自動車運転死傷処罰法

自動車運転死傷処罰法(9)~「あおり運転による危険運転致死傷罪(2条5号)」を説明

 前回の記事の続きです。

あおり運転による危険運転致死傷罪(2条5号)の説明

 自動車運転死傷処罰法2条5号のあおり運転による危険運転致死傷罪を説明します。

2条5号の趣旨

 2条5条の危険運転致死傷罪は、

加害者が、通行妨害目的で、重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行している被害者車両に著しく接近することとなる方法で自車を運転した場合には、両車両が衝突するなどして重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高いことに着目し、危険運転致死傷罪の対象行為とするもの

です。

2条5号の処罰規定

 2条5号は、

車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為

を処罰規定とします。

「車の通行を妨害する目的」とは?

 「車」とは「妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)」の車と同じであり、

  • 四輪以上の自動車
  • 自動二輪車原動機付自転車
  • 軽車両

などの道路上を通行する車全般を意味します。

 「通行を妨害する目的」とは、「妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)」の通行を妨害する目的と同じです。

 具体的には、

相手方に自車との衝突を避けるために急な回避措置をとらせるなど、 相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図すること

をいいます。

 妨害する対象が特定の車であることは必要ではなく、車の通行を妨害する目的があれば不特定の車に対する妨害でも「通行を妨害する目的」があるとされます。

「重大な交通の危険が生じることとなる速度」とは?

 「重大な交通の危険が生じることとなる速度」とは、

  • 被害者車両の前方で停止するなど、被害者車両に著しく接近することとなる方法で自動車を運転した場合に、被害者車両が加害者車両と衝突すれば大きな事故が生じることとなると一般的に認められる速度

   あるいは

  • 被害者車両が加害者車両の動作に即応できずにそのような大きな事故になることを回避することが困難であると一般的に認められる速度

を意味します。

 「妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)」における「重大な交通の危険を生じさせる速度」と同程度の速度を表す趣旨であるとされます。

「走行中の車…の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法」とは?

 「前方」とは、 「妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)」の「直前」よりも空間的な距離が長い趣旨であり、

加害者車両が、被害者車両の進行方向の前の方で停止したときに著しく接近することとなる範囲

をいいます。

 「停止」とは、

運転行為としての「停止」をいい、走行している状態から車両の車輪の回転を完全に止める行為

をいいます。

 「著しく接近することとなる方法」とは、

加害者車両及び被害者車両の走行速度や位置関係等を前提とした場合に、加害者の運転行為がなされることにより、両車両が著しく接近することとなる場合

をいいます。

 例えば、

  • 被害者車両と同一の車線の前方を走行する加害者車両が急減速し、著しく被害車両に接近する場合
  • 第一通行帯に停止していた加害者車両が、第二通行帯を走行する被害者車両が自車を後方から追い越していく寸前に発進して、自車を被害者に著しく接近させる場合

が挙げられます。

 「妨害目的での運転による走行による危険運転致死傷罪(2条4号)」と異なり、車の通行の妨害行為の時点で、加害者車両と被害者車両が実際に接近していることを要しません。

 これは、被害者車両が重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行している場合、そのような被害者車両の前方で停止するなど両車両が著しく接近することとなる方法で自動車を運転すれば、その時点ではいまだ著しく接近していなかったとしても、被害者車両の走行速度や両車両の位置関係等によっては、加害者車両と被害者車両の接近・衝突が不可避であり、重大な死傷の結果が生じる危険性が類型的に高いと考えられるためです。

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次の記事では、2条6号のあおり運転による危険運転致死傷罪について詳しく説明します。

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