刑法(逮捕・監禁罪)

逮捕・監禁罪(11) ~「ハイジャック、バスジャック行為による監禁」を説明~

 前回の記事の続きです。

ハイジャック、バスジャック行為による監禁

 監禁罪(刑法220条)の監禁行為について、

ハイジャック、バスジャック行為による監禁

があります。

 この種の監禁行為について、判例上、以下のものがあります。

ハイジャックによる監禁事案

東京地裁判決(昭和52年3月1日)、東京地裁判決(昭和55年1月30日)

 被告人らが共謀し、乗客を装い乗り込んだ羽田空港発福岡空港行日本航空の旅客機「よど」号内で、日本刀や爆弾等によって乗務員・乗客を脅迫してロープ等で縛り、機長をして被告人らの命ずるまま同機を航行するのやむなきに至らしめて同機を乗っ取り、途中福岡空港及び大韓民国の金浦空港を経て朝鮮民主主義人民共和国まで運行させた事案で、監禁罪で成立が認められました(よど号ハイジャック事件)。

 なお、この事件を契機として、

が制定されるに至り、以後、ハイジャック、バスジャックによる監禁・人質行為についてはこれらの法律が適用されることなりました。

バスジャックによる監禁事案

長野地裁判決(平成16年2月18日)

 バス運転手、乗客ら合計34名を人質としたいわゆるバスジャック事案です。

 裁判所は、

  • 被告人は、平成15年7月28日午後6時40分頃、長野県…付近の関越自動車道上越線下り線を走行中のAバス株式会社新宿発特急長野行き一般乗合高速バス6011便車内において、同高速バス運転手Bに対しm所携の刃体の長さ約22センチメートルの包丁を突き付け、「俺の指定するパーキングへ行け。警察に電話をして。警察官とパトカーをできるだけたくさん集めろ。」などと語気鋭く申し向けて命令し、同運転手をして、そのころ、長野市…所在の上記上越線松代パーキングエリア下り線に同高速バスを途中停車させてその後も同所から出発させず、同日午後6時58分頃、Cほか32名の乗客を、その後の同日午後7時33分頃、上記Bを、いずれも同パーキングエリアで解放するまでの間、同人らが同高速バス車内から脱出することを不能にして不法に監禁し人質にした上、その間の同日午後6時47分頃から午後6時57分頃までの間、前後2回にわたり、同高速バス車内において、畏怖する上記Bをして同人の携帯電話で、上記命令に従って110番通報させて、長野県警察本部生活安全部地域課司法警察員警部補Dらに対し、警察官及び警ら用無線自動車が上記松代パーキングエリアに大量出動するよう要求しもって人を監禁しこれを人質にして、第三者に対し、義務のない行為をすることを要求した

という事実を認定し、人質による強要行為等の処罰に関する法律1条1項違反が成立するとしました。

千葉地裁判決(平成24年6月18日)

 停車中の路線バス車内で、乗客女性に対し、携帯の果物ナイフの刃先を向け示すなどして、乗客女性と運転手をバス車内に監禁して人質にとり、義務のない行為を要求するなどしたバスジャック事案です。

 裁判所は、

  • 被告人は、平成23年11月16日午前9時37分頃、千葉市…公園西側道路上で信号待ちのため停車中の路線バス車内において、同バスに乗車中のBに対し、持っていた果物ナイフの刃先を向けて示し、その後、同バスを発進させた同バス運転手Cに対し、「バスを停めろ。停めないと女を殺すぞ。客を全員降ろせ。」などと語気強く言うなどして、前記Cに、同バスを同市…の道路上に停車させ、同バス前方ドアから前記B以外の乗客を降車させた後に同ドアを閉めさせ、その頃から同日午前10時20分頃までの間、前記B及び前記Cを同所に停車中の同バス車内から脱出不能の状態にして同人らを監禁し、これを人質にして、臨場した千葉県警察本部刑事部捜査第一課警部補0らに対し、報道機関を同バス付近に呼び出すことなどの義務のない行為を要求した

という事実を認定し、人質による強要行為等の処罰に関する法律1条1項違反が成立するとしました。

静岡地裁浜松支部判決(平成23年6月29日)

 被告人が、路線バスを乗っ取ろうとこれに乗り込み、バス運転手にナイフを突き付けて脅し、同人の脱出を不能にさせ、同バスを強取し、運転手を監禁した事案です。

 裁判所は、

  • 被告人は、路線バスを乗っ取ろうと考え、平成23年3月2日午前11時18分頃、浜松市所在のバスターミナルにおいて、A株式会社が運行する路線バスに乗客を装って乗り込み、同バスの運転手Bに対し、所携のフィレナイフをその面前に突き付け、「バスを出せ。」、「どこでもいいから出せ。」などと語気鋭く申し向けて脅迫し、その反抗を抑圧して、同人をして正規の運行を断念し、被告人の意のままに運行するのをやむなきに至らしめて同バスを発進させ、引き続き、同日午前11時50分頃までの間、同所から同市先路上に至るまで、同バス運転席近くに立って前記Bを監視しながら同人をして同バスを走行させ、同人が同バスから脱出することを不能ならしめ、もって同人管理に係る同バス1台(時価195万円相当)を強取するとともに、同人を不法に監禁した

という事実を認定し、バスに対する強盗罪、バス運転手に対する監禁罪の成立を認めました。

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