前回の記事の続きです。
技量未熟での走行による危険運転致死傷罪(2条3号)の説明
危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法2条1号~8号)の2条3号の行為態様である
「技量未熟での走行」
について説明します。
「進行を制御する技能を有しないで」とは?
1⃣ 「技量未熟での走行」を自動車運転死傷処罰法2条3号では「その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為」と規定します。
「進行を制御する技能を有しない」とは、単に無免許というだけではなく、
ハンドル、ブレーキ等の運転装置を操作する初歩的な技能すら有しないような運転の技量が極めて未熟なこと
をいいます。
本罪に該当する行為として、
一度も運転免許を取得したことがなく、これまで自動車運転の経験もなくて、ハンドル、ブレーキ等の運転装置を操作する初歩的な技能がない者が、自動車を走行させた結果、進路に沿って進行できずに自車を対向車線に進入させ、対向車両に衝突させて人を死傷させた場合とか、全く運転の経験のない者が、自動車を盗んでどのようにして運転すればいいのかわからないまま、車を暴走させて人を死傷させた場合
が挙げられます。
2⃣ 運転免許を有する者は、運転に必要な技能を有すると認められている者なので、「進行を制御する技能を有しない」とは、一般的には認められません。
運転免許をしていない者は、無免許だからといって「進行を制御する技能を有しない」という要件を充足するものではありません。
例えば、
- ぺーパードライバーの場合、相当長期間運転していない例もあり得えますが、いったん運転技能を習得して運転免許を取得した以上、進行を制御する技能を有しない状態にまでいたるとは考え難いとされる
- 運転免許を有する者が高齢や病気等により運転技能が衰えることがあるとしても、同様に、通常は、「進行を制御する技能を有しない」状態にまでいたるとは考え難いとされる
- 仮免許を有する者の場合には、通常、自動車教習所内での課程を経ており、路上教習を受講する前提となる技能や有資格者が同乗するなどすれば路上での運転ができる能力を有していると認められるので、この要件には該当しないものと考えられる
という理解で整理されます。
これに対し、普通免許しか取得していない者が大型自動車を運転した場合のように、より困難な種類の運転を行った場合には該当の余地もあり得ると考えられています。
故意
危険運転致死傷罪は過失犯ではなく、故意犯であり、本罪が成立するには、
- 進行を制御する技能を有しないことの認識
つまり、
- 自己の運転の技量が極めて未熟なことについての認識
を要します(故意犯の説明は前の記事参照)。
具体的には、技能の未熟さを基礎付ける事実、例えば、
- 無免許であること
- 運転経験がほとんどないこと
- 現実にハンドルやブレーキなどの運転操作を行うことが困難であること
などの認識が必要になります。
因果関係
本罪が成立するには、
進行を制御する技能を有しないで車両を走行させたことによって人の死傷が生じたとの因果関係
が認められる必要があります。