刑法(境界損壊罪)

境界損壊罪(1) ~「境界損壊罪とは?」「保護法益」「非親告罪」を説明~

 これから4回にわたり、境界損壊罪(刑法262条の2)を説明します。

境界損壊罪とは?

 境界損壊罪は、刑法262条の2に規定があり、

境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する

と規定されます。

 「境界標」とは、

権利者を異にする土地の境界を定めるために、土地に設置され若しくは植えられた標識、工作物、立ち木、又は境界標識として承認されている立ち木その他の物件

をいいます。

 「土地の境界」とは、

土地の権利関係の場所的限界を示す境界

をいいます。 

 境界損壊罪の行為は、

境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法で、土地の境界を認識することができないようにすること

です。

 境界標の損壊、移動及び除去は例示なので、それ以外の方法で境界を認識不能にした場合にも境界損壊罪が成立します。

境界損壊罪の設立の経緯

 境界損壊罪(刑法262条の2)は、昭和35年法律83号により、不動産侵奪罪(刑法235条の2)とともに新設された規定です。

 当時、正当な権限もないのに他人の土地を占拠して建物を建てるなどの不動産の不法占拠が拡大・深刻化していたことから、これに対処するため整備されたものです。

 立法過程では、境界毀損行為は、おおむね器物損壊罪(刑法261条)でまかなうことができるとして、新設の必要性に乏しいとの意見も主張されましたが、土地の境界標などは土地の境界を明示するという重要な効用を有するものなので、これを器物損壊罪に比して特に重く処罰することには十分な合理性があり、態様によっては器物損壊罪によって処罰し得ない場合もあることなどの理由から境界損壊罪(刑法262条の2)が規定されるに至りました。

保護法益

 境界損壊罪の保護法益は、

土地の境界の明確性

です。

 土地の境界は、所有権地上権借地権小作権をはじめとする土地に関する権利の範囲に重大な関係を有していため、土地の境界の明確性は保護される必要があります。

非親告罪

 境界損壊罪は、親告罪ではなく、非親告罪です(告訴がなくても検察官は公訴を提起できる)。

 境界損壊罪が

  • 個人的な法益のみではなく、土地を巡る権利関係という公益的な利益をも保護する性格の罪であること
  • 軽微な罪とはいえないこと

などの理由により非親告罪とされたものです。

 不動産侵奪罪刑法235条の2)と異なり、親族間の犯罪に関する特例(親族相盗例刑法244条)の適用はありません。

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境界損壊罪(2) ~「境界損壊罪の行為(損壊・移動・除去)」「境界標とは?」「境界の認識不能とは?」などを説明~

境界損壊罪(3) ~「境界損壊罪の故意」を説明~

境界損壊罪(4) ~「境界損壊罪と不動産侵奪罪、器物損壊罪との関係」を説明~