平成30年司法試験の刑事訴訟法論文問題から学ぶ

 平成30年司法試験の刑事訴訟法論文問題の答案を作成してみました。

 この論文からは以下のテーマが学べます。

1⃣ 承諾のない動画撮影と「強制の処分」の関係

2⃣ 伝聞証拠

  • 一つの証拠につき、「刑訴法321条1項3号に該当する書面」として証拠能力を認める場合と、非供述証拠として証拠能力を認める場合の検討

問題

 法務省ホームページの「平成30年司法試験問題」参照(問題文PDFリンク先)。

答案

設問1

1 捜査①について

⑴ 捜査①は、ビデオカメラによる撮影を行っているところ、これは五官の作用で事物の状態を認識する検証に当たり(刑訴法218条1項)、「強制の処分」として令状主義に反しないか(刑訴法197条ただし書)。

ア 強制処分法定主義の趣旨は、国民の権利利益を侵害する捜査については国民が国会を通じて決すべきであるという点にある。

 よって、「強制の処分」とは、国民の権利利益を侵害する捜査手法をいうと解すべきである。

 もっとも、強制処分は、令状主義(憲法35条)の下、厳格な手続規定に服するのであるから、かかる厳格な規制を置くにふさわしい、重要な権利利益の侵害のおそれがある手続に限るべきである。

 したがって、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等の重要な権利利益を侵害する捜査手法をいうと解する。

 具体的には、侵害される法益の性質、要保護性等を考慮する。

イ 本件は、甲の本件事務所付近における行動をビデオカメラで撮影するという捜査手法であるが、自己の日常生活の行動を他者に撮影されることは本来想定されないことから、プライバシーを侵害するおそれのある捜査手法であるといえる。

 乙は、自己の行動が撮影されていることを認識していないが、被処分者が人権侵害を認識し得ない場合でも、人権保障の観点から、権利侵害からの保護を図る必要がある。

 仮に、甲がビデオカメラで自己の行動が撮影されていることを知れば、乙は撮影を拒絶するだろうにもかかわらず、撮影を行う行為は、甲の意思を抑圧する行為である。

 しかし、撮影は公道上で行われており、他人に見られること自体は受忍すべき状況であり、撮影時間も20秒ほどと短時間であることを考慮すれば、プライバシーの侵害は大きいものではない。

 以上の事情から、捜査①は、甲の重要な権利利益を侵害するとまではいえない。

ウ よって、捜査①は「強制の処分」とはいえない。

  したがって、検証許可状の発付を得ないで行ったとしても違法ではない。

⑵ もっとも、任意捜査の限界を超えて違法ではないか。

ア  任意捜査であるとしても、被処分者の権利利益の侵害が生ずるおそれがある。

 そのため、捜査比例の原則により、必要性・緊急性を考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において任意捜査は許容される。

 具体的には、①撮影の目的が正当であること、②犯罪を証明する証拠を得るための必要性と緊急性があること、③撮影が、一般に許容される限度を超えない相当な方法で行われることを要すると解する。

イ 本件は、被害額が100万円と高額な詐欺事件であり、更に被害者を増やさないためにも、早急に犯人を検挙する必要があった。

 そして、犯人の容貌が判明していないことから、甲の容貌を撮影してVに確認させ、甲が犯人であるか否かを確認させる必要があり、撮影には正当な目的が認められる(①、②充足)。

 撮影方法は、公道上から、甲がA事務所の中に入るところをわずか20秒間撮影したものであり、一般的に許容される限度を越えるない相当な方法であったと認められる(③充足)。

ウ よって、必要性、緊急性の高さに照らせば、捜査①の捜査手法は相当な限度であったといえる。

 したがって、任意捜査として適法である。

2 捜査②について

⑴ 捜査②は、甲のプライバシーを侵害する「強制の処分」であり、検証許可状の発付を得ずに行ったことは違法ではないか。

ア 上述の基準に即して判断する。

イ 工具箱は本件事務所内にあり、公道上から見ることはできないことから、向かい側のマンションの採光用の小窓から望遠付きビデオカメラを用いて撮影するという特別な方法が採られており、これは、通常であれば、他人に見られることない物をのぞき見る行為であり、プライバシーを侵害するおそれのある捜査手法であるといえる。

