刑法(逮捕・監禁罪)

逮捕・監禁罪(27) ~「逮捕罪、監禁罪における承継的共同正犯」を説明~

 前回の記事の続きです。

承継的共同正犯とは?

 承継的共同正犯とは

ある人(犯人A)が犯罪行為に着手し、その犯罪行為が終わっていない段階で、あとからやって来た人(犯人B)が、犯人Aと共謀し、残りの犯罪行為をAとBの両方で実行する場合

の犯罪形態をいいます。

 たとえば、

犯人Aが、被害者Cを殺すつもりで殴っている途中に、あとからやって来た犯人Bが「俺も一緒に被害者Cを殺す」という意思を示し、被害者Cを、犯人AとBが共同で殺した

という場合、Bの行為は、承継的共同正犯となり、犯人AとBは、殺人罪の共同正犯(共犯)で処罰されます。

 承継的共同正犯は、後から犯行に加わった後行者が、

  • 先行者と共謀し(意志の連絡を行い ※明示・暗示を問わない)
  • 先行者の行為・結果を認識・容認し、利用した上で、事後の行為を行った

場合に成立します。

後行者が責任を負う範囲

 承継的共同正犯において、あとから犯行に加わった後行者は、共犯者として、どの範囲までの責任を負うのかが問題になります。

 責任を負う範囲のパターンとしては、

  • 犯罪行為全部の責任を負うことになる
  • 自分が犯罪に加わった以降のみの責任を負うことになる

の2通りが考えられます。

 結論としては、「犯罪行為全部の責任を負うことになる」か、それとも「自分が犯罪に加わった以降のみ責任を負うことになる」かは、ケースバイケースとなります。

 どちらの結論になるかは、個別の事案ごとに裁判所が決めるので、理解を深めるには、判例を見て考えることになります。

※ 承継的共同正犯のより詳しい説明は前の記事参照

逮捕罪、監禁罪における承継的共同正犯

 承継的共同正犯については、逮捕監禁罪のような継続犯の場合においては、学説では、共同実行の意思で介入した時以後の犯罪行為についてのみ共同正犯としての責任を問われるべきであるとの説が有力です。

 裁判例を傾向を見てみると、自らが加功する前の逮捕監禁について、単にその認識だけではなく、殊更ないし積極的にこれを利用する意思があったと認められる場合に限って、承継的共同正犯を認める(自分が関与する前の逮捕・監禁も含めて共同正犯が成立するとする)見解に立っているといえます。

 参考となる裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和34年12月7日)

 他人が不法監禁されているとき、途中からその加害者の犯行を認識しながらこれと犯意を共通にして上記監禁状態を利用し自らもその監禁を続けた場合は、いわゆる承継的共同正犯として、加担前の監禁を含めて全部について責任があるとしました。

札幌地裁判決(昭和56年11月9日)

 後行行為者において、先行行為者の行為及びその生じさせた結果・状態につき、少なくともその概要を認識認容し、先行行為による結果又は状態を自己の爾後の犯行のためにことさら利用する意思をもって、先行行為者とともに残りの実行行為に関与介入(共謀又は実行行為の分担)するときは、後行行為者に対し、先行行為者の行為について刑事責任を負わすことができるが、本件においては被告人は、先行行為の概要さえ認識しておらず、したがってこれをことさら利用する意図も認められないから、結局、先行行為につき刑責を負わせることはできないとしました。

東京地裁判決(平成10年5月26日)

 教団幹部がSを拉致して教団施設に連行し監禁した挙げ句、死亡させた逮捕監禁致死事件につき、教団の治療省大臣の地位にあった被告人が、Sを教団施設に連行してきたHらから「Sを『第2サティアン』まで連行してきた経緯について説明を受けたことから、E、H、Nらと共謀の上、Sの監禁を継続しようと企て、引き続き、被告人らがSに注射用チオペンタールナトリウムの溶解液を点滴投与し、意識喪失ないし意識低下状態を継続させるなどして、Sを第2サティアンから脱出不可能な状態において不法に逮捕監禁し、上記チオペソタールナトリウムの副作用である呼吸抑制、循環抑制の状態における心不全ないしは呼吸停止等によりSを死亡させた旨判示するとともに、被告人が直接関与する前の逮捕監禁の事実についても具体的詳細に判示しているところからして、途中から加担した被告人に対し加担前の逮捕監禁も含めて全部について共犯として犯罪が成立するとの見解をとっているものと思われる判決をしました。

