刑法(逮捕・監禁罪)

逮捕・監禁罪(10) ~「自動車に乗車させて疾走する行為による監禁行為」を説明~

 前回の記事の続きです。

自動車に乗車させて疾走する行為による監禁行為

 監禁罪(刑法220条)の監禁行為について、

自動車に乗車させて疾走する行為による監禁行為

があります。

 この種の監禁行為について、判例上、以下のものがあります。

大審院判決(昭和10年12月3日)

 被害者を乗車させた自動車を運転疾走させた行為は、同人をして容易に自動車から脱出することをできなくし、同人の自由を拘束するものであるから不法監禁罪の実行行為と解するを相当とする旨判示し、監禁罪の成立を認めました。

最高裁決定(昭和30年9月29日)

 被告人がほか2名らと共謀のうえ、路上で2名の者に対し「自動車に乗れ、乗らなかったら殴るぞ」と申し向けて脅迫し、手を引張る等してこれを強いて自動車に乗せ、被告人らも同乗し、上記両名が降車を求めたが承諾ぜず、空ビール瓶を振り上げ「バタバタするとこれで殴るぞ」と両名を脅迫して自動車を疾走させ、もって同人らの自由を不当に拘束した事案につき、弁護人の単に暴行・脅迫罪を構成するのみで逮捕監禁罪は成立しないとの主張を排斥して、逮捕監禁罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和35年9月30日)

 被告人ら3名のうち2名で被害者の左右からその身体をはさむようにし、さらに2名で被害者の両側から腕をつかんで無理矢理自動車の後部座席に押し込み、車内においても2名が被害者の両側に座り、同人の車内からの脱出を防ぎつつ、自動車を発車疾走させた事案で、監禁罪の成立を認めました。

福岡高裁判決(昭和28年5月29日)

 被害者Mを自動車に乗車させて疾走させた事案で、裁判所は「本件の着手行為がA駅前の人目の多い場所で行われ、かついわゆる暴行と目されるほどの行為が伴わなかったとしても、被告人らが同所において有形的な力を用いてMを貸切自動車内に押し込み、その両側に被告人及びKが席を占めた上、自動車を疾走させ(かつMの懇請にもかかわらずMを下車させず)一定の時間、Mの脱出を困難ならしめ、かくてその意に反して身体的自由を束縛している以上、不法監禁罪の成立を妨げるものではない」と判示し、監禁罪の成立を認めました。

東京高裁判決(昭和48年2月26日)

 被害者の襟首等をつかみ、呼びとめたタクシーの助手席中央部に強いて乗せ、その左側に被告人が乗車し、かつ、被告人の配下2名を後部座席に同乗させて運転手に行き先を告げて発車させれば、それだけで監禁罪が成立し、それ以外に、運転手を脅迫するとか、被害者をして運転手その他の第三者に対し救出を求め得ないようにしたというような特殊な事情の存在を必要としないとし、たまたまその場所が国鉄大宮駅東口前の道路で信号のため自動車が連続停止していて走行することができず、その隙に被害者が運転席側ドアを開けて大声で助けを求めたために、運転手も下車し警察官が駆け付けて、実際に走行した区間は約50メートルで被害者を乗車させてから5分位であったとしても、この間被害者を不当に拘束したことは明らかであって、監禁罪が成立すると判示しました。

名古屋高裁判決(昭和35年11月21日)

 被告人運転の自動車に同乗を勧めて乗車させたうえ、被害者が停車させて降車させてくれるよう要求するのを無視して自動車を走行させた事案で、監禁罪の成立を認めました。

広島高裁判決(昭和51年9月21日)

 強姦の目的で偽計を用いて女性を自動車に乗車させて疾走した事案で、監禁罪の成立を認めました。

最高裁決定(昭和38年4月18日)

 原動機付自転車の荷台に被害者を乗せて疾走した事案で、監禁罪の成立を認めました。

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