道路交通法違反

酒気帯び・酒酔い運転(6)~「アルコール保有量測定のための採尿」を説明

 前回の記事の続きです。

アルコール保有量測定のための採尿

 道路交通法違反(酒酔い運転)と道路交通法違反(酒気帯び運転)の証拠保全は、基本的に、任意検査として、

  • 呼気検査(飲酒検知器によってその者の呼気中に保有するアルコールの程度を測定すること)
  • 酒酔い・酒気帯び鑑識カードにより、その者の言語、歩行能力等の外観的観察によること

によって行われます。

 運転者が任意検査を拒否した場合は、強制検査として、

  • 強制採血又は強制採尿によってアルコール保有量を測定すること

によって証拠保全をはかることになります。

 この記事では、「アルコール保有量測定のための採尿」について説明します。

 アルコール保有量を測定するための尿を、運転者から任意で提出を受ける場合は問題は生じません。

 運転者が尿の任意提出を拒んだ場合は、強制採尿を行うことになります。

 強制採尿とは、

薬物犯罪を犯した疑いのある被疑者が、捜査機関に対し、尿を任意で提出しない場合に、裁判官の発する令状を得て、医学的な方法により、尿を強制的に採取する捜査手法

をいいます(詳しくは前の記事参照)。

 強制採尿は、裁判官が「強制採尿令状」を発付した場合に行うことができます。

 強制採尿は、裁判官の発する令状に基づき、医師がカテーテルを被疑者の尿道に挿入して尿を採取する方法がとられます(最高裁決定 昭和55年10月23日)。

 強制採尿は、カテーテルを強制的に尿道に挿入するという被疑者に苦痛を与える方法で行われるので、医師が行う必要があります。

裁判例

 アルコール保有量測定のための尿検査に関する裁判例として以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和48年12月10日)

  酒酔い運転等の罪により身体の拘束を受けている被疑者につき、アルコールの含有量を測定する意図を秘してその尿を採取し、アルコール含有量を測定した行為を適法した判決です。

 裁判所は、

  • 逮捕した被疑者からアルコール保有量検査のための採尿は、刑訴法第218条2項に列挙する各行為と同列であるから、被疑者の身体を毀損又は生理的機能に障害を与える可能性もない自然に排泄された尿は被疑者の告知及び同意がなくても、これを採尿し、鑑定資料とした鑑定書は違法ではない
  • 酒酔い運転等の罪により身体の拘束を受けている被疑者が呼気中のアルコール含有量の検査を拒否している場合において、同人にアルコール含有量を測定する意図を秘してバケツ内に放尿させ、これを採取しても、右放尿行為がその意に反して強制的に行われたものでない限り違法ではない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和49年11月16日)(昭和50年12月6日最高裁上告棄却)

 尿中のアルコール含有量を測定する目的で留置場内に差し人れた便器に放尿させて尿を採取し、本人の承諾のないまま鑑定し、その結果を飲酒運転の証拠とした行為について、一審(東京地裁)では違法として無罪判決を言い渡しましたが、控訴審(東京高裁)では違法ではないとして一審が無罪判決を言い渡したのは誤りであるとした事例です。

 東京高裁は、

  • 被疑者が自ら排せつした尿をそのまま採取しただけで、その身体を毀損するなどのことの全くないものは、むしろ刑訴法第218条2項に列挙する各行為(身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、前項の令状によることを要しない。)と同列に考えるのが相当であると解されるので、たとえその排せつした尿を飲酒検査の資料とする意図のあることを告知しなかった場合であっても、憲法及び刑訴法の規定する令状主義の原則及び適正手続に違反する無効の証拠収集であるということはできない
  • とすれば、右鑑定書を事実認定の証拠とはなしえないものとした原判決には、訴訟手続の法令違反があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、破棄を免れない

と判示しました。

東京高裁判決(昭和49年12月24日)

 裁判所は、

  • 被告人が重傷で病院において治療中に導尿により無意識に体外に流れ出た尿を病院から任意提出を受け、これを鑑定資料とすることは違法ではない

と判示しました。

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