刑法(贈収賄罪)

贈収賄罪の罪数(7)~「特別法違反罪と加重収賄罪・単純収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪の関係」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、特別法違反罪と加重収賄罪・単純収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪の関係を説明します。

特別法違反罪と加重収賄罪・単純収賄罪・受託収賄罪・事前収賄罪の関係

 特別法違反罪が加重収賄罪の不正行為の内容をなす場合には、両者が成立し、その関係は、観念的競合になると解されます。

 これに対して、単純収賄罪又は受託収賄罪の場合には、一般的には、収受行為が特別法違反の構成要件的行為を構成しないので、両者は併合罪となります。

 判例は、収受行為が、特別法違反罪の構成要件的行為とされている場合は、特別法違反罪と単純収賄罪又は受託収賄罪は観念的競合になるとしています。

最高裁決定(昭和46年12月2日)

 公職選挙法の特定寄付受領禁止罪と単純収賄罪を観念的競合とした事例です。

 裁判所は、

  • 地方公共団体の議会の議員がその職務に関する賄賂を収受する趣旨ならびに同議会議員の選挙に関し寄付を受ける趣旨で、公職選挙法199条3項に規定する会社から現金の供与を受けた場合には、刑法197条1項の罪および公職選挙法200条2項249条の罪が成立し、両者は一所為数法(※観点的競合)の関係にあると解するのが相当である

と判示しました。

宇都宮地裁判決(平成5年10月6日)

 事前収賄罪(刑法197条2項)と特定寄付受領禁止罪を観念的競合とした事例です。

 裁判所は、

  • 被告人乙は、前記選挙に際し、立候補することを決意してこれを表明するなどしていた昭和6 0年8月初旬ころ、前記T建設株式会社本店において、当時今市市と同市立落合東小学校校舎及び給食室増改築工事等の請負契約を締結していた同社の代表取締役である被告人甲及びAの両名から、同市長に当選した場合担当することとなる前記公共工事における入札参加者の指名等の請負業者の選定及び落札者との請負契約の締結等の職務に関し、同社を同業他社よりも有利便宜に取り扱ってもらいたい趣旨の下に、「選挙の情勢はどうですか。選挙資金はT建設で3000万円を用意しますので、G建設から援助を受けないで下さい。8月に500万、10月に500万、12月に1000万、2月に500万、3月に500万を出すことでいかがでしようか。選挙資金のお世話は、T建設でしますから、市長になったら恩返しして下さい。」との申し出をされて、T建設株式会社を同業他社とりわけG建設株式会 社よりも有利便宜に取り扱ってもらいたい趣旨の請託を受けた上、その報酬として供与されるものであることの情を知りながら、昭和60年8月21日ころから昭和61年2月3日ころまでの間、4回にわたり、同社本店ほか一か所において、前記選挙の選挙資金として現金合計2835万円の供与を受けてこれを収受した上、その後、同選挙に当選し、同年5月8日同市長に就任し、もって、被告人乙の将来担当すべき職務に関 し請託を受けて賄賂を収受するとともに 前記選挙に関し、公職選挙法上寄附を禁止されている者から寄付を受けた

という犯罪事実について、

  • 被告人乙の判示所為中、事前収賄の点は、刑法197条2項に、公職選挙法違反の点は、同法249条200条2項に該当するが、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法54条1項前段10条により一罪として重い事前収賄罪の刑で処断する

と判示しました。

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