刑法(贈収賄罪)

贈収賄罪の罪数(2)~「単純収賄罪、受託収賄罪、事前収賄罪、第三者供賄罪、加重収賄罪、事後収賄罪、あっせん収賄罪、贈賄罪の関係」を説明

 前回の記事の続きです。

賄賂の要求、約束、収受が一連の行為として発展して行われた場合の収賄罪(単純収賄罪又は受託収賄罪)の罪数の考え方

1⃣ 賄賂の要求、約束、収受が一連の行為として発展して行われた時には、包括して1個の収賄罪(「単純収賄罪刑法197条1項前段」又は「受託収賄罪刑法197条1項後段」)が成立します。

 学説には、順次吸収関係に立つとするものがありますが、通説は包括一罪説を採ります。

 要求(賄賂要求罪)、約束(賄賂約束罪)は、それぞれ犯罪として評価されるので、収受(賄賂収受罪)がこれを吸収するとまではいえず、包括一罪説が正しいと解されます。

 判例も包括一罪とする立場を採ります。

大審院判決(大正10年10月23日)

 裁判所は、

  • 要求、約束、収受の各行為が日時場所を異にして行なわれ、かつ賄賂の種類に異同あるとき といえども、これら各行為相互の関係は、一つは他を吸収すべき性質のものに非ずして各行為はそれぞれ可罰性を保持しつつ、涜職行為の進展するものなるが故にかかる行為はこれを包括的に観察して1個の賄賂罪をもって処断すべく

と判示し、賄賂の種類に異同がある場合(6000円の要求で1000円を収受)でも包括一罪と しました。

 この判例による限り、要求、約束が反覆して行われ、その賄賂の内容が異なるものであっても、単一の意思に出たものであり、したがって収受が一つであれば、包括して収賄罪一罪(単純収賄罪の一罪又は受託収賄罪の一罪)が成立することとなります。

2⃣ なお、贈賄罪(刑法198条)についても収賄罪と同様に、賄賂の申し込み、約束、供与が一連の行為として発展して行われた時には、包括して1個の収賄罪が成立するとした以下の裁判例があります。

仙台高裁判決秋田支部判決(昭和29年7月6日)

 裁判所は、

  • 公務員の職務に関し、賄賂を申込み、またはこれを供与する行為が日時を異にして数回にわたり、行われた場合は、各行為が賄賂申込罪(※刑法198条の贈賄罪の賄賂申込罪)または賄賂供与罪(※刑法198条の贈賄罪の賄賂供用罪)としての可罰性を有するのであるが、それらの各行為はひとつの贈賄目的を達するまでの進展過程において行われたものであるから、これを包括的に観察し、1個の賄賂供与罪をもって処断すべきものと解すべきである

と判示しました。

単純収賄罪の要求、約束、収受の後に請託があった場合の単純収賄罪と受託収賄罪の罪数の考え方

 単純収賄罪(刑法197条1項前段)の要求、約束、収受の後に請託があった場合に、単純収賄罪のみ成立するのか、受託収賄罪(刑法197条1項後段)のみ成立するのか、両者が成立するのかという問題がありますが、結論は、

  • 単純収賄罪は受託収賄罪に吸収され、受託収賄罪のみが成立する

と考えられています。

 例えば、Z社の役員Aに対し、公務員Bが賄賂の要求をし(単純収賄罪(賄賂要求罪)が成立)、後にこれに対する役員Aから公務員Bへの請託があり、公務員Bがこれを受諾した場合には(受託収賄罪(賄賂要求罪)が成立)、賄賂の要求を受けた役員Aがこれに応ずる意図で公務員Bに請託をし、賄賂の要求をした公務員Bにおいてこれを受諾することにより、賄賂の約束がなされたものと認定できる場合が通常であると考えられ、このような場合には、単純収賄罪(賄賂要求罪)は、受託収賄罪(賄賂要求罪)に吸収されると考えられています。

単純収賄罪(賄賂約束罪)が行われた後に、受託収賄罪(賄賂約束罪)が行われた場合の罪数

 公務員と贈賄者の間で、賄賂を授受することを約束した場合、公務員側には単純収賄罪(賄賂約束罪、刑法197条1項前段)が成立します。

 単純収賄罪の約束が成立した後に、別の機会に請託が行われ、これを受諾した場合には、単純収賄罪(賄賂約束罪)と包括されて、一罪として単純収賄罪(賄賂約束罪)と受託収賄罪(賄賂約束罪)が成立することになると考えられています。

 理由は、前に単純な賄賂の約束がなされ、その後において請託をなしこれを承諾するのは、前にあった約束を前提とし、請託を伴った賄賂の約束として再確認されたこととなると考えられるためです。

 基本となる約束は同一であり、職務行為も包括的なものから具体的なものに確定するにすぎないので、別々に二罪が成立すると解する余地はないとされます。

同一当事者間で、同一の職務に関して、複数の賄賂の授受が、反復して行われた場合の収賄罪、贈賄罪の罪数の考え方

 同一当事者間で、同一の職務に関して、複数の賄賂の授受が反復して行われた場合であって、単一の意思に基づき、単に授受が分割して行われたような場合は贈賄罪、収賄罪はそれぞれ一罪として成立するとされます。

 つまり、

  • 収賄罪(単純収賄罪又は受託収賄罪)の一罪が成立する
  • 贈賄罪の一罪が成立する

となります。

 ただし、犯意がその都度生じていれば(新しい犯意に基づくものであれば)、複数の贈収賄の授受が同一趣旨であっても、贈賄罪、収賄罪はそれぞれ併合罪と解すべきとされます。

