ストーカー規制法

ストーカー規制法(12)~2条3項の「位置情報無承諾取得」を説明

 前回の記事の続きです。

2条3項の「位置情報無承諾取得」とは?

 ストーカー規制法2条3項は、

この法律において「位置情報無承諾取得等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう

1号 その承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置(当該装置の位置に係る位置情報(地理空間情報活用推進基本法第2条第1項第1号に規定する位置情報をいう。以下この号において同じ。)を記録し、又は送信する機能を有する装置で政令で定めるものをいう。以下この号及び次号において同じ。)(同号に規定する行為がされた位置情報記録・送信装置を含む。)により記録され、又は送信される当該位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を政令で定める方法により取得すること

2号 その承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること

と規定します。

 2条3項のストーカー行為は、例えば、

  • 被害者・被害者の密接関係者の使用する自動車にGPS機器を取り付ける行為
  • 被害者・被害者の密接関係者の使用する鞄にGPS機器を入れる行為

が該当します。

① 2条3項の柱書の説明

 2条3項の柱書には、

  • 特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう

とあります。

 2条3項の意義の説明は、2条1項の柱書の説明と同じになるので、ストーカー規制法(2)の記事の説明を参照ください。

② 2条3項1号の行為の説明

 2条3項1号のストーカー行為は、

  • 被害者・密接関係者の承諾を得ないで、被害者・密接関係者の所持する位置情報記録・送信装置により記録され、又は送信される当該装置の位置に係る位置情報を政令の定める方法により取得する行為

です。

「承諾を得ないで」とは?

 「承諾を得ないで」とは、例えば、

  • 被害者・密接関係者の合意がない場合
  • 被害者・密接関係者が脅迫されたり、だまされて誤信した場合のように、被害者・密接関係者の任意かつ真意に基づく承諾とはいえない場合

が挙げられます。

 また、

  • 当初、交際関係にあった被害者との合意の下で位置情報を互いに共有していたものの、その後、交際関係が解消され、被害者が「今後、位置情報の共有を断る」という意思を告げた場合
  • 被害者からストーカー被害の相談を受けた警察官や第三者が、犯人に対して、被害者が位置情報の共有を拒絶している旨を告げた場合

も「承諾を得ないで」に該当すると解されています。

「被害者・密接関係者の所持する」とは?

1⃣ 「所持」とは、

  • ある人物が物を事実上支配していると認められる状態

をいいます。

 「所持」は、現実に物を把握している必要ありません。

 例えば、

  • 被害者が持っている鞄
  • 着用している衣服

はそれらを「所持」していると認められることはもちろん、

  • 倉庫に保管している状態
  • だれかに保管させている状態

でも、その物が事実上その人の支配下にあれば「所持」と認められます。

 例えば、

  • 被害者が自己が使う自動車を自宅の駐車場ではなく、実家の駐車場に止めて保管していた場合も「所持」に当たり、犯人がその自動車のカーナビゲーションから位置情報を取得した場合

は、2条3項1号の行為に該当し得ます。

2⃣ 「所持」とは、その物を存在を認識してる状態で使われる文言です。

 そのため、その物の存在を認識していない場合は「所持」しているとはいえないと解されることになります。

 この場合に問題になるのが、犯人が「位置情報記録・送信装置」(GPSなど)をひそかに被害者の自動車などに取り付けた場合です。

 被害者は犯人に自動車に取り付けられたGPSの存在を把握していないので、2条3項1号の「被害者・密接関係者の所持する位置情報記録・送信装置」の要件を満たさなくなり、犯人がひそかに被害者の自動車に取り付けたGPSから位置情報を取得した行為が2条3項1号の行為にしないという問題が生じます。

 この問題を回避するために、条文中に

(同号に規定する行為がされた位置情報記録・送信装置を含む。)

というカッコ書きを設け(「同号」とは2条3項2号をいう)、2条3項2号該当行為によってひそかに取り付けられた「位置情報記録・送信装置」(GPSなど)を用いて行う位置情報の取得行為も、2条3項1号の規制対象となるようにされています。

「位置情報記録・送信装置」とは?

