恐喝罪(刑法249条)と「強制性交等罪(強姦罪)」「暴力行為等処罰に関する法律違反(暴力行為処罰法)」「銃刀法違反」「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律違反(暴力団対策法)」との関係について、判例を示して説明します。
強制性交等罪(強姦罪)との関係
女性を脅迫して金銭を喝取するとともに、その困惑畏怖に乗じて、更に脅迫ないし暴行を加えて姦淫した場合は、強制性交等罪(強姦罪)と恐喝罪は併合罪となります。
この点について、以下の判例があります。
大阪地裁判決(平成2年10月17日)
女性を脅迫して金銭を喝取するとともに、その困惑畏怖に乗じて、更に脅迫ないし暴行を加えて姦淫した行為を、検察官が、恐喝罪と強姦若しくは強姦未遂とを観念的競合の関係にあるとして起訴したのを、裁判官は、
- 被告人の恐喝行為と強姦若しくは強姦未遂行為は、強姦若しくは強姦未遂行為が、先行する架電による恐喝行為での脅迫により困惑畏怖しているという被害者の状態を利用してなされ、あるいは双方の脅迫ないし暴行行為が一部重なり合っているという関係にあるにすぎず、これに被告人の恐喝行為の最終の目的が金員の取得にあり、強姦行為のそれが自己の性的欲求の満足にあって、当然にその既遂時期も異なるなど、その両行為の保護法益、罪質の違い等も併せ考えれば、自然的、社会的に観察しても、これらの行為を一個の行為とみるのは相当ではなく、両行為は併合罪の関係にあると解される
と判示し、強制性交等罪(強姦罪)と恐喝罪は併合罪の関係にあるとしました。
暴力行為等処罰に関する法律違反(暴力行為処罰法)との関係
暴力行為等処罰に関する法律(暴力行為処罰法)1条(集団による暴行、脅迫、器物損壊)の方法により、恐喝罪を犯した場合は、同法律1条に処罰規定がないため、単に恐喝罪のみが成立します。
この点について、以下の判例があります。
大審院判決(昭和9年10月6日)
この判例で、裁判官は、
- 多衆の威力を示し、恐喝をなしたるときは、単に刑法第249条のみを適用すべきものとす
と判示しました。
恐喝罪が成立する場合、その手段として行われた暴力行為等処罰に関する法律1条の罪とは観念的競合の関係にあるのではなく、単に恐喝罪のみが成立します。
この点について、以下の判例があります。
名古屋高裁判決(昭和52年1月13日)
この判例で、裁判官は、
- 恐喝罪が成立する場合、その手段として行われた脅迫又は暴行は別罪を構成しないと解するのが相当である
- 原判決が、恐喝未遂罪のほかに暴力行為等処罰に関する法律1条違反の罪に該当する旨説示したのは、法令の解釈適用を誤ったものといわなければならない
と判示しました。
暴力行為等処罰に関する法律1条の暴行により畏怖しているのに乗じ、引き続き時間的にも場所的にも極めて接着したところで財物を喝取した場合には、恐喝の犯意の発生が先の暴行後であったとしても、全体的に評価して恐喝罪の一罪が成立します。
この点について、以下の判例があります。
東京高裁判決(平成7年11月27日)
この判例で、裁判官は、
- 恐喝罪は、店舗内での暴行により被害者が畏怖しているのに乗じ、引き続きその店舗前の路上で行われたものである
- このように、暴行によって畏怖している被害者から、その畏怖に乗じ時、間的にも場所的にも極めて接着したところで財物を喝取しようとした場合には、恐喝の犯意の発生が第一の暴行後であったとしても、これらの所為については、全体的に評価し、恐喝罪の一罪が成立するにとどまると解するのが相当であり、恐喝罪とは別個に暴力行為等処罰に関する法律違反の罪が成立するものではないというべきである
と判示しました。
銃砲刀剣類所持等取締法違反との関係
恐喝行為をするのに用いた匕首(短刀)が不法所持である場合は、匕首の不法所持(銃刀法違反)と恐喝罪とは併合罪になります。
この点について、以下の判例があります。
東京高裁判決(昭和30年5月6日)
この判例で、裁判官は、
- 匕首の不法所持とこれを示しての恐喝とは、犯罪構成要件も異なり、被害法益も異なっているから、被告人が本件恐喝行為を為すに用いた匕首が不法所持にかかるものである以上、恐喝行為と不法所持行為とは別個の行為であり、別個の犯罪と見るべきであって、1個の行為と見ることはできない
と判示し、銃刀法違反と恐喝罪とは併合罪になるとしました。
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律違反(暴力団対策法)との関係
暴力団員によるみかじめ料要求行為のうち、恐喝罪の実行行為に当たり恐喝罪が成立する場合は、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律違反(暴力団対策法)の罪は成立しません。
恐喝罪の実行行為に当たらず恐喝罪が成立しない場合において、暴力団対策法の罪の成立が問題になります。
みかじめ料要求行為が恐喝罪の実行行為に当たり、恐喝罪が成立するとした事例として、以下の判例があります。
東京地裁判決(平成14年11月19日)
この判例で、裁判官は、
- 被告人が、Bに対し、『乙野会丙山一家甲野会乙山興業総責任者A』と太字で印刷された名刺を差し出した上、自己が暴力団幹部であることを明らかにしながら、みかじめ料の支払いを求め、その際、『商店街の連中も安心して働くために付き合っている』とか『いざこぎがあったり何かしたら、うちの組が飛んできて解決してやる』などと申し向けることは、周辺の他の店が、みかじめ料を支払って被告人の属する暴力団の庇護下で経営を行っていることを知らせるとともに、Bにおいて、被告人にみかじめ料を払わなければ、同暴力団の関係者がBの店の営業に妨害を加えかねないことを暗示するものであって、このような被告人の言動は、口調こそ丁寧であるものの、暴力団関係者がBの店の営業を妨害する旨の害悪の告知にほかならず、恐喝行為の内容たる脅迫に当たると言うべきである
- 弁護人は、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律におけるみかじめ料の要求行為に対する規制との関係を云々するが、同法においてみかじめ料の要求行為が規制されていることをもって、本件のような態様によるみかじめ料の要求行為までもが、恐喝罪の構成要件該当性を免れる根拠となるものではないことは明らかである
と判示しました。