前回の記事の続きです。
「指定最高速度違反」と「法定最高速度違反」が競合した場合に、指定最高速度違反と法定最高速度違反のどちらが成立するか?
運転者が指定最高速度40キロの一般道を70キロメートル毎時で自動車を走行させ、指定最高速度違反(40キロ指定)と法定最高速度違反(60キロ指定)とが競合した場合に、道路交通法違反(速度違反)の
- 指定最高速度違反
と
- 法定最高速度違反
のどちらが成立するかという問題があります。
学説
「道路標識により最高速度40キロメートルに指定している道路において、自動車の運転者がうっかりして(過失)で道路標識に気づかなかったばかりでなく、内心では法定最高速度である時速60キロメートルを超えて走行する故意のもとに、時速75キロメートルで走行した」
という事例において、運転者の刑責がどうなるかについて、学説では、
A説 指定最高速度違反の過失犯が成立する
B説 指定最高速度違反の故意犯が成立する
C説 一種の法条競合である
があり、上記のような事例では、B説が有力説となっています。
裁判例も法定最高速度超過の認識がある場合はB説の立場をとるものが多いです(判例は以下のとおり)。
しかし、上記事例と異なり、運転者が40キロメートルの標識を看過して、しかも50キロメートルで法定の速度以内で走行しているような場合はA説によるべきとされます(指定最高速度違反(10キロメートル超過)の過失犯が成立)。
B説の立場をとった裁判例
岡山地裁判決(昭和43年2月1日)
裁判所は、
- 被告人には指定制限速度が40キロメートル毎時であるとの認識がなかったものと認めざるを得ないが、被告人の当公判廷での供述によると、被告人には法定制限速度60キロメートル毎時をこえて自動車を運転していたとの認識があったと認められるので、それが指定であれ又法定であれともかくも制限速度に違反しているとの点の認識において欠けるところはないから、講学上いわゆる具体的事実の錯誤の場合として、指定された制限速度についての認識がなくても、その違反の過失犯が成立するのではなく、故意による指定制限速度違反罪が成立するものと解すべきである
と判示しました。
裁判所は、
- 被告人は、本件当時政令で定める最高速度が60キロメートル毎時であることを知っていたにもかかわらず、これを超える速度で車両を走行させる認識を有していたことが明らかであるところ、このように法定速度に違反する犯意で指定制限速度違反を犯した場合には、法定速度違反と指定制限速度違反の各法益、法定刑が全く同種、同一であって、その最高速度の制限が公安委員会の指定に基づくものか又は政令に定められたものかの差異でしかないことを考慮すれば、生じた結果についての故意を阻却するものではないと解するのが相当である
- 法定速度より低い最高速度の指定がなされている道路において、法定速度を超える速度で走行した認識があれば、指定による制限速度を知らなかつたとしても、指定速度違反罪の故意犯が成立する
と判示しました。