刑法(遺棄罪)

遺棄罪(5) ~客体④「客体(被害者)の要件である『扶助を必要とする者』とは?」を説明~

 前回の記事の続きです。

客体(被害者)の要件である『扶助を必要とする者』とは?

 遺棄罪(刑法217条)の客体(被害者)は、

老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者

です。

 この記事では、「扶助を必要とする者」を説明します。

「扶助を必要とする者」とは?

 「扶助を必要とする者」とは、

老幼不具又は疾病によって、精神上若しくは身体上の欠陥を生じ、他人の扶助助力がなければ、自ら日常生活を営むことができない者

をいいます。

 経済的に貧窮している必要はなく、生活物資を自給し得るかどうかは問わないとされます。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(大正4年5月21日)

 裁判所は、

刑法第217条所定の扶助を要すべき者とは、老幼、不具又は疾病によって、精神上若しくは身体上の欠陥を生じ、他人の扶助助力を待つに非ざれば、自ら日常生活を営むべき動作を為す能わざる者

と判示しています。

扶助を要する者でも、生命・身体に対する危険が生じていなければ遺棄罪の客体にならない

 遺棄罪の保護法益は、

被遺棄者の生命・身体に対する危険

です。

 遺棄罪が生命・身体に対する危険犯であることから、扶助を要する者が経済的に困窮していても、また、生活物資を自給することができなくとも、扶助を必要とする原因となる老年、幼年、身体障害又は疾病との関係で生命・身体に対する危険が生じていなければ、遺棄罪の客体にならず、遺棄罪は成立しません。

扶助を必要とするかどうかの判断基準

 扶助を必要とするかどうかの判断は、一律にその基準を定めることは困難です。

 扶助を必要とするかどうかの判断は、具体的事実関係に応じて、その原因となった老年、幼年、身体障害又は疾病の程度との関係に応じて、全体として、他人の助力なしには日常生活に必要な起居動作を行うことができず、自己の生命・身体に対する危険を回避できない者に該当するかどうかで判断することになると考えられます。

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