刑法(贈収賄罪)

贈賄罪(3)~「賄賂の『申込み』『約束』とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

賄賂の「申込み」とは?

 贈賄罪(刑法198条)の行為は、

  • 収賄者に賄賂を供与し、賄賂の申込みをし、又は、収賄者との間で賄賂の約束をすること

です。

贈賄罪における「申込み」とは、

  • 公務員に賄賂の収受を促す行為

です。

 贈賄罪の申込罪の成立を認めるにあたり、「申込み」は、贈賄者の一方的行為のみで成立ので、賄賂を収受する側の相手方のこれに対応する行為を必要としません。

 賄賂を収受する側の 相手方が、賄賂の申込みの意思表示を認識したか、賄賂性を認識したか否かも問いません。

 この点に関する以下の判例があります。

最高裁判決(昭和37年4月13日)

 裁判所は、

  • 賄賂供与申込罪の成立には、相手方に賄賂たることを認識し得べき事情の下に金銭その他の利益の収受を促す意思表示をなせば足りるのであって、相手方において実際上その意思表示を又はその利益が賄賂たる性質を具有することを認識すると否とは、同罪の成立に影響を及ぼすものではない

と判示しました。

大審院判決(昭和15年4月10日)

 裁判所は、

  • (相手方が、周囲の事情から、)承諾することわざる状態に在りたりとするも同罪の成立を妨げざること言を俟たず

と判示しました。

最高裁判決(昭和36年5月26日)

 公職選挙法違反における賄賂の供与申込罪の事案です。

 裁判所は、

  • 相手方において現実にこれを了知しなくとも、同居の家族、雇人らがこれを受ける等社会観念上一般に相手方において了知し得べき客観的状態に置かれたときもこれに包含される

と判示しており、贈賄罪の申込罪においてもこのような状態にいたれば申込罪は成立すると認めてよいと考えられています。

賄賂罪の申込罪が成立するには、現実に相手方の公務員が賄賂を収受することのできる状態に賄賂を置く必要はない

賄賂罪の申込罪が成立するには、現実に相手方の公務員が賄賂を収受することのできる状態に賄賂を置く必要はありません。

 この点に関する以下の判例があります。

大審院判決(大正7年3月14日)

 裁判所は、

  • 刑法第198条第1項のいわゆる賄賂提供罪(現行法:賄賂の申込罪)を成立するには、単に賄賂が相手方に対し賄賂を収受を促すの意思を表示するをもって足り、必ずしもその賄賂たる利益を現実に収受し得べき状態に置くことを要せず

と判示しました。

大審院判決(昭和8年11月9日)

 裁判所は、

  • 刑法第198条にいわゆる賄賂の提供(現行法:賄賂の申込み)とは、必ずしもその目的たる利益を現実に収受し得べき状態に置く場合に限らず、口頭をもって相手方に対し賄賂を促すの意思を表示する場合、すなわち賄賂の申込をも包含するものとす

と判示しました。

現実に賄賂が公務員の手許に渡った場合でも、贈賄罪の供与罪は成立せず、贈賄罪の申込罪のみ成立するに過ぎない場合がある

1⃣ 賄賂が相手方の公務員の手許に渡った場合でも、相手方が賄賂の収受する意思がない場合は、贈賄罪の供与罪は成立せず、贈賄罪の申込罪が成立するにとどまります。

 この点に関する以下の判例があります。

大阪高裁判決(昭和29年5月29日)

 裁判所は、

  • 相手方が両者の従来からの私的交際関係上、即座に突き返す訳にもゆかず、機会をみて返還する意思の下に一時これを預かったにすぎない場合は賄賂収受罪の成立しないのはもちろん、賄賂供与罪も成立しないけれども、賄賂の供与は常に賄賂の申込みを包含するから、賄賂申込罪の成立を認めるを妨げない

と判示し、相手方に賄賂収受の意思がない場合は、贈賄者側に贈賄罪の申込罪のみ成立するとしました。

 もっとも、収賄者が賄賂を収受するつもりはなかったと言ってもそれは単なる弁解に過ぎない場合があります。

 賄賂たることを知りながら、検挙直前まで3か月所持していた場合には、収賄罪の収受罪が成立(つまり、必要的共犯関係にある贈賄罪の供与罪も成立)するとした以下の判例があります。

最高裁判決(昭和26年6月29日)

 裁判所は、

  • 金500円の賄賂について、被告人はこれを贈賄者に返還するつもりで預かっていたものであると弁解するにかかわらず、原判決が被告人がこれを収受したものと認定したのは、その証拠として挙げた被告人の原審公判廷における供述に徴し明らかなとをり、被告人が右5000円の賄賂たることを知りながら検挙直前まで(約3か月間)これを所持していた事情から、領得の意思を認めるに足るものとしたことによるものであって、かかる認定は不当ではない

と判示し、収賄罪の成立を認めました。

2⃣ 賄賂が相手方の公務員の手許に渡った場合でも、相手方が賄賂であることの認識がなかった場合は、贈賄罪の供与罪は成立せず、贈賄罪の申込罪が成立するにとどまります。

 この点に関する以下の判例があります。

最高裁判決(昭和37年4月13日)

 裁判所は、

  • 金銭その他の利益の授受がなされても、相手方がその賄賂たることを認識しない限り、相手方に収賄罪は成立しないけれども、そのことは、賄賂供与申込罪の成立に影響を及ぼすものではない

と判示し、公務員に賄賂性の認識がない場合には、収賄罪の申込罪が成立するにすぎないとしました。

賄賂の「約束」とは?

 賄賂の「約束」に約束については、収賄罪の基本類型である単純収賄罪と同じなので、単純収賄罪(21)の記事をご確認ください。

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