自動車運転死傷処罰法

自動車運転死傷処罰法(12)~「通行禁止道路の進行による危険運転致死傷罪(2条8号)」を説明

 前回の記事の続きです。

通行禁止道路の進行による危険運転致死傷罪(2条8号)の説明

 危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法2条1号~8号)の8号の行為態様である

「通行禁止道路の進行」

について説明します。

 通行禁止道路の進行による危険運転致死傷罪(2条8号)は、

自動車運転死傷処罰法施行令で定める通行禁止道路を進行し、かっ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為を危険運転致死傷罪の危険運転行為とするもの

です。

 本法2条8号は、

通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

を処罰する規定です。

「通行禁止道路」とは?

 「通行禁止道路」とは、自動車運転死傷処罰法施行令2条1号~4号において、

  1. 車両通行止め道路、歩行者及び自動車専用道路(施行令2条1号)
  2. 一方通行道路(施行令2条2号)
  3. 高速道路(自動車専用道路を含む)の中央から右側部分(走行すれば逆走となる部分)(施行令2条3号)
  4. 安全地帯、及び、道路標識等により車両の通行の用に供しない部分(道路の立入禁止部分)(施行令2条4号)

であると規定されています。

 上記①~④の道路(通行禁止道路)においては、通行者は、自動車が通行してくることはないはずであるとの前提で通行していることから、通行禁止に違反して自動車が走行してくると衝突を避けることは困難です。

 そのため、通行禁止道路を走行することは、悪質で危険な運転であると言えるため、危険運転致死傷罪の対象されたものです。

一般道路の反対側車線は通行禁止道路に当たらない

 「一般道路の反対側車線」は通行禁止道路には当たりません。

 道交法上で追い越しのために対向車線にはみ出して通行することが禁止されていない道路はもちろん、それが禁止されている道路であっても道交法上は駐車車両や障害物等を回避するため右側にはみ出すことは禁止されていません。

 「一般道路の反対側車線」は、他の通行車として対向から自動車が進行してくることはないはずであるという前提で通行しているかどうかという観点からすれば、上記①の「車両通行止め道路」や上記②の「一方通行道路」などと同等と言えるほどの類型的な危険性、悪質性は認められません。

 よって、「一般道路の反対側車線」は、「通行禁止道路の進行による危険運転致死傷罪」における通行禁止道路には当たりません。

「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」とは?

 2条8号の「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは、

  • 自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度

   あるいは、

  • 相手方の動作に即応するなどしてそのような大きな事故になることを回避することが困難であると一般的に認められる速度

を意味します。

 これは、2条4号・7号における「重大な交通の危険を生じさせる速度」の意義と同じです。

因果関係

 通行禁止道路の進行による危険運転致死傷罪(2条8号)が成立するためには、

「危険運転行為(通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転すること)」と「死傷結果」との間に因果関係があること

が必要です。

 上記因果関係が認められるのであれば、「通行禁止道路」から出た直後に人を死傷させた場合にも本罪が成立し得ます。

 例えば、一方通行の規制が、交差点で中断している場合に、一方通行規制されている道路を逆走した上、当該交差点に進人した直後に人に衝突して死傷させた場合(衝突した場所自体は、「通行禁止道路」の外であった場合)であっても、当該一方通行道路を重大な交通の危険を生じさせる速度で進行したことと、人の死傷との間に因果関係が認められるときは、本罪が成立し得るとされます。