 つまり、

  • 複数事実の収賄罪(単純収賄罪又は受託収賄罪)が併合罪として成立する
  • 複数事実の贈賄罪が併合罪が成立する

となります。

 例えば、包括的な請託が最初にあるのではなく、その都度暗黙裡に前回の請託と同じ趣旨で賄賂が授受されるという場合には、併合罪となると場合が多いと考えれます。

一個の行為で数人の公務員に贈賄した場合の贈賄罪と単純収賄罪の罪数の考え方

 一個の行為で数人の公務員に贈賄した場合には、贈賄罪は観念的競合刑法54条前段)となります。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正5年6月21日)

 裁判所は、

  • 被告が同時に二人又は二人以上の者に贈賄したるときは、いわゆる1個の行為にして数個の罪名に触れるものなれば、刑法第54条を適用処断すべきものとす

と判示しました。

大審院判決(大正6年4月25日)

 裁判所は、

  • 1個の行為をもって数人の公務員に贈賄したるときは、各公務員との関係上、その数に応ずる贈賄罪に触れる1個の行為にしてこれを包括的に観察して単独なる1個の贈賄罪なりというを得ず(※いわなければならない)

と判示しました。

 なお、この場合に賄賂の提供を受けた2人以上の収賄者については、各収賄者ごとに1個 の単純収賄罪が成立します。

事前収賄罪と受託収賄罪との罪数の考え方

 公務員となる前に請託を受けて、賄賂の要求、約束をした場合、公務員に就任した時点で事前収賄罪刑法197条2項)が成立することとなりますが、その後にその賄賂を収受した場合について、

  1. 事前収賄罪と単純収賄罪(刑法197条1項前段)とが成立し、犯情の重い単純収賄罪で処断するという説
  2. 受託収賄罪(刑法197条1項後段)となる説

とがあります。

 学説では②の説が有力とされます。

 理由は、

  • 一連の行為が、公務員の請託を受けての賄賂の収受という点に凝縮していること
  • 賄賂の授受の時点においては、請託に基づく賄賂であることが、当事者間に了解されていること

の事情を踏まえると、受託収賄罪一罪が成立するのが妥当と考えれるためです。

第三者供賄罪と収賄罪(単純収賄罪又は受託収賄罪)との罪数の考え方

1⃣ 公務員Aが第三者供賄罪刑法197条の2)を行った場合で、第三者供賄罪の第三者であるBが公務員Aの上司、同僚などの職務権限を同じくする者であった場合、第三者Bに賄賂の知情がなければ、公務員Aに対し、第三者供賄罪が成立します。

 しかし、第三者Bに賄賂の知情のある場合は、第三者Bに対し単純収賄罪又は受託収賄罪 が成立します。

 この時、第三者Bに公務員Aとの意思の疎通があれば、共同正犯が成立する関係から、公務員Aに対して第三者供賄罪は成立しないこととなり、公務員Aと第二者Bに単純収賄罪又は受託収賄罪の共同正犯が成立します。

 第三者Bと公務員Aとの両者間に意思の疎通を欠くときには、公務員Aについては第三者供賄罪が成立し、第三者Bについては単純収賄罪又は受託収賄罪が成立します。

2⃣ 第三者供賄罪の第三者が教唆犯又は幇助犯の場合には、第三者に対し、単純収賄罪又は受託収賄罪の教唆犯又は幇助犯が成立します。

 これは、第三者が賄賂であることの情を知っていたとしても、三者が賄賂であることの情を知っていることは第三者供賄罪の成否に影響を与えないことから、第三者の行為が共同正犯ではなく、教唆犯又は幇助犯にとどまる場合は、単純収賄罪又は受託収賄罪の教唆犯又は幇助犯が成立するという考え方になるためです。

加重収賄と収賄罪(単純収賄罪又は受託収賄罪)との罪数の考え方

 加重収賄罪刑法197条の3第1項・2項)は、単純収賄罪・受託収賄罪の加重類型であるので、加重収賄罪が成立する場合には、単純収賄罪・受託収賄罪は、加重収賄罪に吸収されて別罪は成立しません(法条競合の吸収関係)。

事後収賄と収賄罪(単純収賄罪又は受託収賄罪)との罪数関係

 事後収賄罪刑法197条の3第3項)の主体は「公務員であった者」であり、単純収賄罪(刑法197条1項前段)又は受託収賄罪(刑法197条1項後段)と主体である「公務員」と異なることから、上記の加重収賄と(単純収賄罪又は受託収賄罪)のような吸収関係にはなりません。

あっせん収賄罪と収賄罪(単純収賄罪又は受託収賄罪)との罪数関係

 あっせん収賄罪刑法197条の4)のあっせん行為自体が、単純収賄罪又は受託収賄罪の職務密接関連行為である場合には、あっせん収賄罪は成立せず、単純収賄罪又は受託収賄罪が成立します。

 このことから、あっせん収賄罪と単純収賄罪又は受託収賄罪とは、法条競合の補完関係にあることになります。

 あっせん収賄罪は、単純収賄罪又は受託収賄罪にいう職務に関しないあっせん行為であり、刑法197条の4の構成要件に該当する行為を処罰するにすぎないものです。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(昭和19年7月28日)

 裁判所は、

  • 営業純益金額の決定に関する事務を処理する職務を有する税務署が、業者に有利なる営業純益金額決定をなすべく同僚上司にあっせんすることは、営業純益金額を決定するに至らしむる本来の職務執行と密接関連を有する行為なるをもって、これを刑法第197条にいわゆる「職務に関し」に該当することなりというに妨げなし
  • 故にかかるあっせんに対する謝礼として業者より金員を受納するにおいては収賄罪を構成すべきこともちろんなり

と判示し、あっせん収賄罪ではなく、単純収賄罪が成立するとしました。

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