刑法(逮捕監禁致死傷罪)

逮捕監禁致死傷罪(3) ~因果関係①「逮捕監禁致傷罪が成立するためには、逮捕監禁の行為と人の死傷との間に因果関係が必要である」を説明~

 前回の記事の続きです。

逮捕監禁致傷罪が成立するためには、逮捕監禁の行為と人の死傷との間に因果関係が必要である

 逮捕監禁致死傷罪(刑法221条)が成立するための要件は、

  1. 逮捕監禁罪(刑法220条)が成立すること
  2. 逮捕監禁の行為と人の死傷との間に因果関係が存在すること

です。 

 この記事では、「②逮捕監禁の行為と人の死傷との間に因果関係が存在すること」について説明します(①については前回の記事で説明しています)。

 「逮捕監禁の行為と人の死傷との間に因果関係が存在する」といえるためには、

  • 人の傷害又は死亡が逮捕監禁の結果として発生したこと

    つまり、

  • 人の死傷が逮捕監禁そのもの、少なくとも逮捕監禁の手段としての行為そのものから生じたこと

が必要です。

 この点を判示したのが以下の裁判例です。

名古屋高裁判決(昭和31年5月31日)

 裁判所は、

  • 逮捕又は監禁の罪を犯し、よって人を死傷に致したものとして刑法第221条を適用し得るがためには、逮捕又は監禁の所為と人の死傷との間にいわゆる因果関係の存在すること、即ち人の死傷が逮捕又は監禁そのもの、少くともその手段たる行為そのものから生じたことを要するものと解すべきこと、同条の文言に照らし明らかであるから、人を監禁し、その機会にこれに暴行を加え、よって傷害を負わせたというにとどまり、監禁と傷害との間に因果関係のないことの明らかな前記原判示のような場合には、もはやこれに対し同条を適用処断すべき余地のないもので、かかる場合には、むしろその監禁の点につき刑法第220条を、傷害の点につき同法第204条を適用した上、右両者を同法第45条前段併合罪として処断するのが相当であるといわなければならない

と判示しました。

人の死傷が逮捕監禁そのもの、若しくは、逮捕監禁の手段たる行為から生じたとして、逮捕監禁致死傷罪の成立が認められた事例

 事例として、以下のものがあります。

名古屋地裁判決(昭和34年4月27日)

 被害者を緊縛した上、風呂桶内に押し込み、蓋をくぎづけして監禁した結果、被害者が胸部圧迫により窒息死した事案で、監禁致死罪の成立を認めました。

大審院判決(昭和11年4月18日)

 被害者の全身を四布掛布団に包んだ上からわら縄及び兵児帯で胴膝及び上胸部辺を縛り、さらに麻縄で両手首両足首を縛り、なおその頭部に四布掛布団を覆いかぶせたまま数時間放置して監禁した結果、被害者死亡した事案で、監禁致死罪の成立を認めました。

大審院判決(大正10年4月11日)

 被害者を捉え倉庫内に拉致し、被害者の身体を抑圧せしめつつ、わら縄で被害者を縛り、立ち上がれない状態にし放置して監禁した結果、被害者が左右両頸部に緊縛したわら縄のため強度に頸動脈等を絞圧され窒息死した事案で、監禁致死罪の成立を認めました。

東京地裁判決(昭和47年4月27日)

 被害者の背後から腕で同人の首を締めつけ手ぬぐいで口を押さえ塞ぎ、ロープで被害者の両手を肩まで挙げて各手首を縛った上、椅子にくくりつけ、さらに両足を縛り手ぬぐいを用いて猿ぐつわをし、短刀を突きつけるなどして被害者を監禁し、その際、上記暴行により両手関節部・両足関節部・両側膝関節部内出血、右手背部・右足背部挫創の傷害を負わせた事案で、監禁致死罪の成立を認めました。

東京地裁判決(昭和57年12月23日)

 左腕で被害者の頸部を抱え、右手で柳刃包丁を被害者ののど元に突きつけながら、他人の中華料理店の奥6畳間に入り込み、同室内で上記包丁の刃を被害者の頸部に押し当てたり、背部を切りつけたりするなどの暴行を加えて被害者を監禁し、その際、上記暴行により前胸部・背部・右上腕・右前腕擦過創等の傷害を負わせた事案で、監禁致傷罪の成立を認めました。

広島地裁福山支部判決(平成7年5月17日)

 当時14歳の男子の園児Dと16歳の女子の園児E子を懲罰名目で、7月28日午前0時30分頃、両名の手首を手錠でつないで園内の貨物用鉄製コンテナ(床面積約8.1平方メートル)の中に入れて入口扉に施錠し、同日午前6時過ぎ頃と昼過ぎ頃に扉を開けて水を与える等したものの、日中は内部の最高気温が摂氏40度前後に達する同コンテナの中に両名を長時間閉じ込めて脱出できないようにし、よって、E子については同日午後3時前後ころ、Dについては同日午後8時前後ころ、それぞれ高温状態等に基づく熱射病により同人らを死亡させた事案で、監禁致死罪の成立を認めました。

東京地裁判決(平成10年5月26日)

 E、N、Hら多数の者が順次共謀の上、当時68歳の男性Sを拉致しようと企て、品川区内の路上で歩行中のSに対し、Uらが背後から身体を抱えるなどして付近に停車させていた普通乗用自動車の後部座席に押し込んだ上、直ちにVが同車を発信させ、車内において、Hが全身麻酔薬であるケタラールの溶解液をSの右足のふくらはぎに注射して意識喪失状態に陥らせた上、全身麻酔薬である注射用チオペンタールナトリウムの溶解液を点滴投与して意識喪失状態を継続させたまま、Sを途中で別の車に載せ替えて上、九一色村の第2サティアンまで連行して、同所に連れ込み、ここにおいて、HらからSを連行してきた経緯について説明を受けた被告人は、E、H、Nらと共謀の上、Sの監禁を継続しようと企て、第2サティアンにおいて、被告人次いでHが、Sに注射用チオペンタールナトリウムの溶解液を点滴投与して意識喪失ないし意識低下状態を継続させるなどして、Sを同所から脱出不可能な状態において不法に逮捕監禁し、同所で、投与したチオペンタールナトリウムの副作用である呼吸抑制、循環抑制の状態における心不全ないしは呼吸停止等によりSを死亡させた事案で、逮捕監禁致死罪の成立を認めました。

秋田地裁判決(平成14年4月16日)

 全裸のままロープ等で緊縛し、布団袋詰めにして自動車の荷台に載せておくなどして逮捕監禁し、熱中症により死亡させた事案で、逮捕監禁致死罪の成立を認めました。

東京高裁判決(平成22年10月6日)

 2歳の被害児をごみ箱に入れふたを閉じて、その上からポリ袋をかぶせてゴムひもを巻きつけるなどして監禁し、酸素不足による窒息等により死亡させた事案で、監禁致死罪の成立を認めました。

岡山地裁判決(平成23年11月25日)

 室温13ないし14度の浴室内に全裸の状態で監禁し、低体温症により死亡させた事案で、監禁致死罪の成立を認めました。

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