刑法(逮捕監禁致死傷罪)

逮捕監禁致死傷罪(4) ~因果関係②「被害者が監禁状態から離脱しようとして自ら傷害を負ったような場合にも、監禁行為と死傷との間に因果関係があるとして監禁致死傷罪が成立する」を説明~

 前回の記事の続きです。

被害者が監禁状態から離脱しようとして自ら傷害を負ったような場合にも、監禁行為と死傷との間に因果関係があるとして監禁致死傷罪が成立する

 逮捕監禁そのものあるいはその手段としての行為そのものから生じたものでない場合にも、被害者が監禁状態から離脱しようとして自ら傷害を負ったような場合には、監禁行為と死傷との間に因果関係があるとして監禁致死傷罪の成立が認められます。

 参考となる判例として以下のものがあります(逮捕監禁致傷罪の事案ではありませんが、考え方は逮捕監禁致傷罪にも当てはまります)。

最高裁判決(昭和25年11月9日)

 暴行を避けようとして逃げ出した被害者が自ら鉄棒につまずいて打撲傷をおった事案につき傷害罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 被告人が被害者に対して大声で「何をボヤボヤしているのだ」等と悪口を浴せ、矢庭に拳大の瓦の破片を投げつけ、なおも「殺すぞ」等と怒鳴りながら側にあつた鍬を振りあげて追いかける気勢を示したので被害者がこれに驚いて難を避けようとして夢中で逃げ出し、約二十間走り続けるうち過つて鉄棒につまづいて転倒し、打撲傷を負うた場合には、右傷害の結果は、被告人の暴行によつて生じたものと解するのが相当である

と判示し、傷害罪の成立を認めました。

最高裁決定(昭和35年2月11日)

 強姦されそうになった被害者が難を避けるため2階の屋根から地上に飛び降り傷害を負った事案につき、強姦致傷罪(現行法:不同意性交等致傷)の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • A女は被告人から強姦されかかったので、その難を避けるため、窮余気転を利かし、その際に被告人の手を逃れ、更に8畳の間を経て、2階屋根に出て、同所より2m70cmくらい下の地上に飛下り救を求めた
  • そのため同女は右地上降下の衝撃により治療1か月を要する腰椎打撲の障害を負うたものである
  • たとえ同女が誤って屋根から落ちたとしても、被告人の本件強姦(未遂)の所為と同女の右受傷との間には因果関係の存すること論をまたない

と判示し、強姦致傷罪(現行法:不同意性交等致傷)の成立を認めました。

最高裁決定(平成15年7月16日)

 被害者が、被告人ら6名から、マンション居室等において長時間にわたって極めて激しい暴行を加えられ、隙を見て同マンションから逃走したが、被告人らに対し極度の恐怖感を抱き、その追跡から逃れるため同マンションから約763メートルないし約810メートル離れた高速道路に進入し、走行してきた自動車に衝突、更に後続車にれき過されて死亡したという事案につき、傷害致死罪の成立を認めた判決です。

 裁判所は、

  • 暴行の被害者が現場からの逃走途中に高速道路に進入するという極めて危険な行動を採ったために交通事故に遭遇して死亡したとしても、その行動が、長時間激しくかつ執ような暴行を受け、極度の恐怖感を抱いて、必死に逃走を図る過程で、とっさに選択されたものであり、暴行から逃れる方法として、著しく不自然、不相当であったとはいえないなど判示の事情の下においては、上記暴行と被害者の死亡との間には因果関係がある

と判示し、傷害致死罪の成立を認めました。

被害者が監禁状態から離脱しようとして自ら傷害を負った事案で、監禁致死傷罪の成立が認められた事例

 事例として以下のものがあります。

名古屋高裁判決(昭和35年11月21日)

 深夜に帰路を急ぐ被害女性を家まで送り届けてやるといって自己の運転する自動車に乗せた上、情交関係を迫って一蹴されるや、さらに機会を見て情交を遂げようと考えて、被害者が「車を停めてくれ」「降ろしてくれ」と要求するにもかかわらず、これを無視して走行し監禁を続けたため、被害者が脱出のため走行中の自動車から飛び降り死亡した事案で、監禁致死罪の成立を認めました。

 なお、この裁判では、被告人側が、被害者は飛び降りたのではなく、助手席ドアの故障のため車外に転落したと主張しましたが、裁判所は、

「同女の死亡が本件自動車のドアの故障による車外転落の結果であれ、原判決認定の如く同女が脱出のため走行中の自動車から飛び降りたものであれ、それは、被告人が原判示の如く同女を監禁中に生じたことであり、被告人のした監禁行為と同女の死亡との間に因果関係のあるととは両者いずれも同じである」

との説示をしています。

東京高裁判決(昭和42年8月30日)

 走行中の自動車に監禁されていた被害者が、自動車が徐行した際脱出を図り、運転台のドアを開けて路上に飛び降り、夢中ではだしのまま駆け出し、国道を約80メートル引き返した上、斜めに国道を横断中、折から進行して来た他の自動車に衝突し負傷した事案で、監禁致傷罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和55年10月7日)

 住居侵入の現行犯人として被害者を逮捕したが、被害者の身柄を警察官等に引き渡す意思はなく、こもごも脅迫の言辞を加え、後手に両手錠をかけるとともに複数人で見張りをして監禁したため、厳しい追及に耐えかねた被害者が脱出しようとして拘束されていた3階の窓から飛び降り路面に転倒して受傷死亡した事案で、監禁致死罪の成立を認めました。

名古屋高裁判決(平成9年3月12日)

 殴打等の有形力を行使してその身体を拘束した上、合宿所に連行してヨットスクールに入校させた特別合宿生に対して、その後、合宿所や夏期合宿施設等において、合宿訓練を行うに当たり体罰を加えたり、監視を続けるなどして監禁を続けた結果、同特別合宿生をして、今後も行動の自由が拘束され、体罰を加えられて訓練を強制される生活が続くことを嫌い、夏期合宿施設から合宿所に帰る途中の、一般の客も乗り合わせている貨客船(フェリー)から、ヨットスクールの校長やコーチの拘束から逃れようとして海に飛び込み死亡した事案で、監禁致死罪の成立を認めました。

福岡高裁判決(平成13年5月3日)

 被害者が監禁状態から逃れるため、監禁されていたアパート2階の窓から飛び降りて両下肢不全麻痺を伴う第一腰椎破裂骨折した事案で、監禁致傷罪の成立を認めました。

神戸地裁判決(平成14年3月25日)

 自動車内に監禁された中学生の女子に、その監禁によって自己の生命、身体にいかなる危害を加えられるかも知れないと畏怖させ、両手首に手錠を施したまま高速道路を走行中の同車から飛び降りさせて死亡させた事案で、監禁致死罪の成立を認めました。

新潟地裁判決(平成15年10月14日)

 被害者が監禁されていた事務所から脱出するため、同事務所窓から飛び降りて受傷した事案で、監禁致傷罪の成立を認めました。

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