 また、建物内は令状がなければ立ち入ることができない要保護性の高い空間である(憲法35条1項)。

 甲は、本件事務所内にある工具箱が撮影されていることを認識していないが、被処分者が人権侵害を認識し得ない場合でも、人権保障の観点から、権利侵害からの保護を図る必要がある。

 仮に、甲が望遠付きビデオカメラで本件事務所内にある工具箱が撮影されていることを知れば、甲は撮影を拒絶するだろうにもかかわらず撮影を行う行為は、乙の意思を抑圧する行為である。 

 よって、捜査②は、甲のプライバシーを相当程度侵害する行為である。

 しかし、撮影時間は5秒と短く、5秒程度あれば偶然他人から見られることもありうる。

 その上、撮影したのは工具箱のみで、本件事務所内にいる甲の姿を撮影するという大きなプライバシーの侵害が生じる撮影はしていない。

 以上の事情から、捜査②は、甲の重要な権利利益を侵害するとまではいえない。

ウ よって、捜査②は「強制の処分」とはいえない。

 したがって、検証許可状の発付を得ないで行ったとしても違法ではない。

⑵ では、任意捜査の限界を超えて違法ではないか。

ア 上述の基準に即し、①撮影の目的が正当であること、②犯罪を証明する証拠を得るための必要性と緊急性があること、③撮影が、一般に許容される限度を超えない相当な方法で行われることという観点から判断する。

イ 捜査②の段階では、Vの供述により、詐欺犯人が甲であることの嫌疑が高まっており、さらに甲の犯人性を裏付ける証拠を獲得し、早急に甲を検挙する必要があった。

 そして、撮影により工具箱に「A工務店」と書かれていることが確認できれば、それを決めてとして、甲を詐欺犯人として検挙できることから、撮影には正当な目的が認められる(①、②充足)。

 撮影方法は、公道上からの撮影が困難であったことから、向かい側のマンションの小窓から望遠レンズ付きビデオカメラで撮影するというものであるが、撮影時間はわずか5秒であり、甲の姿を映すというプライバー侵害を生じさせていないから、甲のプライバシー侵害を必要最小限度に抑える配慮をした撮影であるといえ、撮影方法は相当であったといえる(③充足)。

ウ よって、必要性、緊急性の高さに照らせば、捜査②の捜査手法は相当な限度であったといえる。

 したがって、任意捜査として適法である。

設問2

1 小問1

⑴ 本件メモは、伝聞証拠に当たり、証拠能力が否定されないか(刑訴法320条1項)。

ア 伝聞法則の趣旨は、公判廷外の供述証拠は、知覚・記憶・表現・叙述の過程を経て生成されるため、その各過程で誤りが混入するおそれがあることから、反対尋問による真実性の審査を経ないものについて、原則として証拠能力を否定することで、誤判を防ぐことにある。

 かかる趣旨から、刑訴法320条1項の伝聞法則の適用を受ける「書面」「供述」とは、要証事実との関係で、その供述内容の真実性が問題となるものをいう。

 その判断は、要証事実との関係で相対的に決まる。

イ 本件メモは、Vが自らその供述内容を記載した書面であり、公判廷外のVの供述書に当たる。

 本件メモの立証趣旨は、「甲が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」であり、これは、本件メモに記載された内容を甲がVに発言した事実を立証し、甲がVに100万円を詐取する欺罔行為を行っていることを要証事実とするものである。

 そこで、甲が本当に本件メモ記載の発言をしたのかという甲の発言内容の真実性が問題となるため、本件メモは伝聞証拠に当たる。

 よって、本件メモは、乙の公判廷外の供述として、刑訴法320条1項の伝聞法則の適用を受け、甲の弁護人が証拠とすることに同意しなかった以上(刑訴法326条1項)、証拠能力を欠くことになる。

