前回の記事の続きです。
酒気帯び・酒酔い運転の判例・裁判例
道路交通法違反(酒気帯び・酒酔い運転)の有用な判例・裁判例として以下のものがあります。
罪数に関する判例・裁判例
東京高裁判決(昭和45年11月24日)
裁判所は、
- 被告人の原判示第一の酒酔い運転は前記のとおり、飲食店「はしもと」で飲酒酩酊した後、その寄宿先に帰るため本件普通貨物車を運転した事実であり、同第四の酒酔い運転は、右自動車がはからずも道路側溝に落ちたため、それを引上げるべくいったん徒歩で勤務先の車庫までおもむき、同車庫から会社所有の別個の大型貨物車を右現場まで運転した事実であるから、両者は全く別個の意思の発動に基づく別異の行為であると解するのを相当とする
- したがって、たとえ酩酊の原因となった飲食店「はしもと」における同一の機会になされたものであり、かつ、その酩酊状態の継続中に右2回の運転行為が行われたものであっても、これをもって単一の酒酔い運転行為であるとは言えない
- 原判決がこれを別個の行為とし、併合罪をもって処罰したのは正当であり、論旨は理由がない
と判示しました。
道路交通法違反(酒気帯び運転)と道路交通法違反(免許証不携帯)とは、観念的競合の関係になるとした判決です。
裁判所は、
本件酒酔い運転と免許証不携帯とは、一個の車両運転行為であって、それぞれの罰条に該当するものと解すべきであるから、右両罪は刑法第54条1項前段の観念的競合の関係にあると見るのが相当である
と判示しました。
現行犯逮捕された酒気帯び運転者が、現行犯人ではなく、準現行犯人に当たるとされた裁判例
現行犯逮捕(刑訴法213条)が認められるためには、「犯行と逮捕の時間的接着性」の要件が必要になります。
「犯行と逮捕の時間的接着性」の要件がなく、現行犯逮捕が認められない場合でも、準現行犯逮捕(刑訴法212条2項)が認められる場合があります。
※ 現行犯逮捕と準現行犯逮捕の説明は前の記事参照
現行犯逮捕は認められなかったが、準現行犯逮捕が認められた以下の裁判例があります。
名古屋高裁判決(平成元年1月18日)
裁判所は、
- 飲酒検知器により被告人の呼気を測定した結果、呼気1リットルにつき0.35ミリグラムのアルコール量を検出し、さらに酒酔い鑑識カードに基づき被告人に質問をした末、酒気帯び運転から約52分経過した時点におい
て被告人を酒気帯び運転の現行犯人として逮捕した場合、被告人は準現行犯人に当たる
と判示しました。
罰条に関する裁判例
東京高裁判決(昭和59年8月8日)
裁判所は、
- 酒気帯び運転の罰条である道路交通法第119条1項7号の2(現行法:117条の2の2第3号)の規定は、同法施行令第44条の3の規定をまって、身体に保有するアルコールの程度が具体的に明確にされるのであるから、有罪判決における酒気帯び運転の罪についての罰条としては、道路交通法の規定のほかに、これを補充するものとして、前示同法施行令の規定をも掲げなければ法令の適用として十分でない
と判示しました。