これから複数回にわたり、自殺教唆罪、自殺幇助罪、嘱託殺人罪、承諾殺人罪(刑法202条)を説明します。
自殺教唆罪、自殺幇助罪、嘱託殺人罪、承諾殺人罪について
自殺教唆罪、自殺幇助罪、嘱託殺人罪、承諾殺人罪の規定は刑法202条にあり、
人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する
と規定されています。
自殺教唆罪、自殺幇助罪、嘱託殺人罪、承諾殺人罪は、本人の意に反しない死の惹起に関与する行為を処罰しようとするものです。
具体的には、
- 自殺教唆罪…自殺を教唆する
- 自殺幇助罪…示達を幇助する
- 嘱託殺人罪…被殺者の嘱託を受けて殺害する
- 承諾殺人罪…承諾を得て殺害する
となります。
自殺教唆罪、自殺幇助罪を「自殺関与罪」といい、嘱託殺人罪、承諾殺人罪を「同意殺人罪」ともいいます。
裁判では、自殺教唆罪、自殺幇助罪、嘱託殺人罪、承諾殺人罪の罪名が使われます。
自殺教唆罪とは?
自殺教唆罪は、自殺者に自殺の決意をさせ、自殺させる犯罪です。
例えば、自殺の意思のなかった人を唆して本人の手だけで自殺させた場合、自殺教唆罪になります。
自殺を決意させる方法に制限はなく、自殺を決意させる一切の行為が自殺教唆に該当します。
参考となる裁判例として、以下のものがあります。
広島高裁判決(昭和29年6月30日)
夫は、妻AがCと不倫関係があると邪推し、妻Aに対し、連日の如く常軌を逸した虐待、暴行を加え、妻Aに強要して姦通事実を承認し、あるいは自殺する旨を記載した書面を書かせるなど妻Aの自殺を予見しながら執拗に肉体的精神的圧迫を繰り返し、妻Aはこれがため、遂に自殺を決意し自殺するに至ったときは、夫について自殺教唆罪が成立するとした事例です。
裁判官は、
- 自殺とは、自己の自由な意思決定に基いて自己の死を惹起することであり、自殺の教唆は自殺者をして自殺の決意を生ぜしめる一切の行為であって、その方法を問わないと解する
- 従って、犯人が威迫によって他人を自殺するに至らしめた場合、自殺の決意が自殺者の自由意思によるときは自殺教唆罪を構成し、進んで自殺者の意思決定の自由を阻却する程度の威迫を加えて自殺せしめたときは、もはや自殺関与罪でなく殺人罪をもって論ずべきである
- ところで、本件においては、被告人の暴行、脅迫によって妻Aが自殺の決意をするに至ったものであること、並びに被告人が自己の行為によって妻Aが自殺するであろうことを予見しながら敢えて暴行、脅迫を加えたことがそれぞれ認められるけれども、被告人の右暴行、脅迫が妻Aの前記決意をなすにつき、意思の自由を失わしめる程度のものであったと認むべき確証がないので、結局、被告人の本件所為は自殺教唆に該当すると解すべきである
と判示しました。
自殺幇助罪とは?
自殺幇助罪は、既に自殺の決意を有する者に対し、自殺の方法を教え、器具手段を供与するなどして、自殺の遂行を容易にする犯罪です。
例えば、自殺の意思を有する者の依頼に応じ、毒薬を購入して渡したが毒薬を飲む行為には全く関与していない場合は自殺幇助になります。
参考となる判例として、以下のものがあります。
大審院判決(大正11年4月27日)
ダイナマイトの爆発で重傷を負った知人が、前途を悲観し、被告人に対し、自己を川に押し入れて殺害してくれと依頼し、被告人は、知人の重傷を目撃して狼狽し、知人の依頼どおり、知人を川に押し入れて殺害した事案で、嘱託殺人罪が成立するとしました。
この判決は、裁判官は、嘱託殺人罪、承諾殺人罪と自殺幇助罪の差異に言及した点が注目されます。
裁判官は、
- 受託殺人(嘱託殺人罪、承諾殺人罪)は、犯人が、被殺者を受け、自ら手を下してその自殺の希望を実現せしむる行為にして、自殺幇助は、自殺者が自殺の意思を実行せんとするに当たり、その方法を指示し、若しくは器具を供するなど、これが実現を容易ならしむる行為なり
と判示しました。
自殺幇助の方法に制限はない
自殺幇助の方法は、積極的手段・消極的手段であること、有形的・物理的な方法であること、無形的・精神的な方法であることを問いません。
参考となる裁判例として、以下のものがあります。
東京高裁判決(昭和30年6月13日)
自殺者Aから共に死のうともちかけられて承諾し、自殺者に共に死のうとする決意を固めさせ、睡眠薬を服用させるにいたらせた行為は、 自殺幇助にあたるとした事例です。
裁判官は、
- 被告人は、自殺者Aから共に死のうと持ちかけられて、これを承諾し、もって、Aをして被告人と相共に死のうとする決意を固めしめた上、睡眠薬を服用するに至らしめた結果、睡眠薬の中毒により死亡させてしまったというのである
- 被告人の所為は、Aの自殺行為を容易ならしめたものということができるのであって、すでに、自殺の意思をもつ者に対し、自殺行為を容易ならしめた以上、それが積極的手段によるものたると消極的なものたると、はたまた、有形的な方法たると無形的なものたるとを問わす、すべて、その所為は自殺に対する幇助行為というに妨げないのであって、被告人の所為たるや、まさに、刑法第202条にいう自殺幇助行為に当たるものといわなくてはならない
と判示しました。
次回の記事に続く
次回の記事で、嘱託殺人罪、承諾殺人罪を説明します。
①殺人罪、②殺人予備罪、③自殺教唆罪・自殺幇助罪・嘱託殺人罪・承諾殺人罪の記事まとめ一覧