自動車運転死傷処罰法

自動車運転死傷処罰法(4)~「薬物の影響により正常な運転が困難な状態での走行による危険運転致死傷罪(2条1号)」を説明

 前回の記事の続きです。

薬物の影響により正常な運転が困難な状態での走行による危険運転致死傷罪(2条1号)の説明

 危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法2条1号~8号)の2条1号の行為態様である

「薬物の影響により正常な運転が困難な状態での走行」

について説明します。

「薬物」とは?

 「薬物」とは、

などが該当します。

 薬物の影響により正常な運転が困難な状態であったことの認定に当たっては、

  • 薬物の種類、効能、服用量
  • 事故前の状態、事故の態様、事故後の状況

などを総合的に考慮して判断されます。

裁判例

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

名古屋地裁判決(平成25年6月10日)

 脱法ハープが薬物に当たるとされた事例です。

 運転開始前又は運転中にいわゆる脱法ハーブを使用した被告人が、薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を時速70kmで走行させ、横断歩道の報告中の被害者Aに自車を衝突させてA死亡させた事案で、危険運転致死罪の成立を認めました。

佐賀地裁判決(平成14年11月6日)

 鎮静剤が薬物に当たるとされた事例です。

 鎮静剤を飲んだ後に運転をし、その影響により強い眠気を覚え、意識が朦朧とし、前方注視が困難な状態で、自動車を時速約40~50キロメートルで走行させ、仮眠状態に陥り、自車を対向車線に進出させ、対向車両に衝突させた事案で、危険運転致死傷罪の成立を認めました。

「~の影響により」とは?

 「~の影響により」について、専ら薬物の影響によることを要するものではなく、薬物が他の要因と競合して正常な運転に支障が生じるおそれがある状態になった場合も含まれると解されています。

運転の困難性を基礎付ける事実

 運転の困難性を基礎付ける事実として、例えば、

  • 足がふらついていたこと
  • 運転中にハンドルを思うように操作できなかったこと
  • 運転中に意識が朦朧となるときがあったこと
  • 他人から薬物の影響で運転するのは危ないので運転しないよう注意されていたこと

などが挙げられます。

故意

 危険運転致死傷罪は過失犯ではなく、故意犯であり、本罪が成立するには、

  • 薬物の影響により正常な運転が困難な状態であったことについての認識

を要します(故意犯の説明は前の記事参照)。

 上記の「運転の困難性を基礎付ける事実」を被疑者が認識していれば、上記認識があると認定できると解されています。

なお、風邪薬の場合、睡眠薬とは異なり、眠ることを服用の直接の目的としていないことが故意の認定上問題となる場合がありますが、睡眠作用をもたらす成分の有無と効能、これに対する認識の程度、用量を超えて服用したのかどうかなどの事情を総合し、故意の有無が判断されると考えられています。

実行行為

 本罪の実行行為は、

薬物の影響により正常な運転が困難な状態で、自動車を走行させること

です。

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