前回の記事の続きです。
弁護人は、その選任方法によって私選弁護人と国選弁護人に分けられます。
この記事では、私選弁護人について説明します。
私選弁護人とは?
私選弁護人とは、
被告人又は被疑者、その法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹が選任した弁護人
をいいます(刑訴法30条)。
被告人の配偶者などは、独立して被告人のために弁護人を選任できる
被告人と一定の身分関係にある者(被告人又は被疑者の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹)は、独立して弁護人を選任することができます(刑訴法30条2項)。
「独立して」とは、
被告人の意思に反してでも
という意味です。
例えば、被告人の妻が、被告人のために弁護人を選任しようとした場合、被告人が「弁護人を選任するな」と言っても、妻は、妻名義で被告人のために弁護人を選任し、被告人に弁護人を付けることができます。
なお、刑訴法30条に列挙されていない者(被告人又は被疑者の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹以外の者)は、弁護人選任権はありません。
例えば、被告人の内妻は、配偶者に当たらないので、弁護人選任権はありません。
例えば、被告人の叔父は、直系の親族ではないので、弁護人選任権ありません。
弁護人選任権のない者の選任行為は無効となります。
弁護人は、弁護士の中から選任しなければならない
弁護人は、弁護士の中から選任しなければなりません(刑訴法31条1項)。
法律の専門的知識がない者が弁護人になった場合、弁護人の職責を十分に果たすことができないため、弁護人は、弁護士の中から選任しなければならないとされます。
弁護人を選任しようとする被告人又は被疑者は、弁護士会に対して弁護人の選任の申出をすることができ、この申出を受けた弁護士会は、速やかに弁護人となろうとする者を紹介しなければならず、弁護人となろうとする者がいないときには、その旨を速やかに申出をしたに対して通知しなければなりません(刑訴法31条の2)。
被告人は、例外として、特別弁護人(弁護士以外から選任された弁護人)を選任できる場合がある
弁護人は、弁護士の中から選ぶのが原則です。
しかし、例外的に、弁護士以外から選ぶことができる場合があります。
この弁護士以外から選んだ弁護人を
特別弁護人
といいます。
根拠法令は、刑訴法31条2項にあり、
『簡易裁判所又は地方裁判所においては、裁判所の許可を得たときは、弁護士でない者を弁護人に選任することができる』
と規定し、裁判所が許可をしたときに、特別弁護人が選任できることになっています。
特別弁護人の例
特別弁護人の例として、
- 学校の教師、雇主などのように被告人と特別な関係にある人
- 事件について特別な学識経験のある人
などが考えられます。
特別弁護人が選任できるのは、被告人だけ
特別弁護人を選任できるのは、簡易裁判所又は地方裁判所に事件を起訴された被告人だけです。
被疑者(起訴される前の犯人)の段階において、特別弁護人は選任できません。
さらに、高等裁判所と最高裁判所で公判中の事件では、特別弁護人は選任できません。許されない(刑訴法387条、414条)。
このことは、判例(最高裁決定 平成5年10月19日)で明確化されています。
この判例において、
- 刑訴法31条2項は、例外として、弁護士でない者を弁護人に選任するいわゆる特別弁護人を選任することができる場合を認めている
- 刑訴法31条2項によりいわゆる特別弁護人を選任することができるのは、公訴が提起された後に限られる
と判示し、特別弁護人を選任できるのは、既に公訴が提起された(起訴された)被告人だけであり、被疑者の段階では、特別弁護人は選任できないことを示しました。
私選弁護人の数は、原則として制限はない
私選弁護人の数は、原則として制限はなく、何人でも付けることができます。
しかし、裁判所は、特別の事情があるときは、私選弁護人の数を1人の被告人につき3人までに制限することができます(刑訴法35条、刑訴法規則26条)。
これは、むやみに多数の弁護人が選任された場合、訴訟が混乱して遅延するおそれがあるためです。
被告人に複数の弁護人が付いているときは、主任弁護人を定める
弁護人が複数いる場合、弁護活動が統一的に行われず、迅速かつ円滑な裁判の進行の妨げになるおそれがあります。
そこで、弁護人が複数いる場合、主任弁護人や副主任弁護人を決め、弁護活動を統一的に行われるようにし、裁判の迅速化と円滑化を図る規定を設けています。
被告人に複数の弁護人が付いているときは、主任弁護人が定められます。
刑訴法規則23条
主任弁護人に事故があるときは、裁判長は、副主任弁護人を指定します。
刑訴法規則25条
主任弁護人又は副主任弁護人は、弁護人に対する通知又は書類の送達について他の弁護人を代表します。
主任弁護人及び副主任弁護人以外の弁護人は、裁判長又は裁判官の許可及び主任弁護人又は副主任弁護人の同意がなければ、申立、請求、質問、尋問又は陳述をすることができません。
控訴申立ては、主任弁護人の同意などを要せずに、それ以外の弁護人もなし得ることが裁判例(名古屋高裁判決 昭和62年3月9日)で示されています。
弁護人の選任は書面で行う必要がある
弁護人の選任は、選任者(被告人又は被疑者、その法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹)と弁護人が連署した書面(弁護人選任届)を提出して行います(刑訴法規則18条)。
連署とは、選任者と弁護人がそれぞれの氏名を並べて署名し、押印又は指印することをいいます(刑訴法規則60条)。
このように弁護人の選任は要式行為とされています。
なので、例えば、被告人の署名がない弁護人選任届は無効となります。
この点、参考となる判例として、以下のものがあります。
氏名を記載できない合理的な理由がないのに、被告人が署名していない弁護人選任届を無効とした事例です。
裁判官は、
- 公訴提起後における私選弁護人の選任は、弁護人になろうとする者と被告人とが連署した書面を差し出してしなければならないことは、刑訴法30条1項、刑訴規則18条の明定するところである
- ここに連署とは、弁護人になろうとする者と被告人とがそれぞれ自己の氏名を自書し押印することであることは、同規則60条によって明らかである
- そして、法が弁護人の選任を右のように要式行為としている理由は、手続を厳格丁重にして過誤のないようにしようとするためであり、被告人が訴訟の主体として誠実に訴訟上の権利を行使しなければならないものであることは、同規則1条2項の明定するところであるから、氏名を記載することができない合理的な理由もないのに、被告人の署名のない弁護人選任届によつてした弁護人の選任は、無効なものと解するのが相当である
と判示しました。
被告人3名が、自己の名前を言わず、氏名不詳者として裁判を受けていた事案で、被告人3名が「氏名不詳A・B・C」とのみ記載して押印した弁護人選任届を無効としました。
裁判官は、
- 被告人らの原審における弁護人選任者届書には、被告人氏名不詳A、B、Cと記載して拇印しているが、右A、B、Cは被告人らの氏名でないことはいうまでもないから、右記載をもって弁護人と連署したものとは認めるわけにはいかない
と判示しました。
自己の氏名を黙秘する被告人が、弁護人選任届に監房番号のみを自署して押印した事案で、その弁護人選任届は無効であるとしました。
弁護人選任の効力が有効となる期間
弁護人選任の効力が有効となる期間は、以下のとおり定められています。
① 公訴の提起前の弁護人選任(起訴される前の捜査段階の選任)の効力
公訴の提起前の選任は、弁護人選任届を検察官又は司法警察員に提出している場合は、捜査段階のほか、一審の裁判においても効力となります(刑訴法32条、刑訴法規則17条)。
つまり、捜査段階で提出された弁護人選任届に記載されている弁護人は、起訴された後の一審の裁判においても、被告人の弁護人として活動できます。
このため、検察官は、公訴の提起と同時に、検察官又は司法警察員に差し出された弁護人選任届を裁判所に提出しなければならないとされています(刑訴法規則165条2項)。
② 公訴の提起後の弁護人選任の効力
公訴の提起後の選任は、その審級(その裁判)に限って選任の効力があります(刑訴法32条2項)。
つまり、一審の裁判が終わり、控訴審・上告審の裁判をやることになった場合、一審の弁護人の選任の効力は、控訴審・上告審に継続しないので、控訴審又は上告審ごとに、新たに弁護人選任届を提出することが必要になります。
③ 一つの事件についてした弁護人選任の効力は、併せて審理される別の事件にも効力がある
一つの事件についてした選任は、被告人又は弁護人の反対の意思表示がない限り、併せて審理される別の事件についても効力があります(刑訴法規則18条の2)。
私選弁護人の地位は、弁護人の辞任又は選任者による解任により失われる
私選弁護人の地位は、
- 弁護人の辞任
- 選任者による解任
により失われます。
次回の記事に続く
次回の記事では、国選弁護人について説明します。
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