前回の記事の続きです。
客体(被害者)である「老年、幼年」「身体障害」とは?
遺棄罪(刑法217条)の客体(被害者)は、
老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者
です。
この記事では、「老年、幼年」「身体障害」を説明します。
①「老年、幼年」とは?
まず、「老年、幼年」を説明します。
老年、幼年ともに年齢的な要件はありません。
老年者、幼年者として、その年齢的な限界を一律に引くことは困難です。
なので、老年者、幼年者が扶助を必要とする程度との関係で、具体的事実関係に応じて、老年者、幼年者の該当性が判断されます。
なお、老年者、幼年者は、判例・裁判例においては、遺棄罪(刑法217条)の客体としてではなく、保護責任者遺棄罪(刑法218条)の客体として、老年者、幼年者に該当すると判断されているものがほとんどです。
「老年者」と認定された例として、
- 80歳前後の老人(大審院判決 大正4年5月21日)
- 87歳の老人(大審院判決 大正7年3月23日)
- 65歳の老人(大審院判決 大正8年8月7日)
- 73歳の老人(大審院判決 大正14年12月8日)
- 80歳の老人(大審院判決 昭和10年10月30日)
があり、そのほとんどが疾病も加わっているものとなっています。
「幼年者」と認定された例として、
- 出生直後の嬰児(熊本地裁判決 昭和35年7月1日、最高裁決定 昭和63年1月19日)
- 出生後2週間の嬰児(大審院判決 大正4年2月10日)
- 生後約2か月の幼児(さいたま地裁判決 平成14年2月25日)
- 生後約4か月の幼児(千葉地裁判決 平成12年2月4日)
- 2歳の幼児(大審院判決 大正5年2月12日)
- 3歳の幼児(東京地裁判決 昭和48年3月9日、東京地裁判決 昭和63年10月26日)
- 4歳の幼児(大審院判決 昭和12年9月10日、大阪高裁判決 昭和53年3月14日)
- 6歳の子供(東京地裁判決 昭和63年10月26日)
- 14歳の子供(東京地裁判決 昭和63年10月26日)
があります。
②「身体障害」とは?
次に「身体障害」を説明します。
「身体障害」とは、
- 先天的又は後天的に身体の一部に損傷若しくは機能に障害があること
つまり、
- 身体器官の肉体的若しくは機能的不完全なことで、視覚、聴覚、言語、肢体の機能等に欠損若しくは障害のある者のこと
をいいます。
手足を縛られている者も身体障害に準ずるとする学説がありますが、手足を縛られている状態は単に一時的な一過性の状態にすぎず、身体障害とは本質的に異なるから、該当しないとされます。
どの程度の具体的な障害があればこの「身体障害」の要件に該当するかは、一律に定義することは困難であるので、扶助を必要とする程度との関係で、具体的事実関係に応じて判断されます。
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