 「位置情報記録・送信装置」として、例えば、

  • GPS機能を用いて位置情報の記録・送信ができるスマートフォン
  • GPSロガー(位置情報を記録する装置)
  • GPSトラッカー(位置情報を送信する装置)

が挙げられます。

 「位置情報記録・送信装置」の定義は、ストーカー規制法施行令1条に規定があり、

  • 地理空間情報活用推進基本法2条4項に規定する衛星測位の技術を用いて得られる当該装置の位置に係る位置情報を電磁的記録として記録し、又はこれを送信する機能を有する装置

をいいます。

「位置情報」とは?

 「位置情報」とは、地理空間情報活用推進基本法2条1項1号に規定する位置情報であり、

  • 衛星測位の技術を用いて得られる位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報

をいいます。

 具体的には、

  • GPSにより得られるGPS機器の位置情報(緯度・経度・時刻)

をいいます。

「政令に定める方法により取得」とは?

 「政令に定める方法により取得」は、ストーカー規制法施行令2条1~3号に定められています。

1⃣ 施行令2条1号の取得方法は、

  • 位置情報記録・送信装置の映像面上において、電磁的記録として記録された位置情報を視覚により認識することができる状態にして閲覧する方法

です。

 例えば、

  • 被害者のスマートフォンをひそかに一時的に操作して、記録された位置情報を表示させて盗み見る行為

が該当し得ます。

2⃣ 施行令2条2号の取得方法は、

  • 位置情報記録・送信装置により記録された電磁的記録に係る記録媒体を取得する方法(当該電磁的記録を他の記録媒体に複写する方法を含む。)

です。

 「位置情報記録・送信装置により記録された電磁的記録に係る記録媒体」は、例えば、

  • SDカード
  • ハードディスク
  • USBメモリ

が該当します。

 施行令2条2号の取得方法は、例えば、

  • 被害者の自動車にGPS装置を取り付け、位置情報が記録された後に取り外して回収する行為
  • 被害者のスマートフォンの位置情報が記録されたSDカードを取り外して入手する行為
  • 被害者のスマートフォンの位置情報が記録されたSDカードを取り外し、データを複写し、その複写データを入手する行為
  • 被害者のスマートフォンに犯人が用意したSDカードを差し込み、そのSDカードに位置情報データを複写して入手する行為

が該当し得ます。

3⃣ 施行令2条3号の取得方法は、

  • 位置情報記録・送信装置により送信された電磁的記録を受信する方法(当該方法により取得された位置情報を他人の求めに応じて提供する役務を提供する者から当該役務を利用して当該位置情報の提供を受ける方法を含む。)

です。

 例えば、

  • 被害者のバッグにひそかに入れたGPS装置から送信された位置情報を受信機により受信する行為
  • 被害者のスマートフォンをひそかに一時的に操作し、位置情報を犯人自身のスマートフォンに送信して受信する行為
  • スマートフォンの位置情報を共有するアプリケーションを使って、犯人のスマートフォンに被害者の位置情報を表示させる行為

が該当し得ます。

 カッコ書きの『(当該方法により取得された位置情報を他人の求めに応じて提供する役務を提供する者から当該役務を利用して当該位置情報の提供を受ける方法を含む。)』については、例えば、

  • GPSの位置情報をオペレーターが電話やメールで知らせてくれるサービスを利用し、オペレーターから被害者の位置情報を聞き出して入手する行為

が該当し得ます。

③ 2条3項3号の行為の説明

 2条3項2号のストーカー行為は、

  • その承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること

です。

「承諾を得ないで」とは

 「承諾を得ないで」とは、例えば、

  • 被害者・密接関係者の合意がない場合
  • 被害者・密接関係者が脅迫されたり、だまされて誤信した場合のように、被害者・密接関係者の任意かつ真意に基づく承諾とはいえない場合

が挙げられます。

 また、

  • 当初、交際関係にあった被害者との合意の下で位置情報を互いに共有していたものの、その後、交際関係が解消され、被害者が「今後、位置情報の共有を断る」という意思を告げた場合
  • 被害者からストーカー被害の相談を受けた警察官や第三者が、犯人に対して、被害者が位置情報の共有を拒絶している旨を告げた場合

も「承諾を得ないで」に該当すると解されています。

「その所持する物」とは?

