刑法(逮捕・監禁罪)

逮捕・監禁罪(1) ~「逮捕罪・監禁罪とは?」「継続犯」「故意犯」「保護法益」「国外犯」「主体(犯人)」を説明~

 これから37回にわたり、逮捕罪・監禁罪(刑法220条)を説明します。

逮捕罪・監禁罪とは?

 逮捕罪・監禁罪は、刑法220条に規定があり、

不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役刑に処する

と規定されます。

 逮捕罪・監禁罪は、不法に人を逮捕・監禁することによって成立します。

 不法に人を逮捕した場合は、「逮捕罪」が成立します。

 不法に人を監禁した場合は、「監禁罪」が成立します。

 不法に人を逮捕し、更にその人を監禁した場合は、「逮捕監禁罪」が成立します。

継続犯

 逮捕罪も監禁罪も、継続犯と解されており、逮捕監禁行為が継続する限り、共犯が成立し得るし、公訴時効も進行しません。

故意犯

 逮捕罪・監禁罪は故意犯です(故意についての詳しい説明は前の記事参照)。

 逮捕罪・監禁罪が成立するためには、逮捕・監禁を行う故意が必要です。

 逮捕・監禁を行う故意が認められなければ、逮捕罪・監禁罪は成立しません。

 この点、参考となる以下の裁判例があります。 

広島高裁判決(昭和44年5月9日)

 逮捕致傷罪(刑法221条)の事案ですが、自己の行為が法律上許されるものと誤信したこことに相当の理由があり逮捕罪を犯す故意を阻却した事例です。

 裁判所は、

  • 被告人らは、本件当時、その行為が現行犯逮捕として法律上許されるものと誤信し、かつ、そのように誤信したことについて相当の理由があったものと認められ、このような場合には犯意を阻却し、罪を犯す意思がなかったものとするのが相当である

と判示し、逮捕監禁致傷罪の成立を否定しました。 

保護法益

 逮捕罪・監禁罪は、「人の身体的活動の自由」に対する犯罪です。

 そして、逮捕罪・監禁罪の保護法益は、

個人的法益としての人の身体・行動の自由

です。

 逮捕・監禁いずれについても、

一定の場所から移動することを妨げられないという意味における行動の自由

が逮捕罪・監禁罪の保護法益の本質です。

 なので、被害者を後手に縛って放置する等の行為は、被害者を場所的に拘束するものでないから逮捕とはいえません。

 限定的あるいは相対的に行動の自由が存在しても、完全な行動の自由がないときには逮捕罪・監禁罪は成立します。

 この点、参考となる以下の判例があります。

最高裁決定(昭和34年7月3日)

 日本共産党員たる被告人が、ほか2名と共謀のうえ、当時同じく日本共産党員であった某病院の炊事婦をしていたA女(当時23歳)を、日本共産党に対するスパイ活動容疑により弾劾査問しようと企て、そのため、某年3月10日午前0時ころより同月14日午前11時ころまでの間、監禁したという事案です。

 裁判所は、監禁されている間において、ある程度の行動の自由が与えられていたことが認められるが、逮捕監禁罪が成立するとしました。

大審院判決(大正4年11月5日)

 女工寄宿舎の部屋の出入口の戸に鍵を掛けて外部との交通を遮断したという事案です。

 裁判所は、監禁の場所の内部に相当の設備をなし、健康保全及び慰安娯楽の方法が講じてあっても、また、外部との交通の遮断が一定の時間に限られていても監禁罪の成立が妨げられないとしました。

逮捕罪・監禁罪の特別罪

 逮捕罪・監禁罪の特別罪として、

があり、逮捕罪・監禁罪より刑が加重されています。

国外犯

 逮捕罪・監禁罪は、日本国外において、これを犯した日本国民(刑法3条11号)、日本国民に対して犯した日本国民以外の者(刑法3条の2第4号)にも適用されます。

 以上のほか、刑法31章の罪を含む刑法2編の罪については、条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされているものを犯したすべての者に適用されます(刑法4条の2)。

 刑法3条に関し、最高裁判決(昭和28年10月27日)は、被告人がオーストラリア連邦に俘虜として収容されているときに犯した不法監禁罪について、我が国が裁判権を有し、これを処罰するのは当然であることを判示しています。

主体(犯人)

 逮捕罪・監禁罪の行為主体(犯人)には、制限はなく、自然人であれば足ります。

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