刑法(恐喝罪)

恐喝罪(21) ~他罪との関係②「人を欺く行為と恐喝の両手段が併用された場合に、詐欺罪と恐喝罪のどちらが成立するか?」を判例で解説~

 恐喝罪(刑法249条)と詐欺罪(刑法246条)との関係について、判例を示して説明します。

人を欺く行為と恐喝の両手段が併用された場合に、詐欺罪と恐喝罪のどちらが成立するか?

 相手から財物を領得する場合に、人を欺く行為と恐喝の両手段が併用された場合、詐欺罪が成立するのか、恐喝罪が成立するのかについては、判例の結論は分かれています。

 なので、人を欺く行為と恐喝の両手段が併用された場合に、恐喝罪か詐欺罪のどちらが成立するかは、個別の事件ごとに判断することになります。

① 詐欺罪が成立するとした判例

 人を欺く行為と恐喝の両手段が併用された場合に、詐欺罪(刑法246条1項の詐欺)が成立するとした以下の判例があります。

大審院判決(明治36年4月7日)

 被告人が、A女が病気になり治療を求めたのに乗じて、「今、星祭りをしなければA女の夫は来年11月ころに必ず死亡する」と申し向け、畏怖心を利用して暗に祈薦を促し、 これを信じて星祭りを依頼したA女から、その料金として金1円50銭を交付させた事案です。

 裁判官は、

  • 恐喝取財(※刑法249条1項の恐喝罪)は、犯人が財物を騙取するの目的をもって、被害者に対し、財物を交付させるにおいては、その名誉、生命、身体、財産その他被害者の愛惜する事物に危害を加えんとするの意思を表示し、被害者の脳裏に畏怖の念を生ぜしめ、被害者をして、その危害を避けんとする念慮より犯人の希図したる財物を交付するの止むことを得ざざるに至らしむるによりて完成するものにして、犯人がその所為によりて被害者に危害を加えんと威嚇することと被害者が畏怖の念を生じ、その意に反して財物を交付することは、恐喝取財罪の構成要件たると同時に、犯人が被害者に加えようとする危害の実在するや否やは、犯罪の成立に何らの影響を及ぼさざるものとす
  • これに反して、犯人が自から危害を加えようと威嚇したるにあらずして、実在する危害を実在するものの如く偽り、被害者の脳裏にその危害は実在するとの誤信を生ぜしめ、架空の危害に対する被害者の畏怖心を利用し、被害者のために危害を除くを名とし、その対価として任意に財物を交付せしめたるときは、犯人の所為は、恐喝取財罪を構成せずして、詐欺取財を構成するものとす

と判示して、恐喝罪ではなく、詐欺罪の成立を認めました。

 この判例は、恐喝罪は、犯人の行為で被害者に危害を加えることを言うことにより成立するものであり、詐欺罪は、実在しない危害を実在するものと誤信させて架空の危害に対する被害者の畏怖心を生じさせるととにより成立するものと説明しています。

 そして、犯人の行為は、危害を加えることを被害者に申し向けていないので、恐喝罪ではなく、詐欺罪が成立するという結論を導いています。

 なお、上記判例とは逆に、詐欺罪ではなく、恐喝罪が成立するとした以下の判例があります。

広島高裁判決(昭和29年8月9日)

 この判例で、裁判官は、

  • 被告人は、A女から同女の母の病気につき、祈薦の依頼を受けたのを奇貨とし、『あんたのお母さんには外道がついている、その外道を神様に頼んでとってあげる、そのかわり金10万円出せ、出さぬとお前の母の命が危い』とか『5万円ではこらえられんからもう5万円程持って来い、惜しいのなら持って来んでもよいが、そのかわり命はないぞ、S家の一統は全滅じゃ』とか『先日出した10万円の金は出ししぶったので外道の神が怒って家族全部を殺すとのお告げであった、それを静めるためには4万円持って来て祈薦せよ』とか次々と申し向けて同女らを畏怖させた上、11回にわたり合計金32万7000円を交付せしめてこれを喝取した事実を認めるに十分である
  • 弁護人は、本件は詐欺であって恐喝ではないと主張し、前記恐喝行為において告知された害悪の内容が虚偽のものであることは推測するに難くないところであるけれども、被害者が右金員を交付するに至ったのは、畏怖の念に基づいたものであることは、前記被害者の供述等によって明らかであるところ、恐喝行為において告知された害悪の内容が虚偽のものを含んでいるとしても、それが相手方を畏怖させるに足り、かつ相手方の財物交付が畏怖に基づいた場合においては恐喝罪をもって論ずべく、詐欺罪をもって論ずべきものではない

と判示し、詐欺罪ではく、恐喝罪が成立するとしました。

 この判例では、恐喝者が自己の祈薦などによって、神罰や仏罰などを左右しうると相手に信じさせ、相手に対し、神罰や仏罰を受けるという告知をして畏怖させ財物を交付させているので、詐欺罪ではなく恐喝罪が成立するという結論を導いています。

② 詐欺罪と恐喝罪が成立するとした判例

 欺罔と恐喝の両手段を併用したところ、錯誤と畏怖とが併せて相手方の財物交付の原因になっている場合は、詐欺罪と恐喝罪とは観念的競合になり、両罪は一罪として成立するとした判例があります。

大審院判決(昭和5年5月17日)