 「その所持する物」とは、

  • 被害者や密接関係人が所持するもの

であり、例えば、

  • 被害者の鞄、自動車

が該当します。

 「所持」の意義は上記で説明したとおりです。

「取り付ける」とは?

「取り付ける」とは、

  • GPS機器等を一定の場所に設置したり、他のものに取り付ける

という意味です。

 例えば、

  • 被害者の自動車にGPS装置をひそかに取り付ける行為

が該当します。

「取り付けた物を交付する」とは?

 「交付」とは、

  • 他人に物を渡すこと

をいい、郵便によるものも含まれます。

 「取り付けた物を交付する」は、例えば、

  • GPS装置を取り付けたプレゼントを被害者に交付する行為
  • GPS装置を取り付けた物を被害者宅に郵送する行為

が該当します。

「その移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為」とは?

 「政令に定める行為」は、ストーカー規制法施行令3条1~3号に定められています。

1⃣ 施行令3条1号の行為は、

  • その所持する物に位置情報記録・送信装置を差し入れること

です。

 「差し入れる」とは、

  • 被害者・密接関係者の所持する物の中に入れる行為

をいい、例えば、

  • 被害者の所持する鞄の中にひそかにGPS装置を入れる行為

が該当します。

2⃣ 施行令3条2号の行為は、

  • 位置情報記録・送信装置を差し入れた物を交付すること

です。

 「交付」は、他人に物を渡すことをいい、郵便によるものを含みます。

 例えば、

  • GPS装置を取り付けたプレゼントを被害者に交付する行為
  • GPS装置を取り付けた物を被害者宅に郵送する行為

が該当します。

3⃣ 施行令3条3号の行為は、

  • その移動の用に供されることとされ、又は現に供されている道路交通法2条1項9号に規定する自動車、同項10号に規定する原動機付自転車、同項11号の2に規定する自転車、同項11号の3に規定する移動用小型車、同項11号の4に規定する身体障害者用の車又は道路交通法施行令1条1号に規定する歩行補助車(それぞれその所持する物に該当するものを除く。)に位置情報記録・送信装置を取り付け、又は差し入れること

です。

 端的にいうと、GPS装置を被害者・密接関係者が所持していない自動車等に取り付け、又は差し入れる行為です。

 被害者・密接関係者が所持する自動車等であった場合は、2条3項2号本文の「その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること」の行為の方に該当します。

 自動車等とは、

  • 自動車、原動機付自転車、自転車、身体障害者用の車いす、歩行補助車

のことです。

 「移動の用に供されることとされ」ている自動車等は、被害者が所持するものには該当しない自動車等で、

  • 今は利用されていないが、将来的に被害者・密接関係者の移動のために利用されると認められる自動車等

をいいます。

 例えば、

  • 被害者が近々乗車して利用することが予定されているレンタカー

が該当し得ます。

 「現に供されている」自動車等は、被害者が所持するものには該当しない自動車等で、

  • 現に被害者・密接関係者の移動のために乗車して利用している自動車等

が該当します。

 例えば、

  • 被害者が現に運転しているシェアカー
  • 被害者が現に助手席や後部座席に乗車している友人の自動車
  • 被害者が現に乗車しているタクシー

が該当し得ます。

 なお、レンタカーでも、被害者が既に業者から車を受け取り、レンタルを開始しているものは、「その(※被害者が)所持する物」に該当し、このレンタカーにGPS装置を取り付けた場合は、2条3項2号本文の「その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること」の行為の方に該当すると解されます。

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