前回の記事の続きです。
この記事では、境界棄損罪(刑法262条の2)と
との関係を説明します。
① 不動産侵奪罪との関係
他人の土地を侵奪する意図で、その境界標を損壊するなどして境界を不明にし、その土地を侵奪した場合は、境界損壊罪と不動産侵奪罪(刑法235条の2)の両罪が成立し、両罪は観念的競合又は牽連犯の関係に立つものと解されます。
境界損壊罪と不動産侵奪罪とは、保護法益と犯罪類型が異なるため、両罪がそれぞれ成立するものです。
境界損壊罪の保護法益は、「土地の境界の明確性」です。
不動産侵奪罪の保護法益は、「他人の不動産に対する権利や利益」です。
事件の内容に応じて、観念的競合になるか、牽連犯になるかの判断がなされます。
② 器物損壊罪との関係
境界損壊罪に該当する行為が、境界標を損壊する点で同時に器物損壊罪(刑法261条)の構成要件にも該当する場合には、両罪の保護法益が異なることから、境界損壊罪と器物損壊罪のいずれもが成立し、両罪は観念的競合の関係に立つと解されます。
参考となる裁判例として以下のものがあります。
町道と接する土地の所有者が、町道の敷地内に石を積んで石垣を作りその内側に樹木を植え、当該石垣の線があたかも土地と道路の境界であるかのような外観を呈するに至り、当該石垣の設置・樹木の植栽以来40数年にわたって町道の所有者である町当局がこれを放置し、同土地の転々譲受人も当該石垣を土地の境界と信じ、世人もこれをあたかも境界標であるかのように承認してきたことが認められる場合において、当該石垣を削り取り、樹木を伐採して境界を認識不能とした行為について、器物損壊罪と境界損壊罪の両罪が成立するとした事例です。
裁判官は、
- 右の石垣は町道の敷地の一部に設置されていて、町道とA所有の隣接宅地との間の真正な境界を確定するためにその土地に設けられたものではないけれども、大正五年頃以降四十数年の長きに亘り、町道の所有者、管理者たるa町当局もこれを放置し、Aにおいてもこれを土地の境界と信じていたものであり、かつ世人もこれを恰も境界標であるかのように承認してきたことが認められ、被告人がこれを削りとつたことにより土地の境界を認識することを不能ならしめたものであると認められるので、原判示事実は器物損壊罪と同時に刑法第262条の2の境界毀損罪にもあたるものと解しなければならない
と判示しました。
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