刑法(逮捕・監禁罪)

逮捕・監禁罪(30) ~「逮捕罪と監禁罪は包括一罪の関係になる」「逮捕罪・監禁罪の個数(被害者1名ごとに一罪が成立する)」を説明~

 前回の記事の続きです。

逮捕罪と監禁罪の罪数

 この記事では逮捕罪と監禁罪の罪数を説明します。

逮捕罪と監禁罪は包括一罪の関係になる

 逮捕と監禁とは同一法条(刑法220条)に規定された同性質の犯罪であって、その態様を異にするに過ぎないので、人を逮捕し引き続いて監禁する場合は、刑法220条包括一罪となります(手段と結果の関係とする牽連犯にはなりません)。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(大正6年10月25日)

 裁判所は、

  • 刑法第220条の逮捕及び監禁罪は共に同一法条に規定してある同一性質の犯罪にして単にその態様を異にするに過ぎないから、人を逮捕しかつ引き続いてこれを監禁したときはこれを包括的に観察して単一の犯罪と評価すべきであり、手段結果の関係にある2個の犯罪あるいは連続した数個の犯罪と評価すべきでない

と判示しています。

最高裁判決(昭和28年6月17日)

 裁判所は、

  • 人を逮捕し監禁したときは、逮捕罪と監禁罪との各別の二罪が成立し、牽連犯又は連続犯となるものではなく、これを包括的に観察して刑法220条1項の単純な一罪が成立するものと解すべきものである
  • してみれば、逮捕監禁の所為ありとして起訴され、若しくは公判に付された場合に、裁判所が単に監禁の事実だけを認め、逮捕の事実は認められないとしたときは、逮捕の点は単純一罪の一部に過ぎないから、認められた監禁の事実だけを判決に判示し、これについて処断すれば足り、逮捕の点は判決主文において無罪を言渡すべきではなく、その理由中においても、必ずしも罪として認めない理由を判示する必要はない

と判示しました。

逮捕罪・監禁罪の個数(被害者1名ごとに一罪が成立する)

 個人の行動の自由は、一身専属的な法益であるから、逮捕罪・監禁罪は、逮捕・監禁された被害者1名ごとに一罪が成立します。

 1個の行為で同時に同一場所に複数の者を逮捕・監禁した場合は、被害者の数だけの逮捕罪・監禁罪が成立し、成立した複数の逮捕罪・監禁罪は観念的競合の関係になります。

 この点、参考となる以下の判例があります。

大審院判決(大正8年8月4日)

 裁判所は、

  • 二人以上共謀して各自同時に同一の場所において別個の人を逮捕監禁した場合においては、犯人各自は、自己並びに他方面の共犯のためにその犯罪を実行すると同時に、他方面の共犯により自ら手を下さない者に対する逮捕監禁行為を実行するにほかならないから、被害者の数に応じた個数の逮捕監禁罪名に触れる1個の行為あるものといわざるを得ず
  • したがって、またその各犯人に対する教唆者もまた1行為数罪名に触れるものとして処断すべき

と判示しました。

最高裁判決(昭和28年6月17日)

 裁判所は、

  • 二人以上の者が共謀して、同時に同一場所において別個の人を監禁したときは、被害者の数に応じた数個の監禁の罪名に触れる1個の行為あるものと解すべきことは、多言を要しない

と判示しました。

 複数の被害者を監禁した場合で、監禁の一部が同一日時、同一場所という時には、観念的競合の関係と見るべきか、それとも併合罪と見るべきかの問題が生じます。

 結論として、監禁行為の主要な部分が同一であれば観念的競合と見るのが相当であると解されます。

 この点、参考となる以下の裁判例があります。

神戸地裁判決(平成14年4月16日)

 被告人ら3名で、まず、当日午前4時40分頃に、Yを乗用車の後部座席に乗車させで発進してYに対する監禁を始め、同日午前7時頃に、YとともにZを同乗用車の後部に乗車させて発進してY及びZに対する監禁を続け、同日午前9時30分頃、Y及びZを解放したという事案につき、Y及びZに対する各監禁を観念的競合としています。

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