前回の記事の続きです。
アルコール保有量測定結果を記した鑑識カードの証拠能力・証明力
道路交通法違反(酒酔い運転)と道路交通法違反(酒気帯び運転)の証拠保全は、基本的に、任意検査として、
- 呼気検査(飲酒検知器によってその者の呼気中に保有するアルコールの程度を測定すること)
- 酒酔い・酒気帯び鑑識カードにより、その者の言語、歩行能力等の外観的観察によること
によって行われます。
運転者が任意検査を拒否した場合は、強制検査として、
- 強制採血又は強制採尿によってアルコール保有量を測定すること
によって証拠保全をはかることになります。
この記事では、「アルコール保有量測定結果を記した鑑識カードの証拠能力・証明力」を説明します。
アルコール保有量測定結果を記した鑑識カードは、警察官が、運転者に対して呼気検査等を行い、アルコール保有量の測定結果等を書面に記載したものです。
アルコール保有量測定結果を記した鑑識カードの証拠能力・証明力について言及した以下の判例・裁判例があります。
甲府地裁判決(昭和46年12月24日)
酒酔い鑑識カードの証明力について判示した判決です。
裁判所は、
- 証人の証言により飲酒検知時において、被告人の吐く呼気から酒の臭いがしていたとされ、被告人の公判廷における供述にもそのおり上司から酒の臭いを指摘された事実があったことなどを併せ考えると、当然被告人がその身体内に呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコールを保有していたという鑑識カードの記載は十分信用できる
と判示しました。
東京高裁判決(昭和47年4月21日)
酒酔い鑑識カードの証拠能力について判示した判決です。
裁判所は、
- 酒酔い鑑識カードの化学判定欄は、司法警察職員が、その職務を行うにあたり検知管を使用して呼気中のアルコールの程度を計った結果を観察したところを記載したもので、その性質において検証調書または実況見分調書と共通なものがあり、しかも当該職員としてその検知の結果を後日までいちいち記憶して証言することは期待しがたいものであることにかんがみれば、右は刑訴法第321条3項の書面に準じ、作成者においてその作成の真正であることを供述すれば証拠能力を認めるのが相当である
- 酒酔い鑑識カードの本人との問答を記載した欄は、そこに記載された本人(被告人)の答えは、一面飲酒の状況などについての供述の性質を有するものであるが、これに先だって供述拒否権のあることを告げられた形跡もないばかりか供述者の署名押印を欠いているので、同意のない以上これを証拠にすることはできないが、他面その答えの内容いかんによっては、それ自体が本人の酒に酔っていることを示す証拠として意味をもつ場合があるので、その答えを供述証拠として使用するのではなく、非供述証拠として使用する場合には、その記載は本人の外観動作などを観察したところを記載したものに類似するから、そのかぎりにおいては、刑訴法第321条3項の書面としての証拠能力を認めることができる
と判示しました。
酒酔い鑑識カードの証拠能力について判示した判決です。
裁判所は、
- 酒酔い(酒気帯び)鑑識カードは書証であるが、この鑑識カードのうち被疑者の氏名、年齢欄、化学判定欄、被疑者の言語、動作、酒臭、外貌、態度等の外部的状態に関する記載のある欄は、調査の日時、警察官の記名押印と相まって、刑訴法第321条3項にいう「検証の結果を記載した書面」にあたり、被疑者との問答の記載のある欄は、必ずしも検証の結果を記載したものということはできず、また飲酒日時および飲酒動機の両欄の記載は、調査した警察官作成の捜査報告書たる性質のものとして、刑訴法第312条1項3号の書面にあたると解する
- このように解しても憲法第37条2項に違反するものではない
と判示しました。
東京高裁判決(昭和61年2月4日)
裁判所は、
- 鑑識カード作成上、指定されている判別方法によらず、その直立能力、歩行能力を判定し、鑑識カードに「約3秒でふらっきはじめた。」、「異常歩行(左右にゆれる。)」と記載したものであり、判定方法は妥当なものであったとはいえないが、これら事実も、本件運転を酒酔い運転と認定することを妨げるに足りるものではない
と判示しました。
東京高裁判決(平成6年8月9年)
被疑者が警察官による停止の指示を無視して速度違反等を繰り返して逃走した事案において、手錠を掛けたまま行われた飲酒検査にて作成された酒酔い・酒気帯び鑑識カードに証拠能力を認めました。