前回の記事の続きです。
客体(被害者)
遺棄罪(刑法217条)の客体(被害者)は、
老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者
です。
つまり、客体(被害者)は、
「扶助を必要とする者」
でなければならず、また、その扶助を必要とする原因は、
「老年、幼年身体障害又は疾病」
でなければなりません。
「老年、幼年身体障害又は疾病」は例示ではなく、制限的に列挙して規定されているものです。
なので、老年、幼年、身体障害又は疾病の者であっても、扶助を必要としない者は、遺棄罪の客体とはなりません。
また、扶助を必要とする者であっても、その原因が、老年、幼年、身体障害又は疾病のいずれにも該当しないときには、遺棄罪の客体になりません。
「扶助を必要とする者」と「老年、幼年、身体障害又は疾病」の要件は一体として客体の該当性が判断される
上記のとおり、遺棄罪の客体は、老年、幼年、身体障害又は疾病を原因とする扶助を必要とする者でなければならないところ、裁判例の傾向は、この「扶助を必要とする」という要件と、その原因となる「老年、幼年、身体障害又は疾病」という要件について、
- それぞれ別個に判断するのではなく、
- 個々具体的な事例に応じて、この2つの要件をできるだけ一体として全体的かつ総合的に見て、客体に該当するかどうかで判断をしている
といえます。
裁判例の傾向として、
- 老年、幼年、身体障害又は疾病の程度が著しければ、扶助を必要とする程度も高くなるので、これらの者が遺棄罪の客体に該当することを比較的容易に認定している
- 扶助を必要とする程度が高ければ、老年、幼年、身体障害又は疾病の程度がさほど高くなくとも、全体を考察して、遺棄罪の客体として認定している
といえます。
この点、参考となる以下の裁判例があります。
東京地裁判決(昭和63年10月26日)
14歳から2歳までの実子4人を自宅に置き去りにした事案について、保護責任者遣棄罪(刑法218条)の成立を認めた事例です。
14歳の子供についても、刑法218条の幼年者に該当すると認定した点が注目されます。
母親が愛人との同棲生活を続けるために、約半年間子供らをアパートの一室に放置したもので、養育者は母親のみであり、当該14歳の児童については出生届も出していなかったことから、学校にも通わせておらず、さらに、その14歳の児童に、その下の6歳、3歳、2歳という養育の必要性が極めて高い3人の兄弟の面倒までも見させていたものであり、14歳の児童についても、その扶助を必要とする程度が高いことから、幼者と認定したものと考えられてます。
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