東京高裁判決(平成14年3月13日)

 被告人が、舎弟のAらが被害者が覚せい剤を盗んだとしてこの返還等を求めて被害者を略取、監禁するに際して、そもそもAが現場に行くことを承知していた上、犯行の節目ごとに電話で状況の報告を受けた後、自らも現場に赴き、それまでの事情を聞きながら犯行に加担することとし、以後、被告人も含めて代わる代わる被害者を監視したり、被告人において覚せい剤の代わりとしての現金の受け渡し場所を被害者の内妻に指示するなどして監禁を続けたという事案において、「被告人が加担する以前に略取行為自体は既に終了し、共犯者による被害者に対する主な暴行・脅迫も終わっていたけれども、共犯者において略取してきた被害者をそのまま支配下に置いて監禁し続け、その状態を利用しつつ金員を交付させようとしている段階で、被告人はその事情を熟知しながらこれに加担したものであるから、犯行の途中からの加担であっても、営利目的略取、監禁及び恐喝未遂の各犯行全体について共同正犯としての責めを負うものというべきである」として承継的共同正犯の成立を認めました。

東京高裁判決(平成16年6月22日)

 一審が、被告人は組事務所に到着し、被害者Cが同所においてAやBらに監禁されている事実を認識しつつAやBらと犯意を共通にして以後の監禁に加担したのであるから、継続犯という監禁罪の性質等を考慮すると、被告人が組事務所に到着する以前の監禁についても併せて承継的共同正犯としての責任を負うとしたのに対し、共同正犯の成立範囲についての法令の解釈適用を誤ったものとして、「被告人は、組事務所に到着した時点で、Cが正座をさせられていてAやBから怒鳴られているという状況を認識して、その後の監禁行為に加功したものではあるが、Cが組事務所に連行される前のd公園でのAらの暴行や連行の態様等については知らなかったと認められるのであり、しかも、被告人は、暴力団の上位者であるAからの指示によって組事務所に赴き、その場の状況から、Cを監禁し、他県へ連行するというAらの意図を了解して、その後の監禁行為に加功したに過ぎないのであって、自分が加功する前の監禁状態をことさらないし積極的に利用する意思があったとも認められない。そうすると、被告人がCの監禁について共同正犯としての責任を負うのは組事務所に到着した以後の監禁に限られると解するのが相当である」としました。

甲府地裁判決(平成16年9月16日)

 被告人らは、自分が関与する以前の逮捕監禁状態を殊更ないし積極的に利用する意思をもって、逮捕監禁に関与したとまでは認められないから、継続犯という逮捕監禁罪の性質を考慮しても、共同正犯としての責任を負うのは、車の運転を命じられて、あるいは事務所において、それぞれ犯行に関与することになった時点以降の逮捕監禁に限られると解するのが相当であるとしました。

大津地裁判決(平成22年1月27日)

 被告人が自らの意思で自発的に逮捕監禁の犯行に参加を決めた事実はうかがえるものの、その動機は、被害者の一連の行動に憤慨していたところ、Yから被害者を逮捕監禁していることを知らされたという程度のことであって、それ以上に被害者の逮捕監禁等から利益を得ようとしていた事情は認めがたく、また、以前に被告人が被害者を探し回っていた等の事情も認められないから、逮捕監禁の全体について承継的共同正犯としての責任を負うと解するには躊躇せざるを得ず、被告人が被害者が監禁されていることを聞いて監禁場所である部屋を訪れて、Yらとともに被害者を監視するなどの行為に加担した以降の監禁行為に限って監禁罪としての責任を負うものとしました。

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