前回の記事の続きです。
身分犯による共同正犯
犯罪には、身分犯というものがあります。
身分犯とは、犯人に一定の身分がなければ、犯罪が成立しない犯罪をいいます。
たとえば、政治家が賄賂を受け取ったり、賄賂の要求や約束をする罪である「収賄罪(刑法197条)」は、犯人に『公務員』という身分がなければ、犯罪が成立しない身分犯です。
ここで疑問になるのは、公務員でない犯人が、公務員である犯人と共謀して、収賄罪を実行した場合、公務員でない犯人も、収賄罪の共同正犯で処罰できるか?という点です。
結論として、身分のない者でも、身分のある犯人と共謀して身分犯たる犯罪を犯せば、共同正犯(共犯)として、身分のある犯人と同じく処罰されます。
先ほどの収賄罪の例で考えると、公務員でない政治家秘書が、公務員である政治家と共謀して収賄罪を行った場合、公務員でない政治家秘書も、公務員である政治家と同等に、収賄罪で処罰されることになります。
これは、刑法65条1項に、『犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする』と規定されているためです。
保護責任者遺棄罪の共犯者に保護責任者の身分がない場合でも、共犯者には、保護責任者遺棄罪の共同正犯が成立する
保護責任者遺棄罪(刑法218条)が身分犯であることを明示した判例・裁判例は見当たりませんが、保護責任者遺棄罪の保護責任者は、被遺棄者との関係で保護責任を有する立場にある者であることから、身分犯と解されます。
なので、保護責任者遺棄罪の共犯に関しては、刑法65条1項・2項の適用をめぐって、共犯の身分の問題が生じることになります。
正犯が保護責任者という身分を有し、共犯がその身分を有しないときの問題について、正犯者について保護責任者遺棄罪が成立することは当然ですが、共犯者の罪責に関して、刑法65条1項・2項の適用を検討することになります。
判例・裁判例では、保護責任者遺棄罪に関してこの点を判断したものはありませんが、不真正身分犯である尊属殺人罪(旧刑法200条:平成7年の改正の際に削除)に関して、第三者であるAとBが共同してBの親を殺害した事案について、Aに尊属殺人罪の共同正犯の成立を認め、刑法65条2項のみを適用し、刑法65条1項の適用は否定していることから(最高裁判決 昭和31年5月24日)、これと同様に、保護責任者遺棄罪の共同正犯までも含めた共犯の成立を認め、刑法65条2項のみを適用することになると考えられます。
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