさせるような方法により行われたと認めることができる
- また、上記4件の行為中、その余の2件は、「好きです。付き合って下さい。」、「すいませんけど付き合って下さい。返事下さい。」などと記載した手紙を、それぞれ封書にして被害者の勤務先に同女あてで郵送したものであるところ、外からその内容物を了知できない点では前記行為とほぼ同様な形態である上、被害者の一貫した明確な拒絶意思に反する行為である点も同じであり、上記の封書郵送行為中、最初の行為は、被害者が警察署に相談した結果、被告人が同警察署に呼び出されて口頭注意を受けたにもかかわらず、その後間もなく行われたものであること、後の行為は、本件禁止命令が発付されたわずか5日後になされたものであることがそれぞれ認められ、いずれも前同様に不安を覚えさせるような方法により行われたと認めることができる
と判示し、ストーカー規制法違反の成立を認めました。
福岡高裁判決(平成28年7月5日)
ストーカー規制法2条4項の「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法」「反復して」に該当するか否かが争点となった事案について、これに当たらないとして無罪とした原判決を破棄し、いずれの要件も満たすとして有罪の判断をした事例です。
裁判所は、
- 原判決は、所為①ないし⑥全体につき、「自宅を訪ねて面会を求めたが、拒否されたので、その日から翌日にかけて電話を6回かけ、翌日に同様に自宅を訪ねて面会を求めたが、やはり拒否されたので、手紙を出したという限度にとどまる」と要約した上、Aが一定の不安を感じていたことは認めつつも、被告人の意図はAが関係を解消しようとした理由を聞くことにあり、社会的逸脱の程度が大きくはない旨を指摘する
- しかし、関係証拠によれば、Aは3月下旬頃被告人に「友人としての付き合いもやめたい」「会う気はない」などと告げ、4月4日に被告人と会った際「もう会わない、電話もしてこないで」などと述べたのを最後に、以降は被告人からの電話やメールに応答しなくなっていたのであって、拒絶の態度は所為①②に際し初めて示されたわけではないから、先の要約はやや不適切といわざるを得ない
- また、Aが住むマンション(以下、「本件マンション」という。)は建物全体の玄関部分をオートロック式としており、居住者とその許可を得た者以外の立ち人りを許容していないが、被告人は、所為①のにおいて、他の居住者による出人りに合わせてオートロックをすり抜け、Aの居室前に至っている
- このように、本来なら立ち入れない場所まで押し掛けることは、正に身体の安全や住居等の平穏を害される不安を増大させる要素であるから、不安方法の判断に際し重視する必要があるが、原判決にはこれを検討した形跡がみられない
- これと同時に行われた所為②⑤についても同様である
- 更に、所為⑥の手紙自体には直接危害を加えるような文言こそ含まれないものの、今後も顔を合わせることがあり得る旨を暗に示しているし、それが送付された経緯や時期、具体的には、4月14日の面会等要求(所為①②)に対し、Aが「早く帰って、電話もしてこないで」などと拒絶の態度を明示したのに、同日から翌15日までの間に連続して6回電話をし(所為③)、同月15日には再度押し掛けるも(所為④⑤)「お願いだから帰って。絶対に会いたくない」などとやはり明確に拒絶されていたのに、その直後に手紙を投函したという事情を考慮に人れるべきところ、原判決はこれらの点の考察も不十分といわざるを得ない
- Aは、原審公判で、被告人による各所為につき、何をされるか分からない、今後もつきまとわれたり家まで来るかも知れないという強い不安を覚えた旨供述した
- これは、先に掲げた各所為の態様、経緯、時期等に照らして よく理解できるところであるし、Aが所為①②の当日に警察に相談したこととも符合する
- そうすると、本件の所為①②④⑤⑥は不安方法で行われたものというべきである
- そして、本件一連の所為は、2回の押し掛け(所為①④)、3回の面会等要求(所為②⑤⑥)、前後6回の電話(所為③)と、それ自体多数回に及ぶだけでなく、上記のとおり数日の内に連続して行われているから、これらが反復してなされたと評価できることも明らかである
と判示し、ストーカー規制法違反の成立を認めました。