他の人や車との関係

 通行禁止道路の進行による危険運転致死傷罪(2条8号)は、2条4号と異なり、他の人や車との関係について要件としていません。

 よって、例えば、深夜早朝で通行禁止道路の交通量がほとんどない状況であっても、本罪は成立します。

故意

 危険運転致死傷罪は、過失犯ではなく、故意犯であり、本罪が成立するためには故意が必要となります(故意犯の説明は前の記事参照)。

 本罪に故意は、

  1. 通行禁止道路を進行した認識
  2. 重大な交通の危険を生じさせる速度で運転したことの認識

の2つが必要になります。

 例えば、標識を見落としたため、通行禁止道路を進行しているという認識がない場合は、本罪の故意が認められず、本罪は成立しません。

 ただし、最初は通行禁止道路であると認識していなかったが、途中でそれを認識した場合には本罪の故意が認められます。

 以下でそれぞれについて説明します。

①「通行禁止道路を進行した認識」について

 「通行禁止道路を進行した認識」が認められるためには、

当該道路が人又は車に交通の危険を生じさせるものとして通行することが禁じられているものであることの認識

が必要となります。

 なお、「通行禁止道路」の指定がどのようにされているかの詳細についてまで認識している必要はないとされます。

 また、「通行禁止道路」であることについての認識の方法(道路標識を認識したのか、それ以外の方法(対向車からのパッシング等)により認識したのかなど。)についても問いません。

②「重大な交通の危険を生じさせる速度で運転したことの認識」について

 「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは、

  • 妨害目的で相手方に著しく接近した場合に自車が相手方と衝突すれば大きな事故を生じさせると一般的に認められる速度

   あるいは、

  • 相手方の動作に即応するなどしてそのような大きな事故を回避することが困難であると一般的に認められる速度

のことを指しています。

 通常、時速20から30キロメートルであればこれに当たるとされます。

道交法違反との関係

 2条1号から5号までの危険運転致死傷罪と、酒酔い、速度違反、無免許、信号無視等の道交法違反の罪との関係と同様、本罪においても、道交法上の通行禁止違反の罪を構成要件に取り込んでおり、本罪が成立する場合には、当該危険運転行為が同時に道交法違反行為に該当していても、別に同法違反の罪が成立することはなく、本罪のみが成立します。

 本罪の危険運転行為が構成要件的に取り込んでいない道交法違反の罪は、本罪とは別個に成立します。

自動車運転死傷処罰法施行令2条1号~4号の説明

 冒頭で説明した自動車運転死傷処罰法施行令2条1号~4号の意義について説明します。

① 自動車運転死傷処罰法施行令2条1号の説明

 「通行禁止道路」の定義を規定する自動車運転死傷処罰法施行令2条1号の道路は、冒頭のとおり、

  • 車両通行止め道路
  • 歩行者及び自動車専用道路

が該当するところ、規定の書きぶりは、

道路交通法8条1項の道路標識等により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分(当該道路標識等により一定の条件(通行の日又は時間のみに係るものを除く。次号において同じ。)に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているもの及び次号に掲げるものを除く。)

となっています。

 以下で用語の定義等について詳しく説明していきます。

「道路交通法8条1項の道路標識等により」の意義

 「道路交通法8条1項の道路標識等により」とは、道路標識等による通行の禁止に限定するという意味です。

 道路交通法6条2項の規定による警察官の現場における通行の禁止がなされている道路道路法による通行の禁止など道交法以外の根拠により通行が禁止されている道路は、「通行禁止道路」に当たりません。

「道路又はその部分」とは?

 「道路」とは、道路交通法2条1項1号に規定する道路をいいます。

 「その部分」とは、「道路」の「部分」であり、例えば、

  • マラソン大会の際に、複数ある車線の一部のみについて自動車の通行が禁止される場合など「道路」の一部について自動車の通行が禁止された道路

が該当します。

「(当該道路標識等により一定の条件…に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているもの…を除く。)」とは?

 「当該道路標識等により一定の条件…に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているもの」とは、

自動車のうちの一部についてのみ通行禁止となっている道路

をいいます。

 例えば

  • 車両総重量10トンを超える自動車の通行のみが禁止されている道路
  • 原動機付自転車のみ通行禁止の対象から除外している道路(原動機付自転車の通行は許されている道路)

が該当し、これらの道路は「通行禁止道路」に当たりません。

 これは、一定の条件に該当する自動車に限って通行が禁止されているとしても、他の自動車の通行は禁止されていないのであるから、通行者としては、自動車が進行してくることはないはずであるとの前提で通行しているとまではいえないことから、「通行禁止道路」から除外するものです。

 また、通行禁止の対象の限定が「当該道路標識」によってではなく、別の根拠(「当該道路標識等」の「等」に当たる根拠)により限定されている場合として、例えば、

が挙げられます。

 これらの自動車は道路交通法上の通行禁止の対象から除外されていることから、これらの自動車が通行したとしても2条8号の危険運転致死傷罪は成立しません。

 しかし、これらの自動車が適法に通行できる道路であっても、そのことによって当該道路が「通行禁止道路」に当たらなくなるものではないので、他の自動車については、「通行禁止道路…を進行し」の要件に該当するので、危険運転行為をすれば、2条8号の危険運転致死傷罪が成立し得ます。

「通行の日又は時間のみに係るものを除く。」とは?