⑵ もっとも、刑訴法321条1項3号により証拠能力が認められないか。

ア 本件メモは、甲の公判において、被告人以外が作成した供述書に当たる(刑訴法321条1項柱書)。

 また、本件メモは、裁判官及び検察官の面前における供述を録取した書面(刑訴法321条1項1号・2号)に該当しないので、刑訴法321条1項3号に該当する書面となる。

 刑訴法321条1項3号により証拠能力が認められるには、同号にある①供述不能の要件、②証拠の不可欠性の要件、③絶対的特信情況の要件の全ての要件を満たす必要がある。

 ①供述不能の要件につき、Vは意識が回復する見込みがなく、回復したとしても記憶障害が残り、証人出廷は不可能であることから、「身体の故障」があるといえ、供述不能の要件を満たす。

 ②証拠の不可欠性の要件につき、甲がVに欺罔行為を行ったことを直接的に立証できる証拠は本件メモしかなく、本件メモは証拠の不可欠性の要件を満たす。

 ③絶対的特信情況の要件につき、Vは、午前10時に詐欺が開始されてから9時間後に詐欺被害に遭ったことに気付き、その直後にその場ですぐに本件メモを自分の手書きで作成しており、本件メモは新鮮なVの記憶に基づき、誰の誘導もなく書かれたものであることから、絶対的特信情況の要件を満たす。

イ よって、本件メモは、刑訴法321条1項3号の全ての要件を満たすことから、同号により証拠能力が認められる。

2 小問2

⑴ 本件領収書は、伝聞証拠に当たり、証拠能力が否定されないか。

 上述の基準に照らして判断する。

 本件領収書は、甲自らその供述内容を記載した書面であり、公判廷外の甲の供述書に当たる。

 本件領収書の立証趣旨は、「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」であり、これは、甲がVから屋根裏工事代金として100万円を受け取った事実を立証し、甲がVから詐欺による不法の利益を得たことを要証事実とするものである。

⑵ まず、本件領収書に記載された内容から、上記立証趣旨の事実を証明するという使用方法が想定される。

 この場合、本件領収書の記載内容の真実性が問題となり、本件領収書は伝聞証拠となる。

 そして、本件領収書を伝聞証拠として使用する場合、甲の弁護人が不同意(刑訴法326条1項)としているため、被告人の供述書として刑訴法322条1項の伝聞例外の適用により、証拠能力が認められる必要がある。

 刑訴法322条1項は、被告人が作成した供述書、又は被告人の供述を録取した書面(供述録取書)で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が、①被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は、②特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限りこれを証拠とすることができると規定する。

 また、被告人の「不利益事実の承認」の供述を内容とする書面は、その供述が任意にされたものでない疑いがあるときは証拠能力は認められない(刑訴法322条1項ただし書)。

 本件領収書は、100万円を甲がVから受け取ったことが記載されており、甲に不利益な事実の承認を内容とするものである(⓵充足)。

 また、本件領収書は、甲が、Vに屋根裏工事代金として100万円を払わなければならないと錯誤させるために事前に甲自身が準備したものであり、その供述内容は、特に信用すべき情況の下になされたものであるといえる(②充足)。

 そして、甲は、本件領収書を本件詐欺で使うために自らの意思で作成しており、供述の任意性を疑わせる事情はない。

 よって、本件領収書は、伝聞証拠として使用した場合において、刑訴法322条1項により証拠能力が認められる。

⑶ 次に、本件領収書の作成者が甲であり、本件領収書が甲からVに交付されたものであることを前提に、甲とVとの間で、本件領収書記載の金銭の授受があった事実を立証するという使用方法が想定される。

 甲が作成した本件領収書をVが所持しているということは、甲とVとの間で、本件領収書に記載されている100万円の授受があったことを経験則から合理的に推認できる。

 この場合、本件領収書の存在自体が問題となり、本件領収書の記載内容は問題とならないため、本件領収書は非伝聞証拠となり、証拠能力が認められる。