刑法(贈収賄罪)

単純収賄罪(20)~「賄賂の『要求』とは?」「単純収賄罪(賄賂要求罪)」を説明

 前回の記事の続きです。

賄賂の「要求」とは?

 単純収賄罪は、刑法197条1項前段において、

  • 公務員が、その職務に関し、賄を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の拘禁刑に処する

と規定します。

 ここにいう「要求」とは、

  • 相手方に対して、認識し得る状態において、賄賂の交付を求める意思表示をすること

をいいます。

「要求」は賄賂を収受しようとする者の一方的な意思表示のみをもって単純収賄罪(賄賂要求罪)が成立する

 「要求」は、相手方が賄賂の要求を承諾することを要しません。

 さら、相手方が賄賂の要求の意思表示を認識したか否かを問いません。

 つまり、賄賂の「要求」の態様による単純収賄罪(賄賂要求罪)は、収賄者の一方的な賄賂の要求行為のみで単純収賄罪(賄賂要求罪)が成立します。

 この点に関する以下の判例・裁判例があります。

大審院判決(昭和11年10月9日)

 判例は、

  • 賄賂要求罪の成立には、公務員がその職務に関し、相手方に対し認識し得べき状態において賄賂の交付を求むる意思を表示するをもって足り、相手方の実際上その意思表示を認識したると否とはこれを問わざるが故に、相手方において該意思表示の趣旨を誤認しために贈賄の意思なくして要求せられたる金品を供与することあるも、これがために賄賂要求罪の成否に消長なく

と判示しました。

「要求」は間接的・黙示的でもよい

 「要求」は、公務員が職務に関し、賄賂を要求することであるので、客観的に相手方が、賄賂を要求されていると認識できる程度に要求行為がなされなければなりません。

 「要求」は、直接的・明示的になされなくても、その趣旨が客観的に明らかであれば、間接的・黙示的になされてもよいです。

「要求」は自分が収受する意思で行われなければならない

 「要求」は、収受を前提とするものなので、自分で収受する意思がなく、第三者に供与するよう要求する場合には、第三者供賄罪(刑法197条の2)が成立することはあり得ても、単純収賄罪(賄賂要求罪)は成立しません。

 ただし、第三者が単なる手足の場合には、第三者に供与するよう要求した場合でも単純収賄罪(賄賂要求罪)が成立します。

相手方が要求を受けて利益を提供した場合で、相手方に賄賂の供与の認識がない場合は、単純収賄罪(収受罪)ではなく、単純収賄罪(賄賂要求罪)が成立する

 相手方が、賄賂を収受しようとする公務員から賄賂の要求を受けたが、相手方は賄賂の認識なく、その公務員に利益を供与したときには、単純収賄罪(賄賂収受罪)は成立せず、単純収賄罪(賄賂要求罪)が成立します。

 これは、単純収賄罪(賄賂収受罪)が成立するためには、贈賄側の「賄賂を提供する認識」と収賄側の「賄賂を収受する認識」の両方が必要であるためです(詳しくは単純収賄罪(18)の記事参照)。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(昭和11年10月9日)

 裁判所は、

  • 賄賂要求罪の成立には、公務員がその職務に関し相手方に対し認識し得べき状態において賄賂の交付を求むる意思を表示するをもって足り、相手方が実際上その意思表示を認識したると否とはこれを問わざるが故に、相手方において該意思表示の趣旨を誤認しために賄賂の意思なくして要求せられたる金品の供与することをあるも、これがために賄賂要求罪の成否に消長なく、また賄賂の交付と収受とは賄賂の授受なる双方行為を組成する各一方の行為にほかならざるをもって賄賂の収受は賄賂の交付ありて完成するものにして賄賂交付の罪成立せざるときは収受者においてたとえ賄賂として交付を受くるの意思ありとするも賄賂収受罪成立することなし

と判示しました。

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