 「通行の日又は時間のみに係るものを除く。」とは、例えば、

などの日又は時間を限って自動車の通行が禁止されている道路が該当し、これらの道路は規制に係る日又は時間においては「通行禁止道路」に当たります。

 このような道路においては、規制に係る日又は時間においては、他の通行者としては、自動車が進行してくることはないはずであるとの前提で通行しているものであると考えられることから、これを上記「(当該道路標識等により一定の条件…に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているもの…を除く。)」の規定の対象から除くことによって、「通行禁止道路」の対象とするものです。

「次号に掲げるものを除く。」とは?

 「次号に掲げるものを除く。」とは、

自動車運転死傷処罰法施行令2第2号に掲げる一方通行道路は、1号によってではなく、2号によって「通行禁止道路」の対象とする趣旨の規定

です。

 2号の一方通行道路も、1号にいう「道路標識等により…通行が禁止されている」道路ではあるのですが、交通の実態等の面で異なることから、別々に規定することとされたものです。

 以下で2号について詳しく説明します。

② 自動車運転死傷処罰法施行令2条2号の説明

 「通行禁止道路」の定義を規定する自動車運転死傷処罰法施行令2条2号の道路は、冒頭のとおり、

  • 一方通行道路

が該当します。

「自動車の通行につき一定の方向にするものが禁止されている」とは?

 「自動車の通行につき一定の方向にするものが禁止されている」とは、

一方通行規制

を意味します。

 一方通行道路を禁止されていない方向に通行する自動車にとっては、当該道路は「通行禁止道路」に当たりません。

③ 自動車運転死傷処罰法施行令2条3号の説明

 「通行禁止道路」の定義を規定する自動車運転死傷処罰法施行令2条3号の道路は、冒頭のとおり、

  • 高速道路(自動車専用道路を含む)の中央から右側部分(走行すれば逆走となる部分)

が該当します。

「道路交通法第17条第4項の規定により通行しなければならないとされているもの以外のもの」とは?

 「道路交通法第17条第4項の規定により通行しなければならないとされているもの以外のもの」とは、

高速道路(自動車専用道路を含む。)に逆走を対象とする趣旨

であり、

高速道路(自動車専用道路を含む。)の中央(道路交通法17条4項の中央をいう)から右側部分

を意味します。

④ 自動車運転死傷処罰法施行令2条4号の説明

 「通行禁止道路」の定義を規定する自動車運転死傷処罰法施行令2条4号の道路は、冒頭のとおり、

  • 安全地帯、及び、道路標識等により車両の通行の用に供しない部分(道路の立入禁止部分)

が該当します。

「安全地帯」とは?

 「安全地帯」とは、

道路交通法2条1項6号の安全地帯

をいいます。

 具体的には、

  • 路面電車に乗降する者の安全を図るため道路に設けられた島状の施設(道路上にある路面電車の電停)
  • 横断している歩行者の安全を図るため道路に設けられた島状の施設(幅の広い道路に架かる横断歩道の中央分離帯相当部分等に設けられた部分など)
  • 道路標識及び道路標示により安全地帯であることが示されている道路の部分(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令別表第1(408)の道路標識や、同命令別表第5(207)の道路標示)

が該当します。

「その他の道路の部分」とは?

 「その他の道路の部分」とは、

道路標識等により車両の通行の用に供しない部分であることが表示されている道路の部分(道路交通法17条6項

をいいます。

 前記命令別表第5(106)の道路標示がある道路の部分がこれに当たります。

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