前回の記事の続きです。
監禁罪と略取罪とは別罪を構成する
略取罪と監禁罪(刑法220条)は構成要件を異にし、罪質も異なるため(共に人の自由を侵害するという面をもつが、略取罪は人の身体・行動の自由の侵害を要素としない)、略取に際し、逮捕監禁が行われれば、略取罪と逮捕監禁罪の両罪が成立します。
この点は、大審院判決(昭和13年11月10日)は、
「結婚の目的をもって人を略取した者が引き続いてこれを不法に監禁した場合は略取罪のほかに監禁罪を構成する」
旨判示しています。
略取罪と監禁罪の関係
学説
略取罪と監禁罪の関係について、学説は分かれており、
としています。
判例・裁判例
「身の代金取得の目的で人を拐取した者が、更に被拐取者を監禁し、その間に身の代金を要求した場合には、身の代金目的拐取罪と身の代金要求罪とは牽連犯の関係に、以上の各罪と監禁罪とは併合罪の関係にあると解するのが相当である」
とし、略取罪と監禁罪を併合罪としています。
富山地裁判決(平成13年11月8日)は、身の代金目的で被害者を拐取し、引き続いて同人を監禁し、その間に身の代金を要求した事案につき、身の代金目的拐取罪と拐取者身の代金要求罪とは牽連犯、これと監禁罪とは併合罪としています。
横浜地裁判決(平成20年4月16日)は、被害者に逮捕状様の物を示し、両手に手錠をかけて連行して自動車内に押し込み、同車を発進させて自分らの支配下に置いて営利目的で略取し、その頃から約4時間後まで、被害者を同車内から脱出することを困難にして監禁した事案について、営利目的略取罪と監禁罪については併合罪としています。
大阪高裁判決(昭和53年7月28日)は、身の代金要求罪と監禁罪との関係を併合罪とするとともに、営利略取罪を継続犯だとして、監禁を手段として営利略取が行われた場合、監禁罪と営利略取罪が成立し、両罪は観念的競合の関係に立つとしました。
名古屋地裁判決(平成16年2月3日) は、身の代金拐取、拐取者身の代金要求、逮捕監禁の事案につき、身の代金拐取と逮捕監禁は観念的競合の関係、身の代金拐取と身の代金要求とは牽連犯であるとして、以上を一罪として処理しています。
さいたま地裁判決(平成13年9月28日)は、営利略取と逮捕監禁について、観念的競合としています。
さいたま地裁判決(平成14年6月19日)は、わいせつ目的略取と監禁について、観念的競合としています。
神戸地裁判決(平成16年3月16日)は、わいせつ目的略取、監禁、強制わいせつ(現行法:不同意わいせつ)につき、わいせつ目的略取と監禁は観念的競合、わいせつ目的略取と強制わいせつとは牽連犯であるとし、以上を一罪として処理しています。
宮崎地裁判決(平成21年4月16日)は、わいせつ目的略取、監禁・集団強姦致傷(旧法:現在は刑法から削除)につき、わいせつ目的略取と監禁は観念的競合、わいせつ目的略取と集団強姦致傷とは牽連犯であるとし、以上を一罪として処理しています。