周囲にたくさん人がいる場合、自分の責任を感じなくなる
多くの家族連れでにぎわう公園の真ん中で、3歳の子供が迷子になって泣いていたとします。
あなたは、すぐに迷子になった子供に声をかけて、親を探したり、迷子センターに子供を連れて行くことができますか?
私は、できません。
周囲に子供を持つたくさんの大人たちがいるので、まず周囲の目を気にします。
しばらく様子を見て、迷子になった子供に声をかける人が現れないかを観察します。
なぜ、私は、すぐに迷子になった子供に声をかけることができないかを自分で分かっています。
それは、迷子になった子供に手を差し伸べるのは、自分に課せられた責任ではないと、無意識に心が判断しているからです。
言い換えると、「きっと、しばらくすれば、自分以外の誰かが何とかしてくれるだろ?」と思っているわけです。
もし、本当に、上記のような状況に出くわした場合、ほとんどの人は動けません。
なぜならば、人は、
周囲にたくさん人がいる場合、自分の責任を感じなくなる
という心理傾向をもっているからです。
人助け実験
「人は、周囲にたくさん人がいる場合、自分の責任を感じなくなる」ことを証明する有名な実験があります。
その実験は、ニューヨーク大学が行った ‶ 人助け実験 ″ です。
実験内容
実験の参加者は6名を1グループとし、個別ブースに入り、マイクで自分の近況や悩みについて、順番に2分ずつ話をするよう指示される。
話をする人のマイクだけがオンになる。
じつは、6名のうち、1名はサクラであり、まずサクラが最初に台本どおりの話をする。
サクラは、ニューヨークの生活になじめないと話し、さらに、緊張するとぜん息の発作が起きると悩みを打ち明ける。
次に別の参加者が話す。
こうして一巡したところで、ふたたびサクラのマイクがオンになる。
このとき、サクラは「た、た、た、助けてくれ…発作がきた。苦しい…助けてくれ…」とふりしぼった声で助けを呼び、喉が詰まるような音のあとに沈黙する。
この時点でマイクは次の人に切り替わり、死にかかったサクラのブースからは何も音が聞こえなくなる。
実験結果
合計15人の参加者のうち、すぐさま行動を起こして助けを呼んだのはたった4人であった。
6人は、最後までブースから出てこなかった。
残り5人は、サクラが明らかに窒息死した頃になって、ようやく重い腰を上げた。
実験結果から分かること
人は、自分がそこそこ親切な人間だと自認しているし、人助け実験のような状況なら、すぐに助けに駆けつけるだろうと自負しているが、ほとんどの人にとって、それは勘違いである。
助けを求める声を聞いた人がほかにいると分かっている場合には、人は自分の責任を感じない。
ゆえに、発作を起こした人を助に行くという怖さのある仕事を、ほかの人がやってくれそうだと思ったら、自分はすぐには行動しない。
他人が率先して行動する可能性があると知っていたら、人は動かない。
なぜなら、他人の存在が、自分の責任観念を弱めてしまうからである。
責任が分散されているような状況においては、親切な人でも、驚くほど不親切に変わることがある。
まとめ
「人は、周囲にたくさん人がいる場合、自分の責任を感じなくなる」という心理傾向をもっていることを自覚しましょう。
その心理傾向に陥ることを自覚できることで、たくさんの大人たちがいる公園の真ん中で迷子になった子供に対し、すぐさま手を差し伸べることができるようになれるかもしれません。
なぜなら、自分の心理を自覚することで、遭遇する状況の見方や、認識の仕方が変わり、動けないメンタルブルロックを破壊できる可能性が高くなるからです。
「今、自分は、周囲にたくさんの人がいることで、迷子の子供を助けることについて、責任を感じない心理状態に陥っている」
「だかこそ、この心理状態を打ち破って、動かなければならない」
と考えて、目を覚ますことができるかもしれないわけです。
心理学を学んだかどうかの真のテストは、単に知識が増えたかどうかではなく、遭遇する状況の見方や認識が変わることで、違った心境に立ち、違った行動がとれるかどうかにあります。