道路交通法違反

酒気帯び・酒酔い運転(12)~「飲酒運転者への車両提供罪(道交法65条2項)」を説明

 前回の記事の続きです。

 道路交通法違反(飲酒運転者への車両提供罪:道交法65条2項)を説明します。

道路交通法違反(飲酒運転者への車両提供罪)とは?

 道路交通法違反(飲酒運転者への車両提供罪)は、道交法65条2項において、

  • 何人も、酒気を帯びている者で、前項(65条1項酒気帯び・酒酔い運転の禁止)の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない

と規定されます。

 道交法65条2項は、酒気を帯びている者(酒気帯び、酒酔いの両方)であって、酒気を帯びて車両等を運転をすることとなるおそれがあるものに、車両等を提供することを禁止したものです。

 本罪は、飲酒運転の根絶を図るため、飲酒運転を幇助する行為の中でも特に悪質であると評価できるものについて、独立した禁止規定を設けた上で、独立の犯罪としたものです。

 そのため、法定刑も道路交通法違反(酒気帯び運転・酒酔い運転)の幇助犯よりも重く定められています。

法定刑

 酒気を帯びていることを認識しつつ車両等を提供し、車両等の提供を受けた者が、

の罰則が車両等提供者に対して適用されることとなります。

「何人も」とは?

 「何人(なんぴと)も」とは、「だれでも」という意味です。

 「何人も」とは、法令上は、国籍、性別、年齢を問わず、日本国の統治権の対象となる全ての者をあらわす場合に用いられる用語です。

 本罪に違反した者(車両等提供者)が、運転免許を有する者である場合は、「重大違反唆し等」(道交法90条1項5号103条1項6号)として行政処分の対象となります。

「酒気を帯びている者」とは?

「酒気を帯びて」とは?

 「酒気」とは、アルコール分を指します。

 それが

  • 酒、ビール、ウイスキー等のアルコール飲料に含まれているもの
  • アルコールそのもの
  • 飲料以外の薬品等に含まれているもの

であるとを問いません。

 「酒気を帯びて」とは、

社会通念上、酒気帯びといわれる状態

をいい、

外観上(顔色、呼気等)認知できる状態にあること

をいうものと解されています。

 したがって、酒に酔った状態であることは必要でないし、また、運転の影響が外観上認知できることも必要ではありません。

「酒気を帯びて」の認識

 車両等を提供した時点において、提供を受ける者が酒気を帯びているとの認識があれば足り、どの程度の酒気を帯びているかまでの認識は必要ではありません。

酒気を帯びている事実を要する

 提供を受ける者が酒気を帯びる前に、車両等の提供を受けた場合には本罪は成立しません。

 酒気を帯びた者が車両等の提供を受けた後、一度酔いを醒まし、再び飲酒して車両等を運転した場合も本罪は成立しません。

「前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し」とは?

「前項(65条1項:酒気帯び・酒酔い運転の禁止)の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し」とは、

酒気帯び・酒酔い運転の禁止(道交法65条1項)に違反して、車両等を運転することとなるおそれのある者に対して

という意味です。

「車両等」とは?

 「車両等」とは、

  1. 自動車道交法2条1項9号
  2. 原動機付自転車道交法2条1項10号
  3. 軽車両道交法2条1項11号
  4. トローリーバス道交法2条1項12号
  5. 路面電車道交法2条1項13号

をいいます。

 ただし、罰則が科される対象車両は、「酒酔い運転者への車両提供罪」と「酒気帯び運転者への車両提供罪」とで異なります。

 「酒酔い運転者への車両提供罪」は、道交法117条の2第1項2号により、条文で「車両等」が処罰対象となっており、つまり、上記①~⑤の車両全てが該当し、対象車両は、

①自動車、②原動機付自転車、③軽車両、④トローリーバス、⑤路面電車

となります。

 「酒気帯び運転者への車両提供罪」は、道交法117条の2の2第1項4号・3号により、条文で「車両等(自転車以外の軽車両を除く)」が処罰対象となっており、つまり、上記①~⑤の車両から自転車以外の軽車両が除かれるので、対象車両は、

①自動車、②原動機付自転車、③自転車、④トローリーバス、⑤路面電車

となります。

「車両等を運転することとなるおそれがあるもの」とは?

 「車両等を運転することとなるおそれがあるもの」とは、

車両等を提供すれば、酒気を帯びて車両等を運転することとなる蓋然性があること

をいいます。

認識

 車両等提供者において、

提供を受ける者が酒気を帯びている者で、酒気を帯びて車両等を運転することとなるおそれがあるとの認識

が必要となります。

 車両等の提供を受ける者が、飲酒運転をすることとなるおそれがあることの認識は、

  • 車両等提供者と提供を受けた者の人間関係
  • 提供を受ける者の飲酒運転に関する言動
  • 飲酒運転が行われることを当然推認されるべき事情

などの具体的な状況によって判断されます。

「車両等を提供してはならない」とは?

 提供にかかる車両等は、

提供者において事実上支配している車両等

であれば足ります。

 その車両の所有者である必要はなく、借りている車両であってもよいです。

 「提供」とは、

提供を受ける者が利用し得る状態に置くこと

をいいます。

 車両等の所在を教え、車のエンジンキーを渡す行為も提供行為となります。

認識

 本罪は車両等提供者が、車両等を提供し、提供を受けた者が実際に飲酒運転を行った場合に成立するものですが、提供を受けた者が飲酒運転を行ったことの認識までは必要とされません。

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