刑法(遺棄罪)

遺棄罪(1) ~「遺棄罪とは?」「保護法益」「抽危険犯の類型(抽象的危険犯)」「遺棄罪の特別罪」「主体(犯人)」を説明~

 これから9回にわたり、遺棄罪(刑法217条)を説明します。

遺棄罪とは?

 遺棄罪は、刑法217条に規定があり、

老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、1年以下の懲役に処する

と規定されます。

 刑法217条は、遺棄罪の一般的な処罰規定です。

 保護責任を有する者が遺棄行為を行ったときには、刑法218条の保護責任者遺棄罪で処罰されることとなります。

保護法益

 遺棄罪の保護法益は、

被遺棄者の生命・身体に対する危険

です。

危険犯の類型(抽象的危険犯)

 遺棄罪の危険犯としての性格は、具体的な危険の発生を構成要件としていないことから、具体的危険犯ではなく、抽象的危険犯と解されます。

 この点を判示した以下の判例があります。

大審院判決(大正4年5月21日)

 裁判所は、

  • 刑法第217条の罪は、扶助を要すべき老者、幼者、不具者又は病者を遺棄するにより直ちに成立するものにして、その行為の結果、現実に生命身体に対する危険を発生せしめたると否とに関係なきものとす

と判示しました。

大阪高裁判決(昭和53年3月14日)

 裁判所は、

  • 遺棄罪は、生命、身体を保護法益とする抽象的危険犯であると解すべきところ、抽象的危険犯においては、一般的に法益侵害の危険が存在すると認められれば足りるのであるから、遺棄罪における被遺棄者の生命、身体に対する危険も右の程度のもので足りるというべきである

と判示しました。

 具体的な遺棄の危険が発生していなくても、抽象的な遺棄の危険が発生するだけで、遺棄罪の成立が認めれます。

 なお、判例において遺棄罪の成立が認められている事案は、ある程度具体的な危険の発生が認められる事案であるという傾向があります。

遺棄罪の特別罪

 遺棄罪に関する特別罪(特別刑法)として、

  • 軽犯罪法1条18号(要扶助者不申告罪:自己の占有する場所内に、老幼、不具若しくは傷病のため扶助を必要とする者のあることを知りながら、速やかにこれを公務員に申し出なかった者を拘留又は科料に処する)
  • 船員法125条3項(海員遺棄罪:外国において海員を遺棄した船長を2年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する)

があります。

主体(犯人)

 遺棄罪(刑法217条)の主体(犯人)には、被遺棄者に対する保護責任を有しない者であることのほかには、何ら制限はありません。

 被遺棄者に対する保護責任を有する者は、刑法218条の保護責任者遺棄罪の主体(犯人)となります。

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