これから6回にわたり、道路交通法の車両(道交法2条1項8~13号)の意義を説明します。
道路交通法上の車両(道交法2条)とは?
「車両」が何かについては、道交法2条1項8号において、
と規定されます。
「自動車」の意義
「自動車」の意義は、道交法2条1項9号において、
- 原動機を用い、かつ、レール又は架線によらないで運転する車又は特定自動運行を行う車であって、原動機付自転車、軽車両、移動用小型車、身体障害者用の車及び遠隔操作型小型車並びに歩行補助車、乳母車その他の歩きながら用いる小型の車で政令で定めるもの(以下「歩行補助車等」という。)以外のものをいう
と規定されます。
「原動機を用い」とは?
「原動機を用い」とは、『原動機を推進力として』ということです。
原動機の種類(内燃機関・蒸気機関・電気機関等)はもとより、走行装置の種類(車輪・カタピラ等)を問いません。
被牽引車
被牽引車は、原動機を用いないので、道交法上は軽車両となります(道交法2条1項11号)。
しかし、車両等の交通方法(道交法第2章)については、「自動車又は原動機付自転車により牽引される車両(被牽引車)」はその自動車又は原動機付自転車の一部とされています(道交法16条2項)。
「レール又は架線によらないで運転する車」とは?
「レール又は架線によらないで運転する車」とは、
レール又は架線を用いないで、道路において、自動車をその本来の用い方に従って用い車という意味
です。
「運転」の意義は、道交法2条1項17号において、
道路において、車両又は路面電車をその本来の用い方に従って用いること
と規定されます。
「原動機付自転車…並びに歩行補助車、小児用の車その他の小型の車で政令で定めるもの(…)以外のもの」とは?
「原動機付自転車…並びに歩行補助車、小児用の車その他の小型の車で政令で定めるもの(…)以外のもの」とは、
- 原動機付自転車
- 軽車両
- 身体障害者用の車椅子
- 歩行補助車
- 小児用の車
- その他の小型の車で政令で定めるもの
については、「自動車」の範疇から除くという意味です。
③~⑥の身体障害者用の車椅子、歩行補助車、小児用の車、その他の小型の車で政令で定めるものを通行させている者については、道交法2条3項1号において歩行者とする旨規定されています。
「歩行補助車、小児用の車、その他の小型の車で政令で定めるもの」とは?
「歩行補助車、小児用の車、その他の小型の車で政令で定めるもの」の意義は、道交法施行令1条において、
道路交通法(…)第2条第1項第9号の歩行補助車等は、次に掲げるもの(原動機を用いるものにあっては、内閣府令で定める基準に該当するものに限る。)とする。
1号 歩行補助車、小児用の車及びショッビング・カート
2号 レール又は架線によらないで通行させる車であって、次のいずれにも該当するもの(前号に掲げるものを除く。)
イ 車体の大きさが他の歩行者の通行を妨げるおそれのないものとして内閣府令で定める基準に該当すること。
ロ 車体の構造が歩きながら用いるためのものとして内閣府令で定める基準に該当すること。
と規定されます。
条文中の「内閣府令で定める基準」は、道交法施行規則1条において、
1項 道路交通法施行令(…)第1条各号列記以外の部分の内閣府令で定める基準は、次に掲げるとおりとする。
1号 車体の大きさは、次に掲げる長さ、幅及び高さを超えないこと。
イ 長さ 120センチメートル
ロ 幅70センチメートル
ハ 高さ120センチメートル
2号 車体の構造は、次に掲げるものであること。
イ 原動機として、電動機を用いること。
ロ 6キロメートル毎時を超える速度を出すことができないこと。
ハ 歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。
ニ 歩行補助車等を通行させている者が当該車から離れた場合には、原動機が停止すること。
2項 前項第1号の規定は、次に掲げる車については、適用しない。
1号 特定の経路を通行させることその他の特定の方法により通行させる小児用の車(通行させる者が乗車することができないものに限る。)で、当該方法が他の歩行者の通行を妨げるおそれのないものであることにつきその通行の場所を管轄する警察署長(その通行の場所が同一の都道府県公安委員会(…)の管理に属する2以上の警察署長の管轄にわたるときは、そのいずれかの警察署長)の確認を受けたもの
2号 令第1条第2号に掲げる車
3項 令第1条第1号イの内閣府令で定める基準は、次に掲げる長さ及び幅を超えないこととする
1号 長さ190センチメートル
2号 幅60センチメートル
4項 令第1条第2号ロの内閣府令で定める基準は、道路交通法(…)第63条の3に規定する普通自転車の乗車装置(幼児用座席を除く。)を使用することができないようにした車その他の車であって、通行させる者が乗車することができないものであることとする。
と規定されます。
上記の道交法施行規則1条1項2号ニの「歩行補助車等を通行させている者が当該車から離れた場合には、原動機が停止すること」に該当するものとして、
- ハンドル部分に付いているレバーを握らないと原動機が作動しないような構造のもの
が挙げられます。
原動機を用いる歩行補助車等が、上記の基準に適合するかどうかについては、道交法施行規則39条の2の規定により、
原動機を用いる歩行補助車等の製作又は販売を業とする者が、その製作し、又は販売する原動機を用いる歩行補助車等の型式について国家公安委員会の認定を受けることができる
ことになっています。
この型式認定の手続等については、道交法施行規則39条の8に基づき、「原動機を用いる歩行補助車等の型式認定の手続等に関する規則」が定められています。
「歩行補助車」とは?
「歩行補助車」とは、
- 高齢者その他運動能力が少し低下した個人の移動の補助などに使われる車及びこれに類する車の総称
です。
例えば、高齢者向けの手押し車で、荷物の運搬を主眼とするものが該当します。
「小児用の車」とは?
「小児用の車」には、
- 子供用二輪自転車
- 小児用三輪車
- 乳母車(ベビーカー)
などが該当します。
乳母車(ベビーカー)について、原動機を用いるものが近年普及してきています。
この点、原動機を用いる車は、形式上、自動車又は原動機付自転車に分類されることとなりますが、従来から法上、乳母車等の小児用の車を通行させている者は歩行者とされていたこのため、「道路交通法の一部を改正する法律(令和元年法律第20号)」において、「歩行補助車等」の定義を改め、小児用の車を歩行補助車等に含め、自動車等に当たらないこととする規定が整備されました。
「小児用の車」として「子供用二輪自転車」に該当するのか、それとも「軽車両」に該当するのかが争われた裁判例
標記裁判例として以下のものがあります。
機械式ブレーキを備え、タイヤ直径22インチの、側車のつかない二輪自転車を小学校4年生の児童が使用した場合、右自転車は「小児用の車」にはあたらず、「軽車両」にあたるとした判決です。
裁判所は、
- 道路交通法上「小児」又は「小児用の車」について何ら定義していないので、その文言自体からその内容を明らかにすることはできない
- したがって「小児用の車」の判断の基準は、同法の目的に即して、すなわち当該種類の自転車自体のもつ、機能効用及び他に与える危険性と右自転車を使用する年齢の者の安全性及び危害性との双方から定めなければならない
- 本件二輪自転車(22インチ-約55センチメートル)は、大人用の26インチ(約66センチメートル)の自転車に近い速度をもち、かつ惰力行進をするから、同車が人車等に衝突すると歩行者が危害を受け、また、当該自転車の運転者自身にもたらされる危険も大きいので、これを防止するため機械式ブレーキが設置されているし、そのような性質、機能に徴し「軽車両」と解しその通行方法をとらせることが妥当である
と判示しました。
東京高裁判決(昭和52年11月30日)
裁判所は、
- 本件自転車(16インチー約40センチメートル)は、いわゆる大人用自転車に比し小型で速力も遅いとはいえ歩行者より格段に早い速度をもち、かつ、惰力でも相当の距離を進行するものであるから、その機能からいっても歩行者と異なる取扱いが相当であり、殊に道路交通の上で歩行者に生ぜしめ得る危険は、歩行者がひき起こす危険に比すれば格段と大きく、その運転者は歩行者と同一とは論じられないといわねばならない
- したがって、本件自転車は、小児用の車には該当せず、軽車両として取り扱うべきものである
と判示しました。
新潟地裁新発田支部(昭和42年5月31日)
荷物の運搬用として改造された乳母車が「小児用の車」に当たるかが争われ、「軽車両」に当たるとされた事例です。
裁判所は、
- 乳母車の乳幼児を乗せる部分の全部を取り除き、車輪、車台および車を押す際に握る把手の部分のみとし、その車台の上に板片二枚を乗せただけのもので、もやや乳幼児を乗せることのできないものであると認めることができるから、法にいう軽車両に属するものと思料するを相当とする
と判示しました。