 被告人Aが、資産家のBを恐喝して金額8万円の為替手形に引受けをさせた上、被告人に交付させることを企て、Bに対し「私がCに売り渡した山林の代金支払いについて、Cはあなたの裏書又は引受のある手形を交付すると約束しながら、あなたと同名異人で無資産者の関与した手形を私に交付して詐欺をしたのだが、あなたと共謀の上であることが判明したので告訴をする」旨申し向けてBを欺き、畏怖させ、更に、T銀行から金18万5000円の借受けの承諾を得てもいないのに、Bに対し「私の所有土地を担保としてDに前記金額を借り受けさせることにしたが、そのうち6万5000円は私よりCに融通して、手形に関し、あなたに迷惑を及ぼさない」旨虚偽のことを申し向けて、Bを欺き畏怖と錯誤に陥らせて、 Bに為替手形4通の引受けをさせた上、被告人に交付させた事案で、詐欺罪と恐喝罪の観念的競合になるとしました。

③ 恐喝罪が成立するとした判例

 害悪告知の内容が虚偽の事実であっても、相手方が畏怖の結果として財物を交付するに至った場合は、詐欺罪は成立せず、恐喝罪のみが成立するとした判例があります。

最高裁判決(昭和24年2月8日)

 被告人は、Aが窃取して来た綿糸の買入れを世話するといい、Aが綿糸20を家人に運搬させて来ると、被告人は、警察官を装い、Aに対し「警察の者だがこの綿糸はどこから持って来たか」と尋ね、Aが「火薬から持ち出した」と答えると、その氏名年齢職業を問い、紙に書き留める風をした上、取調べの必要があるから差出せ」と言い、もしこれに応じなければ直ちに警察署に連行するかもしれないような態度を示してAを畏怖させ、その場で綿糸20 梱を交付させた事案です。

 裁判官は、

  • 被告人の施用した手段の中に虚偽の部分、すなわち警察官と称した部分があっても、その部分も相手方に畏怖の念を生ぜしめる一材料となり、その畏怖の結果として相手方が財物を交付するに至った場合は、詐欺罪ではなく恐喝罪となるのである

と判示し、詐欺罪ではなく、恐喝罪が成立するとしました。

福岡高裁判決(昭和27年6年28日)

 この判例は、恐喝の手段として虚偽の事実を申し向けた事案です。

 裁判官は、

  • 被告人は、Tと共謀の上、Kに対し、Kが石炭の盗掘をしているのを奇貨とし、Kらから金銭を喝取しようと企て、盗掘の現場で、被告人において、「刑事が来とる、このことはうまく話をつけるから、一杯飲むだけのことをしてやれ、これが表向きになれば掘った石炭の量の4倍の罰金を出さねばならん、それより来ている刑事に一杯飲ませれば、その刑事がうまく内証にしてくれる」旨、またTにおいても「刑事が現場だけみるというて今日来ている。自分等も4万円使つたから貴方も刑事に一杯飲ませれば内々で済む」旨交互に申し向け、もしこれに応じなければ刑事事件とされる旨暗示して、同人を畏怖させ、よって即時同所でKから金1万円の交付をうけたというのである
  • 被告人は、石炭の盗掘をしているKの弱点に乗じ、Kから金銭を喝取するために刑事が現場に同行していないのに同行しているように虚偽の事実を申し向け、もしその要求に応じなければ刑事事件とされるかもしれない旨暗示したため、Kをして畏怖の念を生ぜしめ、その畏怖の結果、Kをして金銭を交付させたというのであるから、たとい、被告人がKを畏怖させる方法として施用した手段のうちに虚偽の事実を申し向けたとしても、その事実が、Kに畏怖の念を生じさせた一資料となり、その結果、金銭を交付させるに至ったもので、その被告人の所為が恐喝罪を構成することは言をまたない

と判示し、詐欺罪ではなく、恐喝罪が成立するとしました。

東京高裁判決(昭和38年6月6日)

 この判例で、裁判官は、

  • 欺罔が恐喝そのものの手段である場合においては、たとえ相手方がその虚偽の事実に欺かれたため、畏怖心を生じた場合でも、恐喝罪を構成し、詐欺罪は成立しないと解すべき

と判示しました。

東京地裁八王子支部(平成10年4月24日)

 この判例は、虚偽の事実を内容とする脅迫文言によって財物を交付させたことにつき、恐喝罪が成立するとされた事例です。

 裁判官は、

  • 恐喝罪の成否についてみるに、たしかに、被告人がHに対して申し向けた不審な男から脱税資料をHに買い取るようにとの交渉を依頼されたとの話は、被告人が勝手に作り上げた虚偽の事実である
  • 被告人のHに対する話は、Hを畏怖させるに足りる害悪の告知そのものであり、Hは、被告人の右話を聞き、被告人に交渉を依頼しなければ、自分の身体・財産等に危害が及んでくるのではないかと畏怖し、その害悪から逃れられるかどうかについて、被告人がその男に対し影響を与える立場にあると考えたからこそ、やむなく被告人にその男との交渉を依頼5000万円もの大金を交付したものであり、被告人自身、Hが畏怖していることを十分認識した上で現金5000万円を受領したのであるから、被告人には恐喝罪が成立するというべきである

と判示し、詐欺罪ではなく、恐喝罪が成立するとしました。

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