前回の記事の続きです。
道交法違反(過失建造物損壊)は、道交法116条において、
1項 車両等の運転者が業務上必要な注意を怠り、又は重大な過失により他人の建造物を損壊したときは、6月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する
2項 特定自動運行を行う者又は特定自動運行のために使用される者が業務上必要な注意を怠り、又は重大な過失により、特定自動運行によって他人の建造物を損壊したときは、6月以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する
と規定されます。
この記事では、条文中にある
- 「重大な過失により」
- 「他人の建造物」
の意義を説明します。
①「重大な過失により」とは?
「重大な過失により」とは、
- わずかな注意を払うことにより、事故の発生することを容易に予見し、事故を未然に回避し得たにもかかわらず、その怠慢によりこれを予見しなかったこと
つまり、
- 著しい注意義務の違反のある場合のこと
をいいます。
「重大な過失により」とは、具体的には、
- 業務上とはいえない車両等の運転者(例えば、初めて運転を試みた無免許者)の犯した著しい注意義務違反
をいいます。
②「他人の建造物」とは?
1⃣ 「建造物」は、刑法260条の建造物等損壊罪における「建造物」と同じく、
家屋その他これに類する建築物をいうもの
と解されています。
具体的には、「建造物」とは、
屋根を有し、墻壁又は柱材により支柱せられ、土地に定着し、少なくともその内部に人の出入しうるもの
をいいます。
こことから、建造物を毀損せずに取り外しうるもの(潜戸、竹垣など)は建造物ではありません(大審院判決 明治43年6月28日)。
2⃣ また、雨戸、板戸、障子、ガラス戸の類が建造物の一部であるかどうかは、毀損せずそれを取り外すことができるかによって決まります。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(大正8年5月13日)
裁判所は、
- 家屋の外囲に建付けある雨戸又は板戸の如きは、これを毀損することなくして自由に取り外し得べき装置なるときは家屋の一部を構成せざるものとす
と判示しました。
このことから、上記で列挙した雨戸、板戸、障子、ガラス戸の類は、通常自由に取り外すことができるので建造物とはいえないと解されます。
したがって、家屋突入事故を起こしても、柱など家屋の構造部分そのものを損壊したのではなく、単にガラス戸などを損壊したにとどまるときは、道交法違反(過失建造物損壊)とはならないと解されています。
3⃣ 「建造物」は、「他人のもの」であることが必要です。
ただし、人が現在していると否とを問わず、また、人の住居に使用していると否とを問いません。
4⃣ 汽車、電車、自動車、船舶等はいずれもここにいう建造物に当たらないと解されています。