前回の記事の続きです。
逮捕と監禁の違い
逮捕と監禁とは、人の身体に対する
- 直接的な拘束か
- 間接的な拘束か
によって概念的には区別されます。
逮捕と監禁の限界を明確にするのは困難である
このような区別があるものの、実際の裁判においては、逮捕と監禁の限界を明確に画するのは極め困難であるとされます。
例えば、大審院判決(昭和11年4月18日)は、
被害者の全身を掛布団で巻き包み、その上からわら縄と兵児帯で胴膝及び上胸部あたりを縛り、更に麻縄でその両手首及び両足首を縛り、なおその頭部に掛布団を覆いかぶせたまま数時間放置した行為
を監禁罪が成立すると判示しています。
一方で、大阪高裁判決(昭和26年10月26日)は、
ロープ等で人の胸部足部等を幕舎の木柱に縛り付ける行為を不法禁罪であるとした原審の法令の適用を誤りとし、「監禁とは、人をして一定の区域外に出ることを得ざらしめることを指し、逮捕とは、直接に人の身体の自由を拘束することを指すのであるから、原審認定の制縛行為は右にいわゆる不法監禁には該当せず、むしろ不法逮捕の典型的な場合に属することが明らかである
とし、逮捕罪が成立すると判示しています。
逮捕罪と監禁罪を強いて区別する必要はない
逮捕罪と監禁罪は、共に刑法220条に規定があり、同一構成要件内の行為態様の違いにとどまるため、強いて区分する必要はないとされます。
以下の裁判例で、逮捕罪と監禁罪の適用の誤りは判決に影響を及ぼさないと判示しています。
裁判所は
- 逮捕と監禁とは共に人の身体に対する有形の自由を奪うものであって、その罪責を同じくし、刑法の同条同項(※刑法220条)に規定せられ、刑罰もまた全く同一であるから、これかれ誤り適用せられても判決に影響を及ぼさないことが明らかである
と判示しました。
逮捕に引き続いて監禁が行われた事例
裁判例では、逮捕に引き続いて監禁が行われるという例が多いです。
裁判例として以下のものがあります。
水戸地裁判決(昭和34年5月25日)
被害者(9歳)の両手を針金で縛り、2日半にわたり、同人が用便するためのわずかな時間以外、継続して自宅6畳間の押入に上記制縛した状態で、押入の戸を開閉できぬよう釘づけにして押し込め、もって同人を不法に逮捕監禁したというもの。
札幌地裁判決(昭和56年11月9日)
数名共謀の上、被害者らを追いかけ、逃げ込んだラーメン店内から両腕を引っ張るなどして引きずり出し、近くに待機させてあった普通乗用自動車まで連行し、同人らを後部座席に乗車させ、もって逮捕し、さらに同車を疾走させて同車から脱出することを不能ならしめ、引き続き組事務所内に連れ込み、こもごも同人らの周囲を取り囲むなどして同事務所から脱出することを不能ならしめ、もって監禁したというもの。
逮捕行為と監禁行為とが一体となった態様の事例
特に逮捕行為と監禁行為とが一体となった態様の事例として、以下の裁判例があります。
名古屋地裁判決(昭和34年4月27日)
被害者(17歳)のズボンを脱がせ、両手を後頭部へ回して、その両手首、両上腕部及び両足首をそれぞれ木綿細ひも又はビニール被覆電線で堅く縛った上、抱きかかえて深さ約63.5センチメートル、直径約84センチメートルの小判型風呂桶の中に入れ、同人の両膝を立てさせ、上半身が膝につく程屈ませ、上から蓋をして約20本の釘で打ちつけて上記風呂桶内に監禁し、窒息に基づく致死の結果を生じさせた事案です。
裁判所は、
- 本件は被告人が被害者を2、3日監禁する目的をもって、その手段としてまず逮捕行為に出たものであるから、上記逮捕行為は広く監禁罪の内に包括せられるものと考えるべきで独立した逮捕罪が一旦成立すると解するのは相当でない
と判示し、逮捕監禁致死罪(刑法221条)が成立するとしました。
この判決内容に対しては、逮捕及び監禁行為が存在しているのであるから、包括して1個の逮捕監禁罪が成立していると考えるのが相当と考える学説があります。