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不安障害とは? ~不安障害の人は、不安と安全の区別がつかない~

不安障害とは

 不安障害とは、不安を主症状とする精神疾患です。

 もし、あなたに、

  • 実際に脅威となるものがないのに不安になり、普通の行動がとれなくなる
  • 不安に支配され、現状を対局的に把握することも、冷静に考えることもできなくなる

ことがよく起こるのであれば、それは不安障害です。

 個人的な感覚として、日本人の半分以上が不安障害に陥っているような気がします。

不安障害の人の特徴

 不安障害の人は、何でもない事に対し、それが脅威であるかのような反応をします。

 たとえば、上司にどやされるわけでもないのに、上司と対峙すると脅威を感じる…というのが、これに当たります。

 また、不安障害の人は、自ら不安となる要素を探し、過剰な心配をします。

 まだ何も起こってないのに、「もし~したらどうしよう」と考え、精神が恐怖に支配されます。

 不安障害の人は、不安感受性(不安そのものに危険を感じやすい傾向)が強いのです。

 不安感受性が強くなると、失敗しそうな気がしただけで、恐怖でまともな思考できなくなり、体もこわばって動かなくなり、本当に失敗します。

 実際に起こる出来事ではなく、自分が作り出した恐怖そのものを恐れるようになります。

 しかも、恐怖は無限に作り出すことができるので、不安は高まり続け、手に負えなくなります。

「恐れ」とは何か?

 「恐れ」とは、神経学においては、「危険の記憶」と定義されます。

 不安障害になると、脳は、常に、『恐ろしかったときの記憶』(危険の記憶)を再生しようとします。

 不安障害が発動すると、現実の危険が過ぎ去り、危険が過去のものになったとしても、脳が警報信号を解除してくれません。

 「危険は、まだある」と認知している脳は、『恐ろしかったときの記憶』を再生して、危険に備えようとします。

 脳が再生するのは、『恐ろしかったときの記憶』に限りません。

  • 怒られた記憶
  • 恥をかいた記憶
  • 侮辱された記憶
  • 失敗した記憶
  • ドジをした記憶
  • 嫌われた記憶

など、様々なネガティブな記憶を再生します。

 ネガティブな記憶の再生にとりつかれると、そのネガティブな記憶がつぎつぎに恐怖や不安と結びつきます。

 すると、恐怖や不安の膨張が止まらなくなり、その人は、恐怖や不安しか見ない萎縮した世界の中で生きることになります。

 そうなれば、その人の人生は苦しいものになります。

不安障害に陥る人の脳

 不安障害に陥るのは、脳の前頭前野(理性的な思考をつかさどる脳の部位)が、偏桃体(恐怖や不安をつかさどる脳の部位)をしっかりコントロールしないためです。

 不安障害の患者の脳をスキャンしたところ、「前頭前野の中にある偏桃体に停止信号を送る仕事をする部位」が小さすぎることが分かりました。

 前頭前野による理性の歯止めがかからず、興奮した偏桃体は、なんでもない状況を生命を脅かす危機と見なし、記憶に焼き付けます。

 不安障害の人は、偏桃体が敏感に反応してしまう脳になっているのです。

不安障害の人は、不安と安全の区別がつかない

 不安障害の人と、不安障害でない人に対し、恐ろしい写真と、恐ろしくない写真を見せて、脳の偏桃体の反応を確認した実験があります。

 不安障害の人と、不安障害でない人の脳の活動を写したMRI画像を比べると、恐ろしい写真に対する偏桃体の反応に差は認められませんでした。

 しかし、恐ろしくない写真に対しては、偏桃体の反応に差が出ました。

 不安障害でない人は、恐ろしくない写真(ほのぼのとした写真)を見せられると、偏桃体の活動が一気に穏やかになりました。

 これに対し、不安障害の人は、恐ろしくない写真(ほのぼのとした写真)を見たときでも、偏桃体は、恐ろしい写真を見たときと変わらない反応を示しました。

 このことから、不安障害の人は、不安と安全の区別がつかないことが分かりました。

 不安と安全の区別がつかないことが、不安障害たらしめる理由なのです。

恐怖は永遠に続く

 恐怖・不安などのネガティブな記憶は、消すことができるでしょうか?

 答えは、ノーです。

 恐怖・不安などのネガティブな記憶は、消すことはできず、脳回路の中に残り続けます。

 なぜならば、脳には可塑性という性質があるからです。

 可塑性とは、個体に力を加えて変形を与えたとき、力を取り去ってもひずみが残る性質をいいます。

(粘土の上にレンガを落とすと、粘土はレンガが押し込まれた形に変形し、元の状態には戻らないイメージです)

 一度、脳に記憶が刻まれると、脳回路が変形し、もう元の脳の状態には戻ることはないため、記憶が消えることはないのです。

 たちが悪いのは、恐怖・不安などのネガティブな記憶は、既存の平穏な記憶を駆逐してしまうことです。

 たとえば、今まで仲の良かった知人から、強く罵倒されたとします。

 すると、以後、あなたは、その知人と絡むたびに、強く罵倒されたときの記憶を思い出し、不快な感情を味わうことになります。

 強く罵倒された時の記憶が、今までずっと何事なく、良好な関係だった記憶よりも強烈だからです。

 恐怖・不安などのネガティブな記憶の回路が出来上がると、その回路はずっと残り続けます。

 これにより、恐怖・不安などのネガティブな感情は永遠に続くのです。

追記

 恐怖・不安などのネガティブな感情は永遠に続く…じゃあ、どうすればいいの?ということになりますが、その点については、次の記事で書いています。

恐怖消去 ~恐怖の記憶を消すことはできないが、追いやることはできる(脳回路の再構築)~