前回の記事の続きです。
「請託」は黙示的なものを含む
受託収賄罪(刑法197条1項後段)における「請託」は、
- 公務員に対して、一定の職務行為を行うよう依頼すること
をいいます。
「請託」は、明示的になされるもののほか、黙示的になされるものも含みます。
この点を判示した以下の裁判例があります。
裁判所は、
- 刑法第197条第1項後段にいわゆる「請託」とは、公務員に対して、その職務に関して一定の行為を行うことを依頼することであつて、必らずしも事前に明示的にされることを必要とするものではなく、賄賂を供与すること自体により黙示的にその依頼の趣旨を表示することをも含むものと解すべきである
と判示しました。
裁判所は、
- 刑法第197条第1項後段にいわゆる「請託」は、必ずしも賄賂供与の事前に明示的になされることを必要とするものではなく、賄賂を供与すること自体により黙示的にその依頼の趣旨を表示することも含まれる
と判示しました。
黙示の請託が認められた事例として、
- 収賄者側の金員供与の要求に応じたこと自体から黙示の請託が認められた事例(札幌地裁判決 平成5年3月16日)
- 県議会議長選挙の直前に密かに多額の現金を提供するなどの贈賄者の行動自体から請託を認めた事例(浦和地裁判決 平成6年9月5日)
があります。
「請託」は必ずしも賄賂の供与の以前になされることは要しない
請託は、職務行為と対価関係に立ち、その縁由ともなるべきことでなので、請託がなされるのは、基本的には職務行為以前となります。
しかし、必ずしも賄賂の供与の以前になされることは要しません。
賄賂供与自体によって黙示的に請託がなされたときは、賄賂の供与と請託が同時に行われる場合もあります。
問題となるのは、まず賄賂の授受が行われ、その後の別の機会に請託が行われた場合です。
供与者の意思はどうであれ、授受の時点で、客観的には、単純収賄罪(刑法197条1項前段)が成立し、その後の請託を受託した時点では、単なる事後行為ではないのかという見方ができます。
この点については、見解が分かれており、
- 請託によって職務行為と賄賂との対価性が明らかになった以上は、その請託を承諾した時点で受託収賄罪が成立するとの見解
がある一方で、
- 請託を受ける行為自体は何ら違法行為ではなく、受託収賄罪の核心が請託を受けることにより職務行為との対価性がより明白となった賄賂を収受等する行為にあることからすると、収受等の後に請託を受けたにすぎない行為をこれと同視できるかには疑問があるとする見